USスチール買収に懸念される「トランプ・リセット」とは

日本製鉄が買収を計画しているUSスチール社は、12月25日までに生産拠点があるアメリカ東部ペンシルベニア州と、中西部インディアナ州の市長ら20人が「買収承認」を求めて、バイデン大統領に宛てた書簡を公表しました。


買収是非の判断は、バイデン大統領に委ねられた格好となります。とはいえ現大統領の任期はあと1カ月もありません。2025年1月20日の就任日には、300もの大統領令が準備されているという報道もあります。そのなかで、USスチールの買収劇が「覆る」可能性はあるのでしょうか。


USスチール側は買収を希望

この合併劇で勘違いしやすいのは、「日本(日本製鉄)とアメリカ(USスチール)における対立項」では無いという点です。USスチール側、地元の市長はともに買収(=USスチールの救済)を希望しています。合併劇が頓挫すれば、地元産業に著しい損失が生じるためです。地元経済にとって合併破談からのUSスチールの倒産は死活問題であり、首長としては何が何でも止めなくてはいけないものです。


一方の反対派は全米鉄鋼労働組合(USW)など、鉄鋼業界の関連団体を中心としています。日本製鉄が買収することで、積み上げたノウハウの流出や、イニシアティブの移行が懸念されると主張しています。またアメリカ政府も、最大手の製鉄会社が買収されることで、産業力の国外流出を憂いています。審査していた対米外国投資委員会(CFIUS)が判断をバイデン大統領に一任したところが最新情勢といえます。


日本流に考えれば、買収承認の方向性ではないかとも読めます。このような大きな判断を審査委員会が下すにはハレーションが強いため、あくまで大統領が決めた体にして、最終決定とする体裁です。12月26日現在、バイデン大統領の意思決定は伝わってきておらず、「アメリカの産業を守る」という趣旨で合併反対を貫く可能性もあります。



「トランプ・リセット」に注意したい

問題を複雑化させているのが、バイデン現大統領の任期があと1カ月も無いばかりか、次に控えているのがトランプ大統領という点です。2017年の一期目の就任時、トランプ氏は就任時に「医療保険制度改革(オバマ・ケア)の撤廃」や移民政策の大統領令を公布しました。今回も同様に、民主党から共和党の政権交代です。前任のオバマ大統領による民主党政権を覆すといった意味では、今回のUSスチール買収も対象になる可能性があります。


現状、トランプ次期大統領もUSスチール合併には反対の意を唱えています。ただバイデン氏の意思決定を覆すという名目に立てば、2025年1月には合併承諾からの再拒絶という可能性もあります。この意思決定によって、日本製鉄はもちろん、多くの銘柄に影響が現れるでしょう。


次期政権は合併劇に「賛成」する可能性が高いのでは

現大統領・次期大統領ともに反対を表明している本件ですが、筆者は急転直下、トランプ氏が賛成に転じると考えています。それは前述したペンシルべニア州・インディアナ州が11月の選挙において、トランプ氏勝利の大きな勝因となったためです。


インディアナ州はラストベルトの1つであり、従来から鉄鋼業に縁の深い地域です。歴史的には2012年から共和党が長く勝利しています。一方のペンシルベニア州は激戦州に含まれ、大統領選では共和党と民主党が議席を争っていたものの、2024年の選挙ではトランプ氏が勝利しました。この問題は2つの州に限った話ではなく、中西部から東部にかけての共通課題です。トランプ氏がこの問題で舵取りを間違わなければ、トリプルレッドと呼ばれる共和党の強さにさらに拍車がかかることでしょう。



2026年の中間選挙に向けてトランプ氏が重要視するもの

トランプ氏もとい共和党は、決して今回の大統領選で勝利したから、長く安泰ではありません。2026年には再びアメリカ政治の趨勢を占う中間選挙があります。トランプ氏(=共和党)が今回勝因となった州を重要視することは間違いないでしょう。まして同氏は過激な施策を打ち出すうえ、再選の無い「自由な大統領」です。ラストベルトの支持があれば、より自身の主義主張にもとづいた政権運営が可能となります。


そう考えると、バイデン氏の意思決定を覆すよりも、彼らが望んでいる意思決定をする方が重要度は高いと考えられます。地元の首長から書簡が出ている状況であれば、トランプ氏は彼らの味方を謳い、賛成の判断にまわるのではないでしょうか。


個人投資家としては、世界中が注目する個別株に対し、どこまでをコンセンサスと考えるかです。賛成ながらも多くの条件がつき、相場からは「合併承認なのか、拒絶なのかわからない」という玉虫色の結論も考えられます。いずれにしても大きな意思決定となるバイデン氏の判断は25日を起点とした15日後のため、1月10日前後です。この判断にまず注目したいと思います。当事者にとってはもちろんですが、関連銘柄を所有する投資家にとっても、気の休まらない年末年始となるでしょう。


独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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