世界の基軸国であるアメリカが強気の関税政策を取る今日、同国の代わりに存在感を高める国はどこか、という投資家の吟味も進んでいます。EU・インド・アフリカと様々な視点がありますが、本記事で筆者が推奨するのはインドネシアです。なぜこのタイミングでインドネシアなのか、複数の理由から解きほぐします・
東南アジア初のBRICS加盟
2025年1月、インドネシアは東南アジアではじめてBRICSに加盟しました。また2022年にG20議長国、2023年にはASEAN議長国を務め、国際外交におけるキャスティングボードを握りはじめています。名目GDPも平均して5%と安定した成長を継続している国です。GDP5%は、東南アジア諸国のなかでも群を抜いています。
同国は世界の外交における存在感も高めています。これまでのインドネシアは「非同盟主義」を貫いてきました。外交的に特定の陣営に偏らないことで、中立的な立ち位置を維持するものです。前任のジョコ大統領がBRICS加盟に反対だったのも、OECD(経済協力開発機構)や対トランプ政権との兼ね合いを考慮したもの、と分析されています。そしてインドネシアは現在、遷都に向けて邁進しています。
ジャカルタからの遷都
インドネシアの首都はジャカルタです。前大統領のジョコ氏はジャカルタの直面する渋滞や社会インフラの限界から、カリマンタン島にある「ヌサンタラ」への遷都を決定しました。ジャカルタは地球温暖化による水面上昇や噴火のリスクもあります。2024年末に政権が代わり、現大統領のブラボウォ氏は遷都の予算を凍結しているものの、2040年代の遷都完了は変わらないとも見られています。
なおNHKはヌサンタラの現状を報じています。見るからにジャングルの一帯です。ここに首都を移転するのですから、膨大な予算による摩擦は避けられません。
インドネシア関連の投信はどうなっているか
ではインドネシアの指標はどうなっているのでしょうか。経済の勢いを見ると右肩上がりのチャートを期待しますが、実は想定外の下落基調が続いています。代表的な2つの投信を見てみましょう。
イーストスプリング・インドネシア株式オープン
まず1つ目はイーストスプリング・インドネシア株式オープンです。インドネシアの上場株式が対象で、為替ヘッジは設定されていません。
(ノムラ・アジア)インドネシア・フォーカス
続いてノムラのインドネシア・フォーカスです。
2つのチャートを見ると、本記事の勢いを否定するかのように、右肩下がりの月足となっています。ブラボウォ現大統領が進めている軍の役割拡大や財政リスク、通貨ルピア安によるものと見られます。
現状のインドネシアの投資信託は購入タイミングが難しいものです。株式の先行きが不透明な米国とのつながりも深く、短期的に見ると世界経済の悪化に連動して下落を続ける可能性も十分にあります。
2050年にはGDPが世界4位に
一方で長期的に見ると、2050年にはGDPが中国・米国・インドに次ぐ世界第4位になるという予測があります。また人口は世界第4位であり、平均年齢は30.4歳という若年層が多い国です。
ヌサンタラへの遷都は「ジャングルへの首都移転」と揶揄されていますが、同じカリマンタン島の北部に独立するブルネイのように「狭小の国土で発展した都市」を建設する土地のポテンシャルはとても高いものです。カリマンタン島にブルネイ規模の都市が2.3新設されると考えると、インドネシアの国力も大きく増加するでしょう。またカリマンタン島に準じた面積を持つニューギニア島(西半分がインドネシア領土)やシンガポールの南に位置するスマトラ島は未開の地も多く、高い発展可能性を秘めています。
スマトラ島の北部には「マラッカ海峡」があり、国際貿易における大動脈として利用されています。特に中国は国際貿易におけるエネルギー輸送の大半をマラッカ海峡に依存しており、同地における影響力を強めています。なお、遷都予定のヌサンタラには同様に「マカッサル海峡」があり、マラッカ海峡の代替的存在と認識されています。
政権交代リスクや軍事リスクはありますが、中長期的に見ればインドネシアは注目すべき国家です。日本との交流も深く、介護や一次産業で重要な人材となっている「特定技能」において、インドネシアはフィリピンに次ぐ第二位の約4万4000人に達しています。
アメリカの騒ぎに疲弊しているうちに、第三の選択肢は着実に力を伸ばし続けています。