日本時間2025年2月8日未明、アメリカでトランプ大統領と石破首相による日米首脳会談が実施されました。「両氏のケミストリーが合うか」と懸念されていますが、今回の会談は2025年の「日本の立ち位置」を決める重要な会議です。
今回何が決まり、何が示唆されたのか。日米首脳会談を速報値で分析します。なお本記事中の「事前のポイント」は首脳会談前に執筆し、「会議後」の部分は日本時間の8日朝、首脳会議を終えて数時間後のタイミングで追記したものです。
日米間の追加関税への言及
(事前のポイント)
今回懸念される最大の関心事は、日米間の追加関税への踏み込みです。トランプ大統領がNAFTA(北米自由貿易協定)のメキシコ・カナダへ見せた「カマの掛け方」を見ると、まず移民や薬物問題を盾に追加関税を掲げ、一歩引いたところに1カ月の猶予を設定しました。日本はどのような温度感になるでしょうか。
(会議後)
今回の首脳会談でこの「カマ」に該当したのは、日本時間8日朝「仮定の質問」として報じられています。石破首相は「日本に関税をかけられたらどうするか」という米メディアに対し、仮の質問には回答できないと返答し、笑いを誘いました。まさに同氏が国会審議で貫いているスタンスです。水面下では実務当事者による駆け引きが進んでいることをうかがわせます。
USスチール問題への言及
(事前のポイント)
首脳会談に先立ち、トランプ氏は現地時間の6日にUSスチールのCEOとホワイトハウスで面会しました。クリープランド・クリフス社のCEOではなく、「USスチールと会った」ことがポイントだと考えられます。同社も、同社の地元であるペンシルベニア州も、日本製鉄による買収に賛成の立場です。
当メディア「USスチールに代表される『トランプ・リセット』とは?」でも言及しましたが、筆者は2026年中間選挙を終点としたどこかで、トランプ氏は日本製鉄による買収の支持派に回ると考えています。中間選挙で共和党の勝利の鍵を握る、ペンシルベニア州をはじめとした「ラストベルト」の支持を考えると、民主党とも距離の近い鉄鋼組合より優先度が高いのではと考えるためです。
(会議後)
トランプ大統領は共同記者会見で「買収ではなく投資だ」と述べました。これがベンチャー企業の買収に見られるマジョリティ(50%以上の経営参画)ではなく、マイノリティ(49%以下の経営参画)を指しているのか、それとも米政府(鉄鋼組合?)主導において日本製鉄の最新技術共有なのか定かではないですが、いずれにしても日本製鉄の参画は前に進んだと考えられるといえるでしょう。トランプ大統領の「次週、日本製鉄のトップと会談し。朝廷と仲裁を行う」という発言が何を意味しているかを分析する期間となるでしょう。
なお、その背景にラストベルトの熱望がどれだけトランプ氏を動かしたかは、共同記者会見の時点ではわかりません。
台湾に対する姿勢
(事前のポイント)
中国と緊張状態にある台湾については、今回それほどの言及は無いのではと予測していました。いま中国とのあいだで緊張状態に油を注ぐ理由が無いためです。これは日本にとってもチャンスで、東アジアの防衛戦線についてイニシアティブを取れる協議内容といえます。
(会議後)
台湾および対中国における発言としては、石破首相が「尖閣諸島に日米安保5条が適用される」と言及したことが注目されています。同法は他国からの侵略に対し、それぞれの国が憲法に基づいて対応することを定めた法律です。また、「日本国の施政の下における領土が対象」としており、尖閣諸島が日本領であることを示したと解釈することもできます。
貿易赤字の解消
両国の最大の懸念となっていた貿易赤字の解消に対し、トランプ大統領は迅速に実行すると述べました。あいまいな表現を避ける同氏の発言としては意外な印象です。具体的にアラスカの天然ガス開発を日本と共同で行うことに意欲を示しています。
また、貿易国に「同等の」関税を課す相互関税について、次週に記者会見を開いて説明すると報じられています。これは対NAFTAにあるような(一方的な)追加関税ではなく、二国間取引に近いものでしょうか。
個人投資家として、共同記者会見が失望を招き、ポートフォリオを見直すようなものではないことは明瞭です。日本製鉄株を所有している投資家は、週明けの相場の反応に期待を持てるものとなるでしょう。天然ガス関連の開発が民間に降りてきた際に、どのあたりの企業と協力して進んでいくかは今後の注目ポイントといえるでしょうか。
いずれにしろ親密な関係としての日米両国は維持できそうで、ほっと一安心の投資家も多いように考えられます。今回は言及されていませんが、次回の来日時におけるトランプ氏の反応によって、更なる期待を持てるものになるでしょうか。石破首相の造詣が深い自衛隊への招待や、もしかしたら鳥取砂丘(石破首相の地元)への招待があるかもしれません。