イーライリリー、糖尿病・肥満症治療薬で躍進
医薬品のイーライリリー(LLY)は、米国株の時価総額でベストテンに入る銘柄です。持続的な株価上昇で存在感を高め、自社より上位に位置するのはエヌビディア(NVDA)やアップル(AAPL)、マイクロソフト(MSFT)、アマゾン・ドットコム(AMZN)などのマグニフィセント・セブンと数社だけです。
イーライリリーの株価は2010年代にじりじりと上値を広げ、2020年以降に上昇ペースが加速します。特に2022-24年に一本調子で上昇し、時価総額ランキングを一気に駆け上がりました。株価は2024年8月をピークにやや調整していますが、医薬品銘柄では時価総額で第2位のジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)を大きく引き離して首位を独走しています。
株価急騰の原動力になったのは、糖尿病治療薬「マンジャロ」と肥満症治療薬「ゼップバウンド」の好調な販売です。「マンジャロ」は2024年12月期の売上高が前年同期の2.2倍に当たる115億4000万ドルに達し、「ゼップバウンド」は28.0倍の49億2600万ドルでした。イーライリリーの製品別売上高で1位と4位にランクされ、両製品の売上高は全体の36.6%を占めます。
「マンジャロ」と「ゼップバウンド」は実は同じ成分の医薬品で、一般名は「チルゼパチド」です。満腹中枢に働き掛けて過剰な食欲を抑制するホルモン「GLP-1」の働きを利用します。まず「マンジャロ」という商品名で糖尿病治療薬として発売されると、世界的な大ヒットとなり、品切れで入荷待ちという状態が続きました。そして肥満症治療の薬効も認められると、「ゼップバウンド」という商品名で発売され、2023年10-12月期から売上高が計上されています。
イーライリリーはもともと心血管・代謝疾患の治療薬に強みを持ち、糖尿病治療薬の「トリルシティ」や「ジャディアンス」などが主力でしたが、2024年12月期には「トリルシティ」が売上高を落としています。「マンジャロ」と「ゼップバウンド」に需要が移ったとみられますが、心血管・代謝疾患の治療薬全体では売上高が50.1%増の295億2100万ドルに急成長しました。
このほか、がん治療薬は売上高が31.4%増の87億5200万ドルで、主力の「ベージニオ」が37.4%増の53億700万ドルとけん引役になっています。免疫疾患の治療薬は15.7%増の43億9300万ドルと堅調で、乾癬治療薬の「トルツ」が18.1%増の32億6000万ドル、関節リウマチ治療薬の「オルミエント」が3.8%増の9億5700万ドルと着実に伸びています。
アッヴィ、M&Aの成果で美容医療にも業容拡大
アッヴィ(ABBV)は研究開発型のバイオ医薬品会社です。リウマチ系疾患、皮膚疾患、消化器系疾患、眼科系疾患、がん、精神・神経疾患、ウイルス感染症などの領域で治療薬を開発しています。また、美容医療の分野にも強みを持ちます。
2024年12月期の売上高は前年同期比3.4%増の563億3400万ドル、純利益は12.0%減の42億7800万ドルでした。乾癬治療薬「スキリージ」の売上高が50.9%増の117億1800万ドルに達し、製品別では最大です。
関節リウマチの治療薬「ヒュミラ」は売上高が37.6%減の89億9300万ドルに落ち込んだ半面、アトピー性皮膚炎の治療薬「リンヴォック」は50.4%増の59億7100万ドルと好調でした。がん治療では慢性リンパ性白血病の治療薬「イムブルビカ」が6.9%減の33億4700万ドルにとどまりましたが、急性骨髄性白血病の治療薬「ベネクレクスタ」が12.9%増の6億7700万ドルに伸ばしています。
一方、神経疾患治療薬の「ボトックス・セラピューティック」と美容医療の「ボトックス・コスメティック」はそれぞれ年間の売上高が30億ドル前後に達する主力商品で、ともに2020年にアイルランドのアラガンを買収して組み込みました。
こうした成功体験がある中、アッヴィは企業合併・買収(M&A)に積極的です。2023年には抗体薬物複合体(ADC)の開発を手掛けるイミュノジェンに加え、精神・神経疾患の治療薬を開発するセレベル・セラピューティクスを買収すると発表した。
2024年2月にはイミュノジェンの全株式を101億ドルで買収。8月には87億ドルでセレベル・セラピューティクスの買収を完了させています。買収を通じ、それぞれの事業領域の強化を図る方針です。