サークル:USDCを基盤とするデジタルドル・インフラ企業

ステーブルコインの金融機能と市場拡大


サークル(CRCL)は、米ドル連動型ステーブルコイン「USDC」を発行・運営する米国のデジタルドル・インフラ企業です。近年、ステーブルコインは新たな資金移動・決済手段として存在感を高めています。ステーブルコインは米ドルなどの法定通貨に価格を連動させたデジタル資産であり、ブロックチェーン上で取引や資金移動を記録し、決済できる「デジタルドル」として利用されています。暗号資産市場では、価格変動の大きい資産に代わる決済手段として利用が広がってきました。


その普及の背景には、従来の金融インフラと比べた場合の利便性があります。国際送金や決済は銀行間ネットワークや中継銀行を経由するため、処理に時間やコストがかかる場合があります。一方、ステーブルコインはブロックチェーン上で24時間送金・決済できるため、資金移動の迅速化や効率化につながりやすい点が特徴です。


出所:サークル決算報告書


このような背景から、ステーブルコイン市場は近年急速に拡大しています。市場規模は2024年末の約1850億ドルから2025年末には約2700億ドルへ拡大し、前年比で約46%成長しました。また市場構造を見ると、テザーが発行するUSDTが約7割のシェアを占める一方、サークルが発行するUSDCも2割台後半を占め、USDTに次ぐ第2位のステーブルコインとなっています。サークルは、こうした市場拡大の恩恵を受ける主要発行体の一つです。


サークルの収益モデル


サークルの主力事業は、米ドル連動型ステーブルコイン「USDC」を中核とするデジタルドルの発行・運営です。USDCは2018年にサークルとコインベースが設立したセンター・コンソーシアムの下で拡大し、2023年8月の再編後は、サークルが発行・ガバナンスを一元的に担う体制へ移行しました。一方でコインベースとの商業的な結び付きは現在も深く、USDCの流通拡大や収益基盤を支える重要なパートナーとなっています。


サークルは、USDCの発行に伴い預かった資金を準備資産として保有し、主に米国短期国債や現金などの安全資産で運用しています。2025年末時点のUSDC流通額は約753億ドルと前年比約72%増加しており、準備資産の利回りは米国の金利環境の影響を受け、2025年Q4時点で約3.8%となっています。同社の収益の中核は準備資産から得られる利息収入です。ただし、コインベースをはじめとする流通・分配パートナーへの支払いが発生するため、USDCの流通拡大は収益機会を広げる一方で、分配コストの増加も伴います。実際に2025年Q4の売上高は約7億7000万ドルとなっており、サークルのビジネスモデルは、こうした準備資産収益を基盤に、その一部をパートナーへ分配する構造といえます。



サークルとUSDCの信用優位


ステーブルコイン市場では、技術そのものよりも発行体への信頼や準備資産の確実性が競争力を左右すると考えられます。実際、2022年のTerraUSD(UST)とLunaの崩壊は、アルゴリズム型ステーブルコインの脆弱性を浮き彫りにしました。また、USDCも2023年にはシリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻を受けて一時的に脱ペッグしました。この経験を受けて、サークルは準備資産の管理において、より慎重な姿勢を強めています。


以上を踏まえると、サークルの強みは、規制の枠組みの下で信認を確保しやすい体制にあります。同社は米国企業として事業を展開し、2025年にはNYSEに上場しました。また、USDCについては準備資産に関する情報を定期的に開示し、第三者による月次保証も受けています。加えて、サークルはブラックロックと連携し、SEC登録の「Circle Reserve Fund」を通じて短期米国債や現金を中心に準備資産を管理しています。こうした運用方針や情報開示の仕組みは、ステーブルコインに対する信頼を支える重要な要素といえます。


一方、ステーブルコイン市場ではTetherが発行するUSDTが最大規模を維持しており、USDCとは異なる信用モデルで成長してきました。USDTが規模と流動性を強みとするのに対し、USDCは準備資産の安全性や情報開示、規制対応を重視する発行体が運営するステーブルコインといえます。特に、サークルが準備資産を短期米国債や現金を中心に管理しているのに対し、Tetherは時期によって金やビットコイン、担保付融資なども保有してきました。このため、USDCの競争優位は技術そのものというより、制度・規制の下で運営される発行体としての信頼性にあると考えられます。


米国規制と今後の展望


米国では、ステーブルコインやデジタル資産市場を制度の枠内に取り込む動きが進んでいます。2025年7月に成立したジーニアス法は、ステーブルコイン発行体に関する基本的な規制枠組みを定めたものであり、米国のステーブルコイン規制の基盤となっています。一方、クラリティ法案はデジタル資産市場全体の市場構造を整理する法案ですが、なお議論が続いています。制度の明確化は、規制対応や情報開示を重視してきたサークルのような発行体にとって追い風となる可能性があります。


もっとも、銀行業界は、非銀行のステーブルコイン事業者が銀行よりも緩やかな規制の下で決済や準預金的な機能を担うことに警戒感を示しています。特に保有者への報酬の扱いは争点の一つであり、実際にコインベースでは、USDC保有に対して年率3.50%の報酬が提示されています。こうした報酬付与は預金流出圧力につながり得るため、CLARITY Actを巡る対立の一因となっています。論点の中心は、銀行預金の代替そのものよりも、規制強度の異なる主体が類似の金融機能を担う点にあります。


そのため、中期的なサークルの成長余地は、銀行預金の直接的な代替ではなく、規制・制度の下でデジタルドルの決済・送金基盤としての役割を拡大できるかにかかっていると考えられます。すなわち、制度整備の進展はサークルにとって追い風である一方、事業領域の上限も制度によって規定されるとみられます。


アナリスト

チョウ シンウ

広州生まれ。香港浸会大学で学士課程を修了後、コペンハーゲン大学にて学び、修士号を取得。香港の金融データ分野における実務経験を経て、現在はDZHフィナンシャルリサーチにてブロックチェーン・暗号資産分野に関する分析を担当している。

チョウ シンウの別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております