荒れ相場では毎月分配投信が売れる?

26日の日本経済新聞電子版で「アクティブ型投資信託の資金流入額、毎月分配型が上位に」という見出しの記事が流れました。

1位は「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Dコース毎月決算型(為替ヘッジなし)予想分配金提示型」であり、ここ6カ月の資金流入額は1652億円だったとのことです。


ちなみに、ここ6カ月間(22年4月25日~10月25日)の米国市場を見ると

NYダウは34049ドル→31836ドル(10月13日に安値28660ドル)

ナスダックは13004ポイント→11199ポイント(10月13日に安値10649ポイント)


と下落しており、言わずとも軟調な相場でした。通常、株安傾向なら投信の解約も増えやすいはずですが、残高を伸ばしているのは不思議ですね。なぜ、このような相場環境下で好調なのか、今回はその理由について考察していきます。


対面証券会社が販売しやすい


理由の1つとして、特に「対面証券会社が販売しやすいから」と考えられます。ここ数年で口座数が急増しているネット証券は、どちらかというと若年層が中心です。将来に向けた資産形成をしようというニーズや、低コスト志向が強い層でもあります。


一方で、対面証券会社の顧客層はリタイア世代が中心です。長期の資産形成をする歳でもないし、今の生活をより良くしたい、心もとない年金収入に上乗せをしたいといったニーズが多い層です。


証券会社もそういった顧客ニーズを重々承知しているので、必然的に毎月分配のニーズが高まりやすい傾向にあります。筆者が証券会社に勤めていた時もリタイア世代の顧客が中心でしたし、同一商品の分配型・無分配型をどちらも提案すると体感で8割の人が分配型を選択していました。


毎月分配型の意外な長所


投資信託を長期的に保有した場合、毎月分配型と無分配型でパフォーマンスに大きな差が生まれます。大多数の人が投資に最も期待するのは値上がりでしょう。とはいっても、必ず値上がりする保証はなく、下げ続けて戻らない可能性もあります。


相場が荒れており、買ったら下がるかも・・・という不安が大きい時期は、どうしても投資を控えがちになりますよね。しかし、毎月分配型は理論上、基準価格の下落が続く状況ではパフォーマンスが無分配型よりも高くなります。


試しにグローバル・ソブリン・オープンの「毎月分配型」と、ほとんど分配金を出さない「1年決算型」を比べてみました。下落局面の参考として、リーマンショック前後となる2007年1月~2009年12月を対象期間としています。

 結果はこの通り。元本では毎月分配型の方が減少していますが、分配金を含めたトータルリターンでは、わずかながら毎月分配型が勝っています。分配金として現金で支払われた部分はその後の下落の影響を受けなくなるため、このような差が生まれます。


人によっては、こんなの誤差だよと思われるかもしれませんが、収入が限られており貯蓄を減らしたくないリタイア世代にとっては、結構重要だったりします。また、値上がりしないと恩恵がないよりかは、タコ足だったとしても分配金が欲しいという人が一定数います。


過去の実績に目がくらみやすい


毎月分配型の特徴として、基準価格が大きく値上がりした時には、ボーナス分配を実施することがあります。普段は毎月1万円の分配金をもらっていたところ、運用実績が良かったので今回は10万円追加しますと言われたら、「なんていい商品なんだ!」と思ってしまいますよね。このため、「値下がりしているときに追加すれば、後々にたくさんもらえる!」という期待感が高まります。リタイア世代は資産に余裕がある人も多いですから、ポンと500万円、1000万円を出します。 


上記の理由もあり、つみたて投資でコツコツと資産残高を増やしていく傾向にあるインデックス投信と違い、毎月分配型の投信は証券会社からの勧誘で残高を急拡大するケースが多いです。


ちなみに、冒頭の「アライアンス・バーンスタインDコース」について、対面大手の買付ランキングを見ると野村証券では3位、三菱UFJモルガンスタンレー証券では1位です。一方でネット証券大手を見ると、楽天証券、SBI証券とも上位10すべてがインデックス型、またはレバレッジ型となっており、対面とネットの違いが顕著ですね。


満足度が高ければよいのかもしれない


正直なところ「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信」A~Dコースの評価はかなり高く、為替ヘッジなしであるB・Dコースについては、コロナショック後の安値~2021年12月末までのパフォーマンスが、NYダウ、S&P500、ナスダックをすべて上回るトップクラスの成績でした。


分配金を出すC・Dコースは支払い方も特徴的で、基準価格に応じて月々の分配金を決める「予想分配金提示型」というスタイルを採用しています。基準価格が高ければ分配金も多く、低ければ少なく、という方式のため、タコ足分配への風当たりに配慮したもようです。


とはいっても毎月分配の宿命を背負っているため、基準価格10,000円割れでも分配金を出す必要があります。基準価格11,000円未満の場合は「基準価額の水準等を勘案して決定」としていますが、10,000円割れでも1万口当たり100円を出しているのが現状です。


1,000万口持っていれば毎月10万円は分配金が支払われますので、米株が大きく下げたところでは買いたい人が増えるのも納得ですね。ただ、米株市場の停滞が続ければ100円以上の分配金は期待感が薄れますし、元本も目減りしかねません。


毎月分配型に共通して言えることですが、「元本は減ってもいいから、預金を取り崩すよりも延命ができれば十分」くらいの気持ちで投資するのがベストでしょう。余談ですが、無分配型を買って定時解約を設定するという方法があります。毎月分配型でネックとなる運用効率の悪さを回避しつつ、疑似的に毎月分配型にする方法なのですが、次回以降にご紹介したいと思います。


日本株情報部 アナリスト

畑尾 悟

2014年に国内証券会社へ入社後、リテール営業部に在籍。個人顧客向けにコンサルティング営業に携わり、国内証券会社を経て2020年に入社。「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別銘柄を中心としたニュース配信を担当。 AFP IFTA国際検定テクニカルアナリスト(CMTA)

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