米連邦準備理事会(FRB)は2024年12月に開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利をさらに引き下げました。消費者から預金を預かる銀行は通常、利上げ局面のほうが純金利マージン(NIM)が高くなり、利ざやが広がります。
ただ、ウォール街を代表するような米国の大手金融機関の一部は証券を取り扱う投資銀行業務の比重が大きいという特徴があり、利上げが必ずしも有利に働くとは限りません。もちろんウェルズ・ファーゴ(WFC)のように伝統的にリテール業務や法人向けの貸し出しなどに重点を置く金融機関もあるのですが、低金利環境が業績を押し上げるパターンも多いようです。
大雑把に言えば投資銀行型は手数料、商業銀行型は金利が主な収益源です。ちなみに米国の6大銀行の2023年12月期決算をみると、純営業収益に占める純金利収入の割合は、シティグループ(C)が70.0%、ウェルズ・ファーゴが63.4%、バンク・オブ・アメリカ(BOA)が57.8%、JPモルガン・チェース(JPM)が56.5%です。もともと商業銀行だった金融機関に加え、商業銀行と証券会社が合併して誕生した金融機関もこの比率が高いようです。
一方、投資銀行を主力とする金融機関はこの割合が低く、モルガン・スタンレー(MS)が15.2%、ゴールドマン・サックス・グループ(GS)が13.7%にとどまっています。今回はまず、純金利収入比率の低いゴールドマン・サックス・グループからご紹介します。
ゴールドマン・サックス・グループ、ウォール街を代表する投資銀行
ゴールドマン・サックス・グループ(GS)はウォール街を代表する投資銀行のひとつです。企業合併・買収(M&A)の助言や仲介などをはじめとする投資銀行業務に強みを持ちます。
収益源を多角化するために消費者向けのビジネスにも乗り出しましたが、最近ではこうしたビジネスの一部を売却するなど規模の縮小を図っています。典型的なウォール街の投資銀行への回帰が鮮明になっていると受け止められ、好意的な見方も多いようです。
消費者向けビジネスのうち、住宅修繕向け融資を手掛けるグリーンスカイ・ホールディングスの売却が2024年1-3月期に完了しました。2023年10月に投資ファンドを含む投資家連合に事業と貸出債権を売却すると発表しており、手続きを進めていました。ゴールドマン・サックスは2022年1-3月期にグリーンスカイを買収しており、わずか2年で手放す結果になりました。
また、資産管理・富裕層管理部門に組み込まれていたパーソナル・ファイナンシャル・マネジメント(PFM)事業を2023年11月に売却しました。一般向けの資産管理サービス事業を手放し、資産規模が3000万ドルを超える「ウルトラ・ハイネット・ワース」と呼ばれる超富裕層のそのまた上位の層に対するサービスに特化するのが狙いです。
ゴールドマン・サックスはさらに消費者向けバンキングのデジタルプラットフォームである「マーカス」も縮小させています。マーカスは2016年にスタートしたサービスで、消費者向けにパーソナルローンや貯蓄口座などを提供していましたが、2023年に個人向けローンの大半を投資会社に売却しました。
このほかにも2024年4月には「マーカス・インベスト」のブランドで展開していたロボットアドバイザー事業を手放すと発表しています。ロボットアドバイザー事業は、ネット上で個人に資産運用をアドバイスする事業を展開しており、やはり個人向けサービスからの撤退を意味します。
さらに自動車大手のゼネラル・モーターズ(GM)と手掛けていたクレジットカード事業の提携も解消する方向です。この事業では融資残高が約20億ドルに上るとみられており、英バークレイズに事業を売却するとの観測が報じられています。
なかなか成果が出ない消費者向けビジネスに見切りをつけ、軌道修正を明確にした戦略は市場でおおむね好意的に受け止められているようです。2022-23年にかけて苦戦していた業績が2024年に入り好転した点も追い風で、高評価につながったとみられます。
直近の業績では2024年7-9月期決算は売上高に相当する純営業収益が前年同期比7.5%増の126億9900万ドル、純利益が47.7%増の27億8000万ドルでした。
セグメント別では、グローバルバンキング&マーケッツ部門の純営業収益が6.8%増の85億5400万ドル、純利益が10.7%増の24億9000万ドルと好調でした。助言業務、株式引き受け、債券引き受けの各事業がそろって増収で、債券・通貨・商品(FICC)事業は減収となりましたが、エクイティファイナンスと株式仲介は順調に収益を伸ばしています。
アセット&ウェルス・マネジメント部門ば純営業収益が16.2%増の37億5400万ドル、純利益が7.8倍の7億2700万ドルと利益が急増しました。事業別では減収となった債券投資以外は好調でした。
消費者向けビジネスなどで構成するプラットフォーム・ソリューション部門は純営業収益が32.4%減の3億9100万ドルに縮小しました。純損失は4億3700万ドルで、前年同期の4億6100万ドルに比べてほぼ横ばいで推移しています。
チャールズ・シュワブ、米国のネット証券大手
チャールズ・シュワブ(SCHW)はテキサス州に本社を置く金融サービスの大手です。ネット証券としては米国最大級で、子会社を通じて証券仲介や決済サービスなどを提供します。また、ウェルスマネジメント、資産管理、銀行業務、カストディ業務、助言業務などの金融サービスも手掛けています。
2023年末時点の証券口座は3480万件、銀行口座は180万件、預かり資産は8兆5200億ドルに上っています。証券業務では株式や債券の仲介、信用取引、先物取引、為替取引などで、決済サービスも提供しています。
主力のネット証券事業は子会社を通じて展開しています。2020年には同業のTDアメリトレード・ホールディングスを買収し、業容を拡大させました。TDアメリトレードが持つ約1500万の顧客口座や1兆6000億ドルの預かり資産はチャールズ・シュワブの証券子会社への移管が完了しており、TDアメリトレードのブランドは廃止する方向です。
このほかのプロダクトでは会社型投資信託のミューチュアル・ファンドや上場投資信託(ETF)などがあります。ETFは他社のプロダクトを販売しますが、自社で管理するETFも取り揃えています。
プライベート・エクイティや不動産などを対象とするオルタナティブ投資も取り扱います。さらにチャールズ・シュワブ・バンクを通じて銀行業務も手掛け、住宅ローンなどを提供しています。