10月ベージュブック:需要鈍化を確認、Fedピボット地ならし誘う

景気後退の文言の登場回数、少なくとも2019年以降で最多


遂に、米連邦公開市場委員会(FOMC)の参加者が、利上げ幅縮小に言及しましたね。その一因を作ったのは、10月19日に公表されたベージュブックだったのかもしれません。


米連邦準備制度理事会(FRB)が10月19日に公表したベージュブック(8月後半から9月後半まで)によると、米経済活動をめぐる表現は「緩慢」とされ、9月分の「前回から概して変わらず」からトーンを弱めた。また、今回は「4地区で活動の横ばい、2地区で低下の報告があがった」とされ、前回は5行が景気後退リスク懸念を指摘した動きと反し、実際に経済活動の減速を確認した。経済見通しも、今回は「経済成長見通しは需要の弱まりへの懸念を受け、より悲観的に振れた」と下方修正。景気後退懸念の文言の登場回数も12回と、過去3年間で最多を更新した。


<経済活動に関するキーワード評価>

キーワードのうち、「景気後退(recession)」の言葉は12回と、過去3年間で最多となった。「不確実性(uncertain)」の登場回数は、前回を下回った。詳細は、以下の通り。


「拡大(increase)」→152回=前回は152回

「力強い(strong)」(注:強いドルの表現を除く)→60回<前回は61回

「ポジティブ(positive)」→10回>7回

「ゆるやか(moderate)」→61回<前回は64回

「緩慢、控え目など(modest)」→65回<前回は66回

「安定的(stable)」→19回=前回は19回

「弱い(weak)」→39回>前回は30回

「低下(decline)」→71回>前回は66回

「減退(decrease)」→32回<前回は33回

「不確実性(uncertain)」→13回<前回は17回

「景気後退(recession)」→12回>前回は10回


チャート:景気後退の登場回数は12回と、過去3年間で最多を更新 



<その他のキーワード評価>

〇「景気後退」


前述したように「景気後退」が登場した回数は12回と、前回の9回を上回り少なくとも過去3年間で最多を更新した。そのうち2回は各地区連銀の要約で使用され、地区連銀別の詳細レポートでは10回登場。ただし地区連銀では5行と、前回の6行(ボストン、フィラデルフィア、アトランタ、シカゴ、カンザスシティ、ダラス)を下回り、今回はアトランタとカンザスシティの2行が抜けた。ただし、ミネアポリスが新たに加わった。なお、景気後退として数えた対象はリセッションのリスクに関する言及のみで、景気後退水準などといったものはカウントしていない。


・ボストン地区連銀 5回>前回は2回

→(要約)見通しは景気後退への恐れが広がり、より悲観的に傾いた。

→(総括)景気後退の懸念が広がり、見通しはより悲観的になったが、多くの関係者は少なくとも自 社のビジネスについては慎重に楽観姿勢を維持した。

→(労働市場)製造業では全体としてゆるやかな採用が行われたが、2023年の景気後退を予測して採用を凍結したメーカーもあった。

→(製造業)2023年についてほとんどの企業先が楽観的な見方を維持したが、した。

→(商業不動産)金利上昇と景気後退への恐れから、賃貸と投資の活動が引き続き抑制されると見込まれた。


・フィラデルフィア地区連銀 2回<前回は3回

→(要約)雇用はわずかに拡大も、景気後退を懸念する声が高まった。

→(労働市場)回答者は景気後退見通しの高まりを報告、ビジネスは減速局面での備えを増強した。


・シカゴ地区連銀 1回=前回は1回

→(総括) 回答者は今後数カ月において成長が鈍化すると予想し、多くは景気後退の可能性に懸念を示した。


・ミネアポリス地区連銀 1回>前回はゼロ

→(労働市場)企業は、景気後退への懸念や雇用の充足が極めて困難であることから、一部の求人について再考したと報告した。


・ダラス地区連銀 3回>前回は1回

→(労働市場) しかし需要の低迷と景気後退懸念から、雇用の減速を示す報告も散見された。

→(製造業) しかし製造業の新規受注は、インフレや景気後退の可能性に対する顧客の懸念を背景に、引き続き弱含みで推移した。

→(非金融サービス)しかし、複数の企業が景気後退への懸念から顧客活動の後退を指摘しています。


なお、NY地区連銀が米10年債利回りと3カ月物Tビルなどで算出する1年後の景気後退確率は9月に23.1%と、8月の25.1%から低下。この景気後退確率は1980年以降、過去6回のリセッション入りで4回、6カ月以内に25%以上となっていたことで知られる。


チャート:1年先の景気後退確率



〇「賃金」


「賃金」のピークアウトや伸び鈍化などの登場回数は20回と前回の11回を超え、今回の利上げサイクルで最多となった。指摘した地区連銀は今回8行と前回の5行(NY、フィラデルフィア、クリーブランド、アトランタ、セントルイス)を上回った。今回はボストン、カンザスシティ、ダラスの3行が新たに加わった。なお、「賃金(wage)」との文言は65回登場し、前回の58回を上回、依然として「平均以上」、「迅速な」、「ゆるやかな」などの形容詞が多数派だった。ミネアポリス地区連銀は、年末商戦を受けた賃金引き上げペースの加速を報告した。


・ボストン 2回>前回はゼロ

→(総括)賃金上昇は平均してゆるやかとなり、多くの例では安定化した。

・NY 3回=前回は3回

→(総括)販売価格と投入価格の両方が上昇を続ける一方、賃金の伸びは鈍化の兆しを見せた。

→(労働市場)建設業、運輸業、情報産業の担当者は、賃金の伸びがやや鈍化していると報告した


・フィラデルフィア 4回>前回は2回

→(総括)雇用はわずかに拡大し続け、賃金や物価はゆるやかなペースとなり、むしろ前回より上昇ペースは鈍化した。

→(労働市場)ある企業の賃金上昇率は8.5%と、昨年12月の16%からほぼ半減した。


・リッチモンド 1回>前回は1回

→(総括)賃金の伸びは続いているが、一部の企業は賃上げの限界に近づいていると述べ、他の企業は労働者を引き留めるためのインセンティブ・プログラムに注目した。


・アトランタ 2回>前回は1回

→(総括)賃金上昇圧力は根強いが、いく分の緩和が報告され、企業は従業員に様々なインセンティブを提示し続けた。

→(労働市場)大半の企業は賃金の上昇圧力を報告したが、一部で足元における上昇圧力の緩和を報告した。


・セントルイス 2回>前回は1回

→(総括)賃金の上昇ペースは、前回よりゆるやかとなった。


・カンザスシティ 3回>前回はゼロ

→(総括)しかし、退職する労働者の補充意欲の低下、新規採用意欲の低下、最近の高水準からやや減速した賃金上昇率など、労働需要の冷え込みを示すいくつかの兆候を確認した。

→(労働市場)回答者は、賃金の伸びが数カ月以内に鈍化するかゆるやかとなる可能性が高いと報告した。


・ダラス 3回>前回はゼロ

→(総括)賃金上昇ペースは高止まりしたが、わずかながら緩和した。


チャート:米9月雇用統計、平均時給は高止まりとはいえ生産労働者・非管理職の前年同月比は21年9月以来の6%割れ

 

(作成:My Big Apple NY)


Fed高官から、利上げ幅縮小示唆が相次ぐ


以上、10月ベージュブックは全体的に見通しが悲観に傾き、金利上昇と利上げの効果が需要鈍化として顕在化しつつあり、賃上げペースの鈍化を確認しました。

一連の結果をみると、10月21日にウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙が12月に利上げ幅を50bpに縮小する方向で議論する見通しと報じたのも、納得です。特に9月30日のブレイナードFRB副議長の発言を皮切りに、足元で利上げ幅縮小および利上げ影響懸念に関するコーラスが続いています。


9月30日:ブレイナードFRB副議長

「一部のエマージング国は、高金利と先進国の利上げにより資本流出と通貨安の圧力に直面へ」

「リスクはいずれ双方向に、不確実性がデータ毎に政策を調整」

10月4日:サンフランシスコ連銀総裁

「米金融政策が過度に引き締め寄りにならないよう、世界経済と金融市場を注視している」

10月10日:ブレイナードFRB副議長

「暫定的な労働市場のリバランスを確認」

「FRBは高金利やドル高の影響を注視」

「金利や為替など、国境をまたぐ予測不可能な影響を注視」

10月19日:シカゴ連銀総裁「経済に非線形的な影響も」

10月20日:セントルイス連銀総裁「来年始めで利上げは終了へ、以降は金利を引き締め水準にとどめつつインフレ次第では調整(利下げ)も」

10月21日:サンフランシスコ連銀総裁「利上げ幅の縮小検討を計画すべき」


足元で、FF先物市場を基に算出される12月の利上げ観測は50bpが59.8%と75bpの34.1%を上回ってきました。23年6月末までの利上げ織り込み度も4.25~4.5%が33.7%、4.75~5.0%も37.6%と優勢。一時期の5%超えが過半数という状態から一転しました。


チャート:23年6月末までのFF先物、4.75~5.0%(41.3%)と4.25~4.5%(21.5%)合わせて62.8% 



過度な利上げ懸念は、後退しています。Fedピボットと判断するのは早計でしょうが、経済指標だけでなくベージュブックを始めとした定性情報を得て、Fedの最優先事項がインフレ退治からソフトランディングへ舵を切ったようにみえます。やっぱり、バイデン政権下のパウエル議長率いるFRBは、“景気後退上等”と捉えるほどボルカー的ではないのでしょう。


ストリート・インサイツ

金融記者やシンクタンクのアナリストとしての経験を生かし、政治経済を軸に米国動向をウォッチ。NHKや日経CNBCなどの TV 番組に出演歴があるほか、複数のメディアでコラムを執筆中。

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