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7分の1は空き家の日本

7月の日銀金融政策決定会合において、政策金利の引き上げが決まってからほぼ1カ月が経ちました。その後に日本株が大暴落したのも記憶に新しいところです。7月終盤から8月初旬は暴落、損、ローン破綻とネガティブワードであふれたでしたが、徐々に落ち着きを取り戻してきたような感じがします。


ネガティブな話を取り上げるときりがないのですが、「暴落」や「利上げ」などよりも注目され続けているワードがあります。それが「空き家」です。キーワードの人気度を示す「グーグルトレンド」を使って過去1年間の推移を見てみると、以下のようになりました。

出所:Google Trends


利上げや暴落は、そのニュースが出た時期に瞬間的に動意付く動きですが、「空き家」は継続的に検索されていることが分かります。年々深刻化している問題のため、スポット的に話題となるよりは、常時メディアに取り上げられている状況です。そのため、継続的に関心を寄せられているワードと言えそうですね。


日本の空き家はどれくらい深刻なのか?

人工が多い市街地であっても、明らかに人が住んでいないとみられる建物は少なくありません。人気の少ない地域だと、荒れ果てたボロ家を多く見かけますよね。日常的に空き家を見かけることはありますが、あそこに空き家があるくらいの感覚であり、実際にはどれくらいの空き家があるのかについてはあまり意識しないでしょう。当事者になって、初めてことの深刻さに直面するということもあります。


話は変わりますが、総務省が2024年4月30日に発表した調査では、23年10月1日時点で日本の総住宅数は6502万戸と、前回調査の2018年比で261万戸増えた(4.2%増加)とのこと。5年ごとに調査を実施していますが、総住宅数は一貫して右肩上がりです。

出所:総務省 令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果


人口が減少しているのに住宅数は増加しているというのは不思議な話ですが、空き家を手放すのは簡単ではありません。不便で買い手がつかない土地に空き家があることについて取り上げられることが多く、土地に建物がないと固定資産税が上昇する可能性もあります。


本当は手放したいのに、それができないという人は国内に大勢いるようです。また、土地の仲介手数料は金額に応じていくらまでと決まっています。不動産業者にとっても、二束三文の土地を取り扱っても採算が取れず、できることなら関与したくないという意見もあるようです。


総務省の同調査では、空き家数は900万戸と過去最多を更新しました。1993年から2023年までの30年間で約2倍になっており、増加率も加速しております。総住宅数に占める空き家の割合は13.8%と、18年比で0.2ポイント上昇しました。7戸に1戸は空き家という計算になります。なお、本当に誰も住んでいないという世間的なイメージに近い空き家「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」は385万戸です。こちらも1993年比で2.6倍となっていますね。二次的住宅は、別荘などのことです。


人が集まる人気の地域はまだしも、不便な場所になるほどその度合いは強まります。「消滅可能性自治体」マップというものもあり、このまま悪化を続ければ、小さな亡国が日本各地で大量発生する可能性は小さくありません。


出所:総務省 令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果



国交省が重い腰を上げる

引き取り手がいない土地と空き家を、所有者が自力で何とかするのは困難です。全国の当事者がそれを行うのは不可能といっても過言ではありません。「空き家問題がヤバい」と言われ続け、今年5月に国土交通省が動き始めました。


一部報道によると「放置空き家の市場流通を後押しするため、不動産業者が受け取る仲介手数料の上限額を18万円から30万円へ引き上げる」とのこと。また、売却額400万円以下の空き家に適用する特例制度の対象を800万円以下に広げるようです。


また、この8月終盤には国土交通省が2024年度にも建物が空き家かどうかを判定するシステムを開発するというニュースもありました。報道によれば、自治体が持つ上水道の使用状況などの情報をもとに、空き家である確率をパーセントで表示する方向とのこと。使われていない物件を把握しやすくすることで、不動産取引を後押しするようです。


仲介手数料の上限額引き上げとの相乗効果で、空き家問題の改善を狙いたいという意図が伺えますね。もし、空き家の処分がしやすくなれば、新しい家に生まれ変わったり、リフォームを経て住めるようになったり、土地を活用した新しい何かを始めたりできます。


ゼロ金利の時代は終焉を迎えたので、新しく住宅を買おうという人はこれまでよりも少なくなる可能性が高いです。徐々に金利が上昇する方向へシフトした現在、借りられるだけ借りたらよいという考え方は身を滅ぼすかもしれません。


何よりも人口が増えない現状、少ないパイを取り合うこととなります。時代に沿ったサービスを提供できるようにするためにも、不動産や住宅業界にとって空き家問題の解決は無視できない課題ですね。空き家問題に挑む上場会社もありますので、探してみると面白いと思います。


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日本株情報部 アナリスト

畑尾 悟

2014年に国内証券会社へ入社後、リテール営業部に在籍。個人顧客向けにコンサルティング営業に携わり、国内証券会社を経て2020年に入社。「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別銘柄を中心としたニュース配信を担当。 AFP IFTA国際検定テクニカルアナリスト(CMTA)

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