なぜ2027年大河ドラマに「小栗上野介忠順」が選ばれたのか 「逆賊の幕臣」の主人公を松坂桃李が演じる

2025年3月3日、NHKの2027年大河ドラマが発表され、俳優の松坂桃李さんが主演を務める「逆賊の幕臣」となることが発表されました。松阪さんは日本の近代化に大きく貢献した主人公の小栗上野介忠順(おぐりこうずけのすけただまさ)を演じます。小栗は1827年生まれのため、ドラマが公開される2027年は生誕200年となります。


なぜこのタイミングで「小栗上野介忠順」なのか

制作統括の勝田夏子氏は発表会見で「外国相手に見せる交渉術や、勝海舟など時の政権との「ライバル」関係をあげました。


小栗は1860年、万延元年遣米使節団の目付としてアメリカに向かいます。この時の隠れた目的が「通貨の交換比率の交渉」です。日米和親条約によってアメリカの銀と日本の金の評価が不公平に定められたため、大量の金が日本から海外へ流出する状況となっていました。小栗はアメリカと交渉することで修正を試みますが、合意をすることはできませんでした。ただ、欧米列強が小栗、および日本人の交渉力に高い評価をするきっかけになったといわれています。


ロシア軍艦対馬占領事件

小栗の外交力を示すもう一つの見せ場が対ロシアとの関係です。1861年、ロシア帝国の軍艦が対馬を占拠し、長期間にわたって居座る事件が発生します。当時のロシアが欲しがっていた不凍港を得ることが目的です。ともすれば日本本土の目と鼻の先に外国の軍事拠点が設けられることを危惧した江戸幕府は、外国奉行であった小栗を派遣します。


小栗は幕府の代表として、対馬藩との面会(占領の正当化)を望むロシアと交渉します。このときの交渉は「タフ・ネゴシエーター」として後世に語り継がれるものでした。しかし最終的にイギリスの介入によりロシアは撤退します。



現在日本が挟まれる大国論理

現在もアメリカのトランプ大統領や中国の習近平国家主席など、大国を率いる個性的なリーダーに日本は挟まれています。日本は時にアメリカ、時に中国と交渉しながら、自国にとってベストの選択肢を選び続けています。


先般の「日米首脳会談」でも、ネゴシエーターを自認するトランプ大統領とのあいだで、水面下で多くの交渉があったことは間違いありません。アメリカと対峙する国家のなかにも、トランプ氏(およびアメリカ)に対して様々な意思決定があります。その意思決定を受け、我々は株式投資を進めたり、仕事を展開したりしています。それは欧米もウクライナも一緒ですし、「停戦交渉」のもとで対峙するリーダーは時に感情的になることも武器のひとつです。日本においても2025年現在の追加関税の問題など、予断を許さない状況が続いています。


「逆賊の」の意味

一方で小栗上野介は国内政権における最終的な意思決定の主役となったことはあまり多くありません。ロシアによる対馬占領の折も「対馬を直轄領とし、(対馬藩ではなく)幕府の正式外交として行うこと」を主張しますが、当時の老中たちに受け入れられず、外国奉行を辞任しています。生涯において辞任や罷免が多かったのも、小栗の特徴です。小栗が時代に合わなかったのか、時代が小栗に追いつくことはできなかったのか。筆者の大好きな高杉晋作にも通じる天才肌を感じます。


幕臣として大政奉還を迎えた後、小栗は群馬県高崎市へ隠遁するものの、現地の暴動を鎮圧したことが「騒乱の準備をしている」とされ、ろくな取り調べも受けないままに逮捕、斬首されます。そのためこれまでは通史的な知名度は低く、コアな歴史ファンが知っている人物という扱いでした。そして最終的に反新政府の立場で死を迎えたことから、明治政権からすればまさに「逆賊」です。


一方で後年、大隈重信は「明治政府の施策はほとんど小栗の(施策の)模倣だった」と述べているほか、日本海軍を率いた東郷平八郎は「小栗が日本海軍の基礎を作ってくれたおかげで、日露戦争に勝てた」と発言し、小栗の子孫に対し丁重に接したというエピソードも残ります。



誰々が味方(為政者側)で、誰々が敵という歴史史観に対し、ここ数年のNHK大河ドラマは修正を試みることが多くありました。明智光秀や松永久秀、大久保利通、そして2025年の田沼意次に続き、来たる2027年には小栗にスポットライトがあたります。


なお大河ドラマで大きく注目される「ご当地」には、まず群馬県高崎市が該当します。小栗が最期を迎えた地です。ここには「くらぶち小栗の里」という道の駅があり、今後観光スポットとなっていくことでしょう。筆者も一度立ち寄ったことがありますが、小栗の生涯を紹介する資料館がありました。また小栗が海軍の基礎を築いた神奈川県横須賀市も注目されることでしょう。


日本史において特に幕末期には、「この人が死なずにあと数十年生きていたら」と惜しまれる人材が多いです。小栗が生きていたら、戊辰戦争の1つである箱館戦争で幕府と対峙しながらも、敵将の尽力によって除名された榎本武揚のように明治政府の大臣を歴任していたでしょうか。それとも勝海舟主導の和平交渉に納得がいかず、どこかで本当に乱を起こしていたのでしょうか。ドラマでは2歳年上の勝を誰が演じるのかも大きな見どころです。

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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