なぜアメリカはグリーンランドを欲しがっているのか

現地時間1月20日、ついにドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領に就任しました。第二次トランプ政権の発足です。既に同氏は諸外国に向け、外交をスタートしています。アメリカが関与したと目されるイスラエルとハマスの停戦交渉に、就任前のトランプ氏が関わったという報道もあります(バイデン大統領は否定)。そのなかで世界中を驚かせたのは、デンマーク領のグリーンランドに対して、トランプ氏が購入する意思を示したことです。


グリーンランドはレアアースの宝庫

グリーンランドはスマートフォンなどに使用するレアアースが埋蔵されています。ある調査によれば、その潜在埋蔵量は世界一ともいわれています。グリーンランドの採掘権を持つ企業は続々と中国企業に買収されており、その背景には中国政府の意向もあるといわれています。アメリカとしては今後も高い需要が見込まれるレアアース採掘において、中国にリードされたくないという思惑があります。レアアース以外にも原油や金といった貴重資源も発掘が期待されている未開の地です。


軍事的にも重要地点

1941年にデンマークがナチス・ドイツに占領されると、アメリカはグリーンランドを保護しました。その流れから現在もグリーンランドには空軍基地があります。その代表格である旧チューレ空軍基地は、2023年にピツフィク宇宙軍基地と名前を変え、アメリカの宇宙開発における重要拠点となっています。同基地では、弾道ミサイルへの警戒や人工衛星の監視を行っています。2025年に予定されていたアルテミス計画においても(先日延期が発表)、重要な拠点の1つと考えられます。


「地球」においても、グリーンランドには中国やロシアの船舶が往来し、大国からのアプローチが繰り返されている背景があります。進行する地球温暖化は北極圏の氷を溶かし、周辺の領地をめぐる各国の力学が変化するなかでのトランプ氏の過激な発言です。



デンマークからの独立機運

トランプ大統領は1期目の2019年にもグリーンランドを購入する可能性があることを表明しています。2009年にグリーンランドはデンマークから自治権を取得していますが、現在もデンマーク領であることは変わりません。トランプ氏の発言に対しデンマーク首相は「グリーンランドは売り物ではない」と反発していますが、トランプ氏の思惑はどのような点にあるのでしょうか。バイデン政権への移行により買収の機運は消滅したものの、政権復活により再び注目の的となった状況です。ただ、おそらく今後買収を成功させることにはならないと予測します。


グリーンランドの世論を親米にすること

グリーンランドの住民としては、レアアースの採掘技術を前進できる国や民間企業との連携を望んでいます。歴史的に関係の深いデンマークとの関係を重視する意見もありますが、経済大国との関係近接を望む声が高まっている印象です。


トランプ氏はいつもの口上で軍事力の行使や、いまや口癖ともいえる関税を持ち出していますが、国家間で買収が成立する可能性は著しく低いです。ましてアメリカの国土と遠く離れた地です。自治政府もデンマークから多額の補助金を受け取っていることもあり、トランプ氏の周波に「国としては」なかなか動きづらいところです。


ならば同氏はグリーンランドの民衆にアピールし、盛り上げ、自治政府にプレッシャーをかけることを意図しているようにみられます。ビジネスマンとして、ディール(取引)においてステークホルダーの大勢が意思決定に関わることがわかっているのでしょう。グリーンランドをトランプ氏の長男が訪問したことも、あくまで国家間の取引ではなく、民間重視の姿勢を見せたい同氏のメッセージと考えられます。



トランプ政権に見える外交力の向上

一連の動きからは、二期目のトランプ政権に見える外交力の向上です。「うまくやっているな」という言葉が適切でしょう。関税においても同様で、「関税をかける」といいながら優位性のある二国間貿易、もしくは少数国間の貿易関係に持ち込む強かさを感じます。


日本に関して考えます。日本とアメリカのあいだで追加関税が設定され、特定の輸出品目に影響が生じる可能性もゼロではないでしょう。ただ、中国と緊張状態に陥る可能性が高いトランプ政権にとって、日本とのあいだにも緊張感が増すことは「敵を増やすこと」に繋がります。国境を接しているカナダやメキシコとも親密とはいえないスタートのため、日本との関係構築は優先順位として先送りの状況になるのではないでしょうか。


緊張状態にある国との仲介役に日本が乗り出していって、対アメリカに対して対抗軸を作ることも1つの戦略ですが、ビジネスマンであるトランプ氏はそのような「誠意の無い動き」を嫌うことでしょう。トランプ氏と強固な信頼関係を築いた政治家が亡くなってしまったこともあり、まずは関係構築を優先させるべきと考えます。


そう考えると、数週間から1カ月範囲で投資判断を行う「スイングトレード」の対象としては、トランプ氏就任はまず様子見の判断をすべきと思います。同氏から発信される、大統領令の内容に注目しましょう。

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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