野球でもテニスでも(筆者はバドミントン愛好家ですが)、早い球や強い球ほど、打ち返したときの強度も強いものとなります。
昨年の大谷選手の打つとんでもない飛距離のホームランを報じたニュースのあと、いよいよ1月20日、トランプ氏が次期アメリカ大統領に就任するという報道が流れます。同氏が強い発信をすればするほど、リターンの強さも比例します。投資家として、そのリターンに注目するという発想があります。
BRICSにインドネシアが加入
2025年1月7日の共同通信は、BRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)にインドネシアが加入すると発表しました。2024年にはエジプトやイランも加盟しており、投資家の印象である「経済発展が特に期待できる5カ国」から、新興国連合の立ち位置に拡大している印象です。また興味深いのはBRICSの次段階とされるグローバルサウスについて、BRICSの中心国であるブラジルが「連携を目指す」と発言している点です。
ブラジルが中心のBRICS、インドが中心のグローバルサウスは重複している国が多いながらも、これまでは独立した印象が強いものでした。BRICS側からの一方的な発信とはいえ、両者が連携を目指しているのは斬新な印象を受けます。
共同通信の記事でBRICSは2024年、米ドル決済に対抗する各国通貨決済の拡大を協議しています。ドル離れを図る動きにトランプ大統領は100%の関税を課すことをちらつかせており、今後あつれきが高まる可能性もあります。
「追加関税」へのリターン
年末年始の経済メディアの特集を見ると、多くの専門家が2025年前半のキーワードにトランプ政権による「追加関税」をあげていました。追加関税はもろ刃の剣です。アメリカが追加関税を設定すれば、相手国もほかの種目で同様の関税を設定するでしょう。
そう考えると、トランプ氏は就任前に、「敵を作りすぎている」ように見えます。経済規模的にアメリカと比較にならない国家ではともかく、BRICSのような経済連合まで敵視するような姿勢は、必ずしもアメリカの国益にはならないでしょう。トリプルレッド(上下院・大統領職)を握るトランプ氏(=共和党)が、どこまで主張を貫くかが当面の注目点となります。
2025年7月、BRICSはブラジルのリオデジャネイロで首脳会議を開く方向で、調整を進めています。トランプ大統領の就任から約半年のタイミングです。この会議で発信されるメッセージとアメリカの対抗策が、投資家にとって大きな判断基準となるでしょう。とはいえアメリカも次回の中間選挙を控えるなか、長期戦を忌避したい思惑もあります。
アメリカ国内からのリターン
トランプ氏が恐れるリターンはアメリカ以外の国家間ばかりではありません。国内反対派からのリターンも、十分に懸念しなければいけないものです。
2025年1月、バイデン現大統領はUSスチールと日本製鉄の買収に対して、Noの意思決定をしました。記事執筆の7日現在、反発は大きく広がっています。当事者はもとより、日本の政財界からの発信は、事態がまだ流動的であることを示しています。
バイデン大統領の意思決定前に書いた記事では、バイデン氏の意思決定に対し、トランプ氏が就任後の大統領令で「覆す」可能性を記事にしました。昨秋の大統領選はアメリカ中東部のラストベルトと呼ばれる地域がトランプ氏勝因の1つとなっており、今回買収を望むUSスチールの事業基盤と重なります。
2026年には中間選挙があります。野党民主党は共和党のトリプルレッドからの奪還を掲げており、共和党の防戦においてもこの地域からの支持は不可欠です。政治的な変遷を見て、新政権があらたな判断を覆すことは十分に考えられるでしょう。投資家としては、それはいつになるのかという点と、日本製鉄の訴訟提起を受けて「司法の判断がどうなるのか」に注目したいところです。
順番も大切です。司法の判断をはじめとした外堀が埋まったあとにトランプ氏が後追いで政治決定をしても、決して「ヒーローにはなれない」ためです。ヒロイズムを充分に意識するトランプ氏であれば、何よりも速やかに意思決定をするのではないでしょうか。台湾に対して積極的姿勢を取ろうとする中国を牽制するためには、日本と微妙な距離感でいるわけにはいきません。
同時並行で隣国カナダのトルドー首相が国内支持の低迷から辞任を発表しました。相変わらずトランプ氏は「カナダ州」と皮肉を伝えています。敵を作りすぎることで何を狙っているのか、それとも華麗な復活劇の絶頂に酔っているだけなのか。トランプ氏が最高権力者とともに、政治的な意思決定の「当事者」になるのはもうすぐです。