投資用マンションが「勝手に売却される」前に法改正の把握をしよう

マンションの老朽化が社会問題となるなか、日本政府はマンションの管理や再生をスムーズにする目的で関連法の一括改正案を決めました。国会審議を経て、来年4月の施行を目指します。不動産の再生には必要な法改正である一方、不動産の投資家にとっては、自分を除いて所有不動産の意思決定がされる可能性があります。望まぬ所有物件の売却が行われ、「そんな法改正は知らない」となる前に、いま国会で何が話し合われているのかを把握しましょう。


マンションの管理や再生に「全員の同意」が不要となる

改正案において、現行法と大きく異なるのが以下の2点です。


大規模修繕について

現行法はマンションの大規模修繕について、「所有者全員の多数決が必要」です。これが法改正では、「集会出席者の多数が賛成」することによって意思決定できるように変わります。居住用物件であれば管理組合の集会に出席する人でも、投資用物件となれば別です。居住地と離れた物件を所有している場合も多いでしょう。そのときに大規模修繕の実施が可決され、修繕積立金の投入や値上げに繋がる恐れがあります。転じて、不動産投資のランニングコストの上昇に繋がります。特に最近は大規模修繕の素材や人件費が高騰しており、全所有者の合意を経ないコンセンサスは混乱を招くのではと危惧されています。


一括売却や取り壊しの賛成要件

同様に現行法では、物件の建て替えのみ所有者の「5分の4の同意」が必要です。一括売却や取り壊しなどは更に厳しく、所有者全員の賛成が必要でした。全員の同意を取らない限り履行してはいけない「私権の制限」であるためです。法改正ではこの点を緩和し、売却や取り壊しも5分の4に「緩和」されることになります。


大規模修繕と同様に投資用物件として所有をしている場合、同意をしないままに所有権が抹消されてしまう可能性が生じます。


これらの一括改正案は、国会審議を経て2026年の4月施行を目指します。2025年3月現在、衆議院は少数与党です。そのため充分な話し合いが行われるのではとの期待はあります。一方で先日、空き家への執行力を担保した空き家対策特措法が施行されました。このときと同様、与野党通じて問題意識は高く、成立に向けて大きな反対が起こる可能性は少ないとも考えられます。



背景にあるマンションの老朽化

この背景には、社会問題となっているマンションの老朽化があります。老朽化を放置すれば倒壊や廃墟化など地域に与える影響が大きいものです。これまでの全員による同意は修繕・再生プロセスとしてのハードルは高いものでした。公共の利益を重視し、私権を制限させる仕組みが整っていくことになります。なお、国土交通省によると、築40年以上の老朽分譲マンションは全国で全体の2割を占めます。決して、少数の物件による稀少問題ではないことがわかります。


「これからの日本」に向けた法改正に追いつきたい

今後、日本では本件のように再整備に向けた法改正が増えていくことでしょう。不動産に限っても、田畑や山林など、これまで私権を優先することで行政が手をつけてこなかった部分にも「公共の利益」の対象となります。


田畑や山林の場合、より大きな問題になるのが高年齢の親世代が所有しているケースです。プラスの資産というよりも、どちらかというと「相続して処理に困る」方向性の資産であることが多く、また先日の大船渡の火事のような自然災害のリスクがあります。


宅地であれば造作ない隣地所有者との関係や境界確定なども、とても難易度の高い資産です。



次は海外所有の不動産に対する法改正か

資産という定義の広いなかでも、特にどのあたりに法改正の必要があるでしょうか。筆者が最も注目しているのが、リゾート地などにみられる「海外の方が所有する不動産」の対応です。北海道のニセコや富良野などは、中国などの富裕層が次々と購入し、所有権の移転が進んでいます。


そのようなリゾート地に不動産を所有する人は、まず本記事で取り上げたマンション関連法の一括改正に乗り遅れないようにしましょう。また、国のみならず地方自治体が取り組む条例改正にも乗り遅れないことが大切です。長くその地で生活する人たちと新しく住み始めた人、日本国外の人が混在するコミュニティには、常に最新の状況に対応したルールが必要です。


これまでは日本という同一の文化圏のなかでの話し合いで行われたこれらの意思決定も、国の財産所有の形が変わり、今後はボーダーレスの前提で進められていくことになるでしょう。中国在住の方が所有している物件に対し、随時意思決定を確認する難易度はとても高いものです。その背景もあっての緩和措置であることが予想されますが、一方で議論が不十分のまま大きな法改正が決まっていく怖さも感じます。まずは与野党含めた国会審議に注目していきましょう。

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

工藤 崇の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております