価格決定力=企業の強さ
毎月のように各メーカーから値上げの実施が相次ぐなか、11月も相当数のメーカーから値上げが実施され、月初には各社報道でもさかんに取り上げられました。
原材料価格の高騰に円安が重なり、企業も値上げせざるを得ないなか、家計の負担は一段と大きくなっています。ですが、不思議なことにこの値上げを歓迎する人がいます。それが投資家であり、株式市場です。
不思議なことのように感じられるかもしれませんが、これは消費者の目線で見るか、投資家の目線で見るか、その立場の違いでしかありません。では、なぜ投資家目線では値上げが歓迎されるのでしょうか。
食品メーカーの多くは、原材料を海外からの輸入に頼っています。前述してきたようにインフレによる価格高騰に、円安の影響が値上げの要因なわけですが、仮にここで一切値上げをしない企業があったとした場合、その企業の業績はどうなるでしょうか。
商品がどんどん売れたとしても、それをつくるためのコストは上がっていますから1個売れた際の利益は減少していきます。利益が減少するならまだましな方で、商品価格よりコストの方が高くなってしまえば、売れば売るほどむしろ赤字になってしまうことになり、企業として事業を継続することが難しくなるでしょう。
そのため、コストの上昇分をきちんと販売価格に転嫁できる企業、すなわち価格決定力を持つ企業は株式市場では歓迎されるわけです。
11月は「食品主要105社」が833品目を値上げ
2022年は非常に多くの食品企業が値上げを実施しています。帝国データバンクが発表した「食品主要105社」価格改定動向調査(11月)(https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p221101.html)によると、11月の食品主要105社の値上げは833品目。このうち主なものが乳製品で、えさやエネルギー価格の高騰で、メーカー各社と生産者団体が生乳の取引価格の引き上げで合意したことを受けた動きとなります。
主要な大手乳メーカーの値上げ幅は、明治ホールディングスが2%から7.5%、森永乳業が3.6%から10.2%、雪印メグミルクが4%から12.5%としています。
大塚HD傘下の大塚製薬は「オロナミンC」を1日の出荷分から25年ぶりに値上げし、希望小売価格(税抜き)を105円から120円に引き上げました。逆に25年間価格を維持していたことも驚きですね。
また、エバラ食品工業は「焼肉のたれ」シリーズの一部やカレーフレークなど29品目を小売り参考価格でおよそ7%から38%値上げしました。「焼肉のたれ」の値上げは実に32年ぶりとのことです。
今年の4月には、やおきんが販売する「うまい棒」が実に42年の歴史で初の値上げを実施したことも話題になりましたが、前述してきた各社の値上げ同様、それほど原材料などの高騰から値上げせざるを得ない状態となっていることが窺えます。
スナック菓子のカルビーも11月に値上げを実施した企業の一つです。同社は「かっぱえびせん」をはじめ、合わせて30品目を値上げしました。今回の対象となる商品の大半はことし6月に値上げや、内容量を減らす実質値上げを行っていて、ことし2回目の値上げとなります。
ですが、カルビーが11月7日に発表した2023年3月期第2四半期決算は、売上高こそ1332億円(前年同期比10.6%増)となったものの、営業利益は102億円(同23.0%減)となりました。これは値上げの実施で売り上げが増加したものの、値上げ幅以上に原材料高やエネルギー価格の上昇などが響き、トータルでは減益になってしまったことが要因です。
カルビーの日足チャート
チャート
値上げを実施したとしても、必ずしも利益が増えるわけではありません。同社の株価は1回目の値上げを発表した6月以降、値上げを好感し上昇してきましたが、前述した決算を受け、発表当日は大きく売られる場面がありました。前述した11月の値上げが業績に影響してくるのは、これからですので悲観しすぎる必要はないとの見方もありますが、実際に原材料高の影響を値上げが打ち消すことができると確認できるまでは、株価の上値は抑えられてしまうかもしれません。
食品メーカーに限らず、私たちの身の回りに関連する企業から、BtoBが中心で普段目にすることは少ないけれどもさまざまな製品を取り扱っている企業まで、本当に多くの企業が値上げを実施しています。そうした企業のなかには、2023年以降にも値上げを実施する予定をすでに公表しているところもあります。「それでもその会社の商品が欲しい」と消費者に思わせられるような強いブランドや価格決定力を持つ企業。投資家にとって、今の環境はそんな企業の株を探すのに、むしろチャンスと言えるかもしれませんね。