最低投資単位ってなに?

東証が投資単位の引き下げを要請


10月27日に東京証券取引所が発表した「投資単位の引下げに係るご検討のお願い」と題したリリースが、株式市場でちょっとした話題になりました。


これは東京証券取引所が、個人投資家が投資しやすい環境を整備するために望ましい投資単位として明示している5万円以上50万円未満といいう水準から外れている企業に対し、投資単位の引き下げを要請したものです。


投資単位とは、その企業の株を買う際に必要になる金額のこと。それって株価のことじゃないの?と思われるかもしれませんが、実は違います。株価が1000円の企業は通常1000円で売買することはできません。株式の売買に詳しくない方であれば、驚くところですよね。もちろんこれには理由があります。


通常、株式を売買する際には単元株ごとに売買します。単元株とはその企業の株を売買するときに必要な最小株数のことを指します。株式市場では昔から、1株ごとに売買しているとやり取りが煩雑になってしまうため、100株などの単位で売買を行う仕組みなっています。まとめ売りのようなものですね。


とはいえ、企業がそれぞれに「うちは100株」「わが社は1000株」と決めていたため、投資家にとっては少しわかりにくいシステムでした。そのため、2018年10月に単元株が100株に統一されました。今は株価が1000円の場合は10万円。500円の場合は5万円、というように株価を100倍した数字が売買に必要な金額、すなわち「投資単位」になっています。


ここで話を最初に戻しますが、この投資単位を5万円から50万円の間にするよう要請したのが、東京証券取引所の「投資単位の引下げに係るご検討のお願い」になるわけです。



投資単位引き下げのメリット


なぜ東京証券取引所は企業に投資単位の引き下げを要請するのでしょうか。その理由はいくつかありますが、一つはその企業の株価を買うために最低限必要な金額を下げることで、投資家が株を買いやすくするためです。


投資の世界の格言に「卵は一つのかごに盛るな」という言葉があります。分散投資の必要性を表した言葉ですが、資金が100万円あった場合、10万円ずつ10社に分散して投資した場合は、仮に1社が倒産してしまうようなことがあっても、損失は10分の1ですみます。しかし、100万円を1社にまるまる投資した場合、その企業が万が一倒産してしまった場合は全額を失ってしまうことになってしまいます。分散して複数の企業の株を買うためには、投資単位はできるだけ小さい方が良いわけです。


もう一つはNISAの活用です。NISA(少額投資非課税制度)とは、年間120万円までの枠内で金融商品に投資をした場合に、売却して得た利益や受け取った配当が非課税になる制度です。さらに細かくいうとつみたてNISAやジュニアNISAなどもありますが、ここでは割愛します。


NISAを利用することでその枠内での投資にかかる税金がかからなくなるわけなので、ぜひ利用したいところですが、枠が年間120万円までなので最低投資単位が120万円を超える株には使えません。そのため投資単位の引き下げが必要になるというわけです。





東京証券所公表資料よりDZHフィナンシャルリサーチ作成


上のグラフは東京証券取引所が公表した資料をもとに、東証上場企業3763社のうち、価格帯ごとに何社ぐらいが分布しているかをあらわしたものです。東京証券取引所の取り組みにより、近年では投資単位が50万円以上の企業はかなり少なくなっており、2022年9月末時点での全上場会社3579社のうち、50万円以上は184社。全体の4.9%にとどまります。このうちプライム市場で50万円以上の企業は129社、スタンダード市場は同40社、グロース市場が同15社となっています。


また、東京証券取引所では10月26日時点で株価が100万円以上となっている企業について、社名入りのリストも公開しています。https://www.jpx.co.jp/equities/listing/company-split/nlsgeu000005vh6t-att/nlsgeu000006pb0m.pdf

ファーストリテイリング、SMC、キーエンス、東京エレクトロンなどの日経平均採用銘柄から、新規上場して間もないイーディーピー、ANYCOLORなど、さまざまな企業がリストに掲載されていますが、これらの企業は投資単位を引き下げるために、株式分割などの具体的な取り組みを実施することもあるかもしれません。


とはいえ、東証のこうした取り組みは1990年代からはじまっており、それでもずっと引き下げを行わなかった企業も多いので、あくまで参考程度に受け止めておくぐらいが良いでしょう。


日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

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