米国株のセクター分類でよく使われるグローバル産業分類標準(GICS)は、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスとMSCIという世界を代表する指数の開発・運用会社が共同で開発した産業分類です。S&P500はこの分類に準拠し、情報技術(IT)、ヘルスケア、金融、コミュニケーション・サービス、一般消費財、資本財、生活必需品、エネルギー、公益、不動産、素材の11セクターに分かれています。
GICSには11セクター、25の産業グループ、74の産業、163の産業サブグループがあります。例えばITセクターにはソフトウエア&サービス、ハードウエア&機器、半導体&半導体製造装置という産業グループがあるため、アップル(AAPL)もマイクロソフト(MSFT)もエヌビディア(NVDA)もシスコ・システムズ(CSCO)もITセクターに分類されているのです。
ITセクターのソフトウエア&サービスという産業グループは「ITサービス」と「ソフトウエア」という産業に分かれています。「ITサービス」で時価総額が最も大きいのがアクセンチュア(ACN)で、IBM(IBM)を大幅に上回っています。
今回は「ITサービス」に分類されるアクセンチュアに加え、資本財セクターに分類されているもののITサービスを提供するオートマチック・データ・プロセッシング(ADP)をご紹介します。
アクセンチュア、コンサルティングサービス大手
アクセンチュアはコンサルティングサービスを手掛ける企業です。120を超える国・地域で事業を展開し、従業員数は77万人超。主な顧客は企業や政府機関で、コンサルティングの内容次第となりますが、経営効率化に向けてITを活用したソリューションを提供しています。
セグメントは、コンサルティング部門とマネッジド・サービス部門に分かれており、2024年8月期の売上高はコンサルティングが前年比1.2%減の331億9500万ドル、マネッジド・サービスが3.9%増の317億100万ドルです。全体の売上高が1.2%増の648億9600万ドルでしたので、売上比率はコンサルティングが51.2%、マネッジド・サービスが48.8%です。
コンサルティング部門は、クライアントの企業や政府機関などのパフォーマンス向上を実現するためのプランや具体策を提案します。コンサルティングの対象になるのは戦略、経営、テクノロジーなどの分野で、技術統合のコンサルティングも提供します。
主な手段となるのがデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進で、クラウドやデータ、人工知能(AI)の利用を促し、業務の適正化やコスト削減を目指します。最終的にはテクノロジーを利用した売上高の拡大にまで踏み込むようです。
DXはコンサルティング会社にとって有望な領域で、企業の経営改善策のメニューにDXがあるのであれば、受注競争の面でも有利です。というのもDX市場にはコンサルティング会社だけでなく、システム会社やソフトウエア開発会社、オフィス機器メーカーなどが参入。業界ごとに棲み分けを決める境界線が薄れ、さまざまなプレーヤーによる乱戦が続いているためです。
乱戦を勝ち抜くのに重要になるのはやはり人材です。効果的なDXを実現できるエンジニアが極めて重要で、人材の争奪戦も起きていると伝わります。一定数のエンジニアを自社の傘下に収めるためにソフトウエアの開発会社を買収するといったケースもしばしば起きているようです。
アクセンチュアも積極的に企業買収に乗り出しており、2024年8月期には46件の買収に計66億ドルを投じています。このほか研究開発に約12億ドル、人材開発に11億ドルを投じるなど技術面で優位に立つための投資に積極的です。
マネッジド・サービス部門は、かつてアウトソーシング事業と呼ばれており、顧客の業務の一部を外部受託するビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)などで構成されます。コールセンターなどを含むBPOビジネスは企業のDXにとっても重要なパーツで、顧客と接触するBPOビジネスで取得したデータを生かし、DXを推進する手法が採用されています。
アクセンチュアのマネッジド・サービス部門ではデリバリーセンターと呼ぶ拠点を通じて業務を請け負います。BPOの世界拠点を巡っては英語を話せる人が多いインドとフィリピンが競っていましたが、アクセンチュアもこの両国に大規模な拠点を置いています。冒頭に従業員数77万人超と記しましたが、国別で従業員数が最も多いのがインド、次いでフィリピンになっています。
顧客が属するセクター別で売上高が多いのは通信・メディア・テクノロジー、金融サービス、ヘルスケア、消費財、化学、天然資源などです。
地域別の売上比率は北米が47.4%、欧州・中東・アフリカ(EMEA)が35.2%、成長市場が17.5%です。日本は成長市場に分類されており、2024年8月期には日本が成長市場の牽引役になっています。
オートマチック・データ・プロセッシング、HCMソリューションを提供
オートマチック・データ・プロセッシングは企業向けに人的資本管理(HCM)ソリューションを提供しています。企業の人材開発という管理上の難題をビジネス上のアドバンテージに変えるソリューションで支持されているようです。
実際、140を超える国・地域で事業を展開し、顧客数は110万以上と膨大です。業績は2024年6月期決算の売上高が前年比6.6%増の192億300万ドル、純利益が10.0%増の37億5200万ドルで、9年連続の増収増益と着実に成長しています。
サービスは、HCMソリューション、HROソリューション、グローバル・ソリューションに大別されます。このうち膨大な顧客を抱えるのがHCMソリューションです。
HCMソリューションでは、従業員の採用から退職までのあらゆる段階で必要なソリューションをクラウドで提供し、企業を支援します。主に従業員が50人未満の企業に提供しているのが「RUN Powered by ADP」というソフトウエアのプラットフォームです。給与管理、人事管理、税務コンプライアンス管理、労働力管理、労働者の医療保険プランの管理などの機能が備わっており、提供中の企業は89万社を超えています。
従業員が50-999人の中堅企業に加え、従業員1000人以上の大企業を対象とするプラットフォームが「ADP Workforce Now」です。北米の企業向けに従業員管理をアシストする機能を持ち、約8万5000社が利用しています。
このほか米国の大企業向けのソリューションに「ADP Vantage HCM」があります。人事管理、諸手当・福利厚生管理、給与管理、勤怠管理、人材管理といった機能を統合したソリューションです。
オートマチック・データ・プロセッシングはHCMソリューションの中でも給与管理に強みを持ちます。実際に米国では顧客企業からの委託を受け、2600万人以上の労働者に対して賃金を支払っています。実に米国の労働者の6人に1人がオートマチック・データ・プロセッシングを通じて給与を得ているのです。
HROソリューションのHROはHuman Resources Outsourcingの略で、人事業務の外部委託を指します。このうち着実に成長しているのが「プロの使用者組織(PEO)」と呼ばれる事業モデルです。顧客企業とオートマチック・データ・プロセッシングが、顧客企業の従業員を共同雇用する形態を取り、人事業務の責務を分担する仕組みです。中小企業や中堅企業が主要対象で、企業はPEOを通じて人事業務の一部を外部に丸投げし、負担を軽減することが可能です。
HROソリューションではこのほか、大企業の給与管理を代行する総合アウトソーシング・サービスに加え、人材採用を支援する採用プロセス・アウトソーシング・サービスも提供しています。
グローバル・ソリューションでは、多国籍企業などを対象に米国外での人事業務を支援します。テクノロジーを活用し、人事や給与プロセスといった複雑な業務を行う顧客をサポートします。