「コツコツ資産形成に励んできたけれど、終わらせ方はどうしたらいいの?」という質問をよくいただきます。老後の生活資金として投資信託を積み立てたのであれば、リタイア時に一気に売却せず、運用を続けながら少しずつ現金化していくとよいでしょう。
全額を一度に売却するのは「いちかばちか」の行為に
投資スタイルは人それぞれ。売買を前提とした投資なら、売却のタイミングは「値上がりしたとき」「投資企業の業績悪化や配当利回りの低下や不祥事、投資環境の変化など、買った時と状況が変わったとき」などが一般的でしょう。
一方、教育費や将来の夢、老後の生活準備資金など将来使う目的で投資をしているなら、使う時期に合わせて少しずつ現金化するのが賢明です。使う直前ギリギリまで売却せず運用しているのはちょっと心配。いざ使いたい時に相場が急落してしまうと、必要な金額を用意できなくなるかもしれません。
投資信託は日々基準価額が動き、資産価値が変動しています。さらに、売却してみないと最終的な受取額が確定しません。一度に全額を売却すると、現金化する価値が1回のタイミングで決まってしまいます。ある意味「いちかばちか」の行為ともいえます。全額売却は、十分に値上がりしていて「もうここで終わりにしてもいいや」と思える場合だけにしましょう。
そこで、買付も長期投資だったように、現金化する計画も、時間をかけて徐々に売却することが大切です。使い道がまとまった金額だとしてもです。いつ、いくらずつ売却するかは、使う予定までの期間に応じて計画しましょう。
また、セカンドライフの生活資金に充てるのであれば、年金などの収入と生活費の差額分程度を徐々に取り崩し、すぐに使わない分は残して運用を続けるとよいでしょう。それによって、順調に運用できれば資産の寿命を延ばすことができます。
忘れてはいけないのは、投資信託は価格変動リスクがあるということ。計画的に早めの売却をし、使う時期まで証券総合口座のMRF(マネー・リザーブ・ファンド)や、普通預金または1ヵ月自動継続などの定期預金で待機するとよいでしょう。
投資信託を徐々に売却するパターンは3つ
投資信託を定期的に売却する場合、主に3つのパターンがあります。毎回同じ金額を売却する「金額指定」、残高の一定割合を売却する「定率売却」、投資信託を毎回同じ口数分解約する「定口解約」です。それぞれ図を使って説明しましょう。
毎回同じ金額を売却する「金額指定」
毎回、決めた金額分の投資信託を売却して現金化する方法です。基準価額が変動していますので、売却する口数(数量)が自動的に調整され、指定した金額が受け取れるように計算されます。【図1】は、毎回3万円を受け取る例のイメージです。
毎回同じ金額を受け取るため、家計管理がしやすいのが特徴です。ローンの支払いに充当するなどの使い方ができます。また、セカンドライフの生活資金に充てる場合、公的年金の受け取りがない奇数月に投資信託を売却するのも一つの方法です。
デメリットは、基準価額が下落したらその分多くの口数を売却しなければならない点です。下落相場が長く続くと、資産の減少ペースが速くなります。
残高の一定割合を解約する「定率売却」
保有している投資信託の口数の一定割合を売却する方法です。【図2】では棒グラフが滑らかに減少していますが、実際には基準価額の変動に応じて保有する評価額が変わりますので、受取金額は多少凸凹します。
デメリットは、受取金額がその都度異なることです。評価額と残高に応じて受け取り額が変わり、だんだん少なくなっていきます。ローンの返済や生活費の補てんなど、必要資金に充てるのは避けた方が良さそうです。
半面、他の方法に比べて運用期間が長く続きやすい点が特徴です。
毎回同じ口数分解約する「定口売却」
毎回、決めた口数(数量)の投資信託を売却して現金化する方法です。口数が同じでも基準価額が変動していますので、その都度、受け取り金額が変わります。【図3】の例では、毎回2万口の売却を一定させますが、売却金額の棒グラフは毎回変動しています。
このケースでは、取り崩し開始の時点の保有口数(数量)から、口数を均等に売却していくため、あらかじめ最終の売却時期が分かります。期間について計画的に資産を取り崩したい人に向いています。デメリットは毎回の受け取り金額が変動することです。
証券会社などの「定期売却サービス」
これらの定期売却は、今後、資産形成のゴールを迎えるにしたがって関心が高まるでしょう。今回ご紹介した3つのパターンを理解していれば、ご自身で取り崩し計画を立てることはそれほど難しくないと思います。
ご自身で考えるのは面倒だとか難しいという方は、投資信託の定期売却サービスを提供している金融機関を利用する手もありますが、まだ少数です。そもそも金融機関は顧客から資産を預かることで利益を上げるのですから、取り崩しに対しては消極的かもしれません。
これまで、金融機関の間では熾烈な手数料引き下げ競争が繰り広げられていましたが、今後はサービス内容の充実に期待したいものです。