マクドナルドの新CMにて突如現れた「LUNA CHEE(ルナチー)」が大きな話題を呼んでいます。平成の折に一世を風靡した「LUNA SEA」の名曲をオマージュし、新商品の発売を宣伝したものです。それもヴォーカル、バンドともに本人たちの演奏と見間違うような高品質なもの。かつこれら一大リメイクの最大の特徴は、ファンの想像を超えたレベルで「本人たちを巻き込んでいる」点です。平成ブームの続くなか、今回の盛り上がりは何か違うのでしょうか。
本人たちに許可を取るのではなく「巻き込む」
今回採用されたのは1994年に発売された「ROSIER」です。LUNA SEAの3枚目のシングルとして発売された曲はバンドの代表曲となり、1994年の第36回日本レコード大賞で最優秀プロモーションビデオ賞を受賞します。約30年が経過したいまも同世代を中心に広く愛されています。
筆者は40代のため、この曲が発売されたときは12歳、小学校から中学校入学のタイミングでした。最近CMの作り手や決裁権者に同年代の方が増えてきたためか、この時期親しんだ曲を耳にすることが多いです。ヴォーカルの入らないオーケストラ版であったり、ほかの歌い手によるカバー版だったりします。私たちは当然に、本人たちに許可を取ったうえでの二次利用として受け入れます。
今回の「チーチーダブチー」の演奏は、音源と見間違うほど本家に似せた楽曲を使用しています。実際に演奏しているのは我々と年齢が違えど、LUNA SEAの格好良い存在に導かれて音楽の道に進んだ人たちです。公式の情報は確認できませんでしたが、ギターが演奏しているモデルは当時のLUNA SEAメンバーが使ったESPモデルの提供を受けたのではという筋金入りのファンの指摘もありました。
幾重にも重ねたうえに商品に合わせた歌詞が展開されます。ヴォーカルは若手俳優の加藤清史郎さんが務めるも、実際に歌っているのは別人です。長年本家LUNA SEAをリスペクトしたものまねタレントが、やはり歌い方を合わせて披露しています。
本人たち協力のメイキングムービー
圧巻はWEBにて限定公開されている「本人たちが協力したメイキング映像」です。スタジオでの歌入れを指導・監修しているのは河村隆一さん(バンド時はRYUICHI)、他ならぬLUNASEAのヴォーカル本人です。筆者と同世代のほとんどの方は、このメイキングを見て「よく似せているな」から「!?」と言葉を飲み込んだことでしょう。本人が歌唱指導をするなど想像を超えています。撮影時の加藤さんは24歳。偶然の一致か否か、楽曲発売時のRYUICHIさんも24歳でした。
今回の「公認コピーバンド」は以前から部分的に告知されており、音楽メディアからも発信されていました。マクドナルドは何かやってくるなという予測はあったものの、放送開始当日にあまりのクオリティの高さに、一気に拡散されることとなります。
更にCM完成後には、ほかのメンバー全員から感想が寄せられています。すべてのメンバーの反応は好意的で「よくここまで再現したね」「これうちのメンバー弾いてるんじゃないの」「本当にいいと思います、完璧です」と絶賛の声が並びます。40代の往年のファンにとっては、何よりも昔を思い出す映像です(同時に尖った印象のあったメンバーが素敵に年を重ねている姿も副産物としてついてきます)。
ともすればイメージを守るためコメントを出さない手段もあったでしょう。1人2人といった限定的な出演もあったと思います。ところがLUNASEAのみなさんは全員が好意的に、賞賛の言葉を並べています。話題になった背景には、ここまで持ち込んだマクドナルドの全面的な勝利といえます。
笑って認める「こうでありたい」の立ち位置
ほかの記事よりも本稿は筆者が40代であることを強調しますが、まさに今回のマクドナルドの取り組みは「自分たちの年代はこうでありたい」を実践する取り組みです。
企画から許可取り、権利関係、そして公開後のメッセージ。すべてを笑って包み込むことで、大団円を実現しています。マクドナルドによる鉄壁の交渉術があればこそ出来ることで、通常の動画づくりで実現できるクオリティではありません。そして何よりも作り込みの徹底さもまた、本家のメンバーを感嘆させる要因となりました。
楽曲発売日にCDを買って胸を高鳴らせた世代は、10代20代の子どもを持つ親世代でもあります。親が楽しんだ曲を購入し、親子で聞き直すこともあるでしょう。最近の同社の基軸は「文化的な価値を持つコンテンツとの融合」です。広いターゲットこそが想定顧客であり、今回の狙いです。
なおCM公開後、予想通り40代前後の往年のファンはマクドナルドに駆け込み、チーチーダブチーを購入、多くのファンが自分の胃を過信し、胃もたれを起こしているということです。ひとつ後日談として付け加えておきましょう。