中国株、あのテーマはどうなった?

第89回 中国軍事企業:米国防総省、アリババや百度も指定

中国テック大手「BAT」がそろってリスト入り


米国防総省は6月8日、「中国軍事企業リスト」を更新しました。同リストは、米国内で事業を展開している企業のうち人民解放軍とつながりがあると認定された中国企業を列挙するもので、会計年度ごとに更新されます。今回は中国ネット通販最大手のアリババ集団(09988)、人工知能(AI)事業の百度(09888)、新エネルギー車のBYD(01211/002594)と蔚来集団(09866)、液晶パネル製造大手の京東方科技集団(000725/200725)、新薬受託開発の無錫薬明康徳新薬開発(02359/603259)といった、中国を代表する上場ハイテク企業が新たに収載されました。


このリストは2021年度国防権限法(NDAA)「セクション1260H」に基づいており、「1260Hリスト」という別称があります。すでにアリババ、百度と並んで「BAT」と呼ばれるテンセント(00700)や車載電池大手のCATL(03750)も指定を受けており、掲載企業数は188社にまで拡大しました。


米ロビー会社、中国企業との契約解除


1260Hリストに入った企業は、米国政府から「中国の軍民融合戦略に関与している」とみなされたことになります。ただ、市場関係者はこれまで、業績に及ぼす悪影響は大きくないとみていました。リスト収載により米国防総省の調達対象から完全に外れ、同省が関与する契約から排除されるという措置を受けますが、米国の民間企業との契約が制限されるわけではありません。しかも、米国内で行っている事業が限定的な中国企業にとっては、さしたる痛手とはならないという見方です。


ところが、今回のリスト更新後は様相が変わり、実害の兆しが表れています。外電は6月下旬、ワシントンの有力ロビー会社がアリババ集団やテンセントなど中国テック大手との関係を相次いで解消しているようだと伝えました。実際、中国軍事企業リストからの指定取り消しを求めて国防総省を提訴したアリババ集団は、訴状のなかで、リスト収載により複数のロビー会社が契約打ち切りを表明したと主張しています。


2026年6月30日に発効した米国の新法は、中国軍事企業と認定された企業のために活動するロビー会社について、米国防総省が契約を結ぶことを禁じました。つまり、ワシントンのロビー会社は「中国企業」か「米防衛関連企業」かという、二者択一を迫られます。結果として、アリババ集団などは、米政界への影響力を維持するためのパイプを断たれかねない事態となりました。


中国も禁輸リスト駆使、9月の米中首脳会談を前に駆け引きか


中国軍事企業の指定解除を求めているのはアリババ集団だけではなく、無錫薬明康徳新薬開発も米国防総省を相手取った訴訟を米連邦地裁で起こしています。BYDや蔚来集団、京東方科技集団なども、法的手段を視野に入れると表明しました。ただ、香港メディアによれば、こうした異議申し立てが受け入れられるとみる向きは多くありません。


中国政府は対抗措置を打ち出しています。中国商務部は6月13日、米国が中国軍事企業の指定を撤回しなければ、中国側は断固として力強い対抗措置を講じると警告。22日に米国の企業10社を輸出規制対象リストに追加しました。これにより、いかなる国・地域の組織および個人も、中国原産のデュアルユース(軍民両用)品目を対象10社へ提供することを禁じられます。対象企業は無人機(ドローン)メーカーの米レッド・キャット・ホールディングスやその傘下のティール・ドローンズ、特殊車両のオシュコシュ・ディフェンス、レアアースのUSAレア・アースとMPマテリアルズなどです。


一方、米国では、中国をハイテク覇権の挑戦者とみなす見方が超党派で広がっています。トランプ米政権には中国軍事企業リストを、中国との交渉材料として使う意図があるのかもしれません。9月に予定されている習近平国家主席の訪米を前に、米中双方が交渉のカードを積み上げ、あるいは相手のカードを打ち消そうとする駆け引きが活発になりそうです。


