NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)で、安定志向の人に向いているとされる代表的な運用は、国際分散投資です。特にリスクを抑えたい人は、国内債券の組入比率が高めになっているでしょう。
ところが、この数年間、分散投資のカテゴリのうち、国内債券で運用する部分の収益率がマイナスになる事態が続いています。「債券運用=リスクが低い」と聞いたのに、「話が違うじゃないか」と思うかもしれませんね。
そこで今回は、なぜ債券運用がマイナスになっているのかを解説します。
「国内債券」のマイナス運用が続いている
まず、近年の運用状況を確認しましょう。
資産運用の投資対象のカテゴリは、主に「国内債券」「外国債券」「国内株式」「外国株式」「その他(不動産や金取引など)」に分けられます。このうち「その他」を除く4つの資産に等配分している公的年金の積立金の収益率を使って、最近10年間の推移を見てみましょう【グラフ】。
【グラフ】中の赤い折れ線グラフが、債券運用の年度ごとの収益率です。2019年度以降(2024年度は第3四半期まで)、マイナスが続いています。
金融の世界で「リスクが低い」というのは、想定した収益率に対して上下動が小さいことを意味します。【グラフ】でも、債券運用は他の資産カテゴリに比べると、かなりリスクが低いことがわかります。
現在、公的年金の積立金は、4資産に等配分しています。全体の4分の1である国内債券の運用が芳しくなくても、収益率のブレが大きい(リスクの高い)外国株式や国内株式の高い収益率によって、全体はプラスになっています。
NISAやiDeCoで「安定」「低リスク」などをキーワードに商品を選んだ人は、国内債券の配分が高めのバランス型で運用している傾向です。皮肉なことに、「なるべく損をしたくない」と思っていた人ほど、現状では低迷しているかマイナスになっています。
金利が上がる場面では、債券価格は下がる
債券投資は、満期まで金利収入があり、満期になると額面が償還されます。債券にはさまざまなタイプがありますが、ここでは、固定金利で満期までが比較的長期間の債券を前提に説明します。
結論から言うと、現在の国内債券の運用は、「世の中の金利が上がる場面では、運用中の債券の価値は下がる」という性質が、そのまま表れています。
投資信託の基準価額は、毎日、組み入れている金融商品の時価で計算します。バランス型の投資信託など、国内債券の配分比率が高い運用では、基準価額が下がっているか、良くても横ばい程度。金利上昇局面における当然の現象です。
債券価格は「魅力のある債券かどうか」で決まる
「金利が上がっているのに、債券運用はマイナス?」と、驚かれたかもしれませんね。では、どうしてなのか、金利と債券価格の関係について説明しましょう。
まず、あなたが年利2%で固定金利の債券を持っているとします【図1】。あなたは、償還まで年間2%の利子を受け取れます。しかしその後、世の中の金利が年3%になったとします。あなたが持っている債券より、高い利回りで運用できる環境になりました。
あなたは、年利2%の債券を売り、その代金でもっと有利な運用をしたいと思うでしょう。
しかし、年利2%の債券より有利な運用が当たり前にできる環境では、誰もあなたの債券を買ってくれません。仕方がないので、あなたは「額面より安いなら買うよ」という人が納得する価格まで、債券を値下げしなければなりません。
このように、高金利になると、それより不利な条件の債券は値下がりします。投資信託に組み入れられている債券がそれぞれ値下がりすると、投資信託の基準価額は下がってしまいます。
反対に、あなたの2%の債券より世の中の金利が低くなった場合が【図2】です。
どこを探しても年1%の金利しかつかないのなら、あなたが持つ年2%の固定金利の債券は、誰もが欲しがる魅力的な運用です。あなたの債券を欲しい人たちが、オークションのように債券価格を釣り上げてくれるでしょう。
なお、ここでは、金利と債券価格の関係のみを述べていますが、実際は「債券の魅力」として、「額面通りに償還できる」など他の側面も債券価格に影響します。
長い目でゆったり構えましょう
債券は、満期までの期間によって、価格変動の大きさが異なります。満期が近い債券は価格変動が小さく、世の中の金利の影響を受けにくい傾向です。一方、満期までの期間が長いほど、債券価格の上下動が大きくなります。
ただし金利が上昇すると、投資信託の純資産は、新たに組み入れた高金利の債券からの利子収入が増えます。金利上昇の初期には苦しかった債券運用は、高金利が続くと徐々に楽になるのが通常です。
低金利が長く続いていたので、初めて金利上昇局面を経験する方も多いと思います。少々値下がりしていても、「今は緩やかな循環の一場面」と、長い目でゆったり構えていただきたいものです。
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