●【中国株、あのテーマはどうなった?】第2回 株式市場となじみきれない「軍民融合」

●テンセントが直面するリスク、米中AI規制で板挟みか




この連載の一覧
第89回 中国軍事企業:米国防総省、アリババや百度も指定
第88回 AI関連が上場ラッシュ、トップモデルは誰だ
第87回 ハンセンテック指数:ナスダック追走へ、AIモデル開発2社を採用
第86回 中国自動車業界(その2):EVで狙う北米・日本市場
第85回 ハンガリー政権交代:中国企業の欧州進出に逆風か
第84回 オープンクロ-: 中国AI市場のゲームチェンジャー、テンセントに追い風
第83回 HALO:AIブームからの逃避先、中東紛争で脚光
第82回 ステーブルコインは統制可能か、香港が挑む「実験」
第81回 中国自動車業界、輸出から海外生産へシフト
第80回 「閉じる、は即ち開放」海南自由貿易港の逆説
第79回 香港ステーブルコイン:ネット大手と金融機関が免許争奪戦
第78回 香港ステーブルコインの裏表
第77回 中国映画:官民で描く国産作品の成長シナリオ
第76回 中国本土の投資家が香港市場で買った銘柄トップ10
第75回 「国家隊」その3:対トランプ戦線に参画、中国株ETFを買い増し
第74回 銀髪経済:攻守一体の長寿ビジネス
第73回 全固体電池:車載開始は27年、30年に量産化へ
第72回 中国の家電 その2:DeepSeekがゲームチェンジャー
第71回 ヒューマノイド:2025年は量産元年
第70回 ディープシーク その2:米中プラットフォームが続々提供
第69回 ディープシーク:トランプ氏コメントがまともな理由
第68回 人民元の先安観が消えない理由
第67回 2025年の消費:若者がこだわる6つの新潮流
第66回 新中式飲食業:若者を引き付ける「ネオ中華」消費トレンド
第65回 中央政治局会議 その2:金融政策を「緩和」に転換
第64回 「氷雪経済」が熱い!25年に1兆元突破へ
第63回 中国製ゲーム:世界で勝負、先兵は孫悟空
第62回 観光業界: 25年は休日が2日増加、国内旅行ブーム到来か
第61回 鉄鋼業界:経営統合に再点火、業界団体が政策主導を要望
第60回 少子化:「出産・育児しやすい社会」目指す総合措置を発表
第59回 自動運転業界、「スパイ活動疑惑」にヒヤリ
第58回 伝統の「白酒」:ネット世代は「飲まずに投資」
第57回 中央政治局会議:市場が大歓迎した「3つの異例」
第56回 名月も陰る中国景気、月餅も「お手頃価格」が主流
第55回 中国の家電:勝負の分かれ目は海外、ブランドを世界展開
第54回 中国の金融政策 その2:なぜ中央銀行は独立しているべきなのか
第53回 「高配当株」その2:香港市場、主役はバリュー株に交代か
第52回 中国の金融政策:大胆な利下げに踏み出せない事情
第51回 250日移動平均:香港市場に帰ってきた「ベア」
第50回 米大統領選:香港の投資家を悩ます二重の不確実性
第49回 香港市場の「もしトラ」:米インフレ再燃を予想、金融セクターに「買い」
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第42回 「国9条」:配当利回り重視の投資戦略に脚光、注目銘柄は国有企業
第41回 「啓航企業」:国有企業のゆりかごでユニコーンは育つか
第40回 「kimi」:市場を沸かせる中国ユニコーンの生成AI
第39回 「不動産発展の新モデル」その2:痛みを伴う改革に踏み込めるか
第38回 期待は高い「低空経済」:eVTOL離陸に投資家も浮き立つ
第37回 「洋上風力発電」:低迷を脱するか、行方は政策の風向き次第
第36回 「24年の香港IPO」: 地位回復に向け中国本土、米国と競り合い
第35回 「辰年の投資戦略」:一押しは日本株、A株市場には慎重
第34回 「美麗中国」:習近平氏肝いりの“生態文明”建設事業
第33回 内巻、寝そべり、潤学、献忠学:ネットに見える若者の本音
第32回 住宅神話と「発展の新モデル」: 待ったなし、中国不動産市場の構造改革
第31回 「十不青年」: 家を買わない中国の若者、投資にも興味なしか
第30回 「国家隊」:株式相場を「実弾」で支える官製チーム、その実力は?
第29回 「生成AI」:中国市場を制する一般向けサービスはどれか
第28回 資本市場の活性化と逆行する「IPO抑制」
第27回 消えた「房住不炒」、投資家を走らす
第26回 医薬品業界に嵐を呼ぶか「反腐敗」
第25回 「ハンセンテック指数」3周年を機に巻き返しなるか
第24回 地方歳入増の妙案になるか「城中村」の改造
第23回 中国通信株の未来を担う「工業インターネット」
第22回 「ハンセン指数」上昇シナリオ実現の根拠と条件
第21回 株式市場を揺るがす「人民元相場」
第20回 習近平氏の肝いり「郷村振興戦略」
第19回 習近平色に染まるシン「新型都市化」
第18回 上半期のネット通販王者を決める「618」開幕
第17回 中国の株式相場を動かす「中特估」とは?
第16回「医薬品ネット通販」アリババとJDがしのぎを削る成長市場
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中国株情報部

村山 広介

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。 2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

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