気になるテーマ解説

政策保有株の解消良し悪し

昨今では、政策保有株式の解消に向けた動きが活発です。そもそも政策保有株式とは何なのか、イメージしづらい部分もあります。簡単に言うと、取引先の株を保有することで関係構築や維持することが目的です。


ざっくり政策保有株式とは


例えばA社の株を、仲の良いB社、C社、D社、E社が過半数持っていたとします。そこにA社を買収しようと目論むZ社が現れたとしても、B~E社が売らない限り買収に必要な株数を集められません。また、B~E社は株主総会で議決権を行使することもできます。都合の悪い株主提案には賛同しないなど、政策保有株式は何かと都合がよいシステムといえます。


日本ではそのような慣習が続いていましたが、一方で経営が腐敗しやすい、資本効率が悪いなどの指摘もあります。そのようななか、東証の要請やファンドの影響などもあって、近年では政策保有株式を解消する方向に流れが変わってきました。最近はどこどこがF社株を売却といったニュースがよく流れます。肌感覚だと月に最低1回~2回はある印象です。



政策保有株式を解消した場合の影響


政策保有株式の解消となると、市場で売り出すか、自社株買いを行うかが主な方法になります。このうち市場で売り出すとなると、安定株主から離れて不特定多数の株主に渡ることとなります。


コロナ禍ではマスクが一時的に高騰しましたが、流通量が安定したら価格は落ち着きましたよね。その後は必要以上に出回ったこともあり、マスクの投げ売りもありました。需要と供給の関係上、価格はそのように動きます。株にも同じことが言え、市場に出回る株数が増えれば、需給が悪化して株価は下がりやすくなります。


自社株買いを行う場合、金庫株になるか消却されるかのどちらかになります。需給悪化を懸念した株売りは心配する必要がありませんので、投資家にとってはうれしい解消方法ですね。


狙われる可能性


政策保有株式を解消したらゴールではありません。これまでよりも、業績と株価をいっそう意識する必要が出てきます。業績が悪ければ株価は下落、株価が下落(時価総額が減る)

して、もしトヨタ自動車やソニーグループを数千億円で買えるとなったら、即買収されそうですよね。政策保有株はないので、買収側が良い条件を提示されれば多くの投資家が頷くと思われます。


昨今では、アクティビスト(物言う株主)といわれるファンドの動きが活発です。保有株数が5%を超えたら大量保有報告書を提出する必要があり、最近では毎日何かしらの報告書が提出されます。その中には、海外の有名なアクティビストや旧村上系のファンドなども多いです。


とある企業の株価が低迷したところで大量に買い、議決権を得るところまでどのファンドも一緒です。ただ、大規模な株主還元などを提案して株価を吊り上げようとするか、再建に向けた建設的な提案をするかはファンドによってまちまちなところ。ファンドに目を付けられたというだけで投資家の見方が変わってくるので、経営陣は常に危機感をもつ必要があります。



政策保有株はどこで確認できる?


何はともあれ、政策保有株の売り出しによって自分の保有株が下がるのは避けたいところ。可能性のありなしを把握しているだけでもストレスのかかり方に差があるので、投資する前に事前に把握しておきたいですね。


どうやって確認するかは、有価証券報告書が役に立ちます。業績ニュースや決算短信は見ても、有価証券報告書まで丹念にチェックしているという人はあまり多くありません。ただ、膨大なページの中に大事なことも多く書かれているので、これを機にチェックしてみることをお勧めします。


最後は調べ方のレクチャーです


例)トヨタ自動車

 出所:トヨタ自動車 有価証券報告書 2024年3月期 117ページ目


上の画像はトヨタの有価証券報告書の一部。なんと244ページもあり、さすがにすべてを読むのは厳しいです。上の画像がどのページにあるのか探すだけでも一苦労ですね。幸い、紙ではなくPDFなどで電子化されているので、指定文字の検索機能(ctrl+F)を使うと便利です。検索バーに「政策保有」「政策投資」「政策」など、ヒットしそうなワードを入力してみましょう。


トヨタの有価証券報告書は記載が丁寧で、なぜその株を保有しているのか分かりやすく書かれています。全社がそうというではありませんが、何の銘柄を保有しているのか分かればまずは十分です。


 

出所:トヨタ自動車 有価証券報告書 2024年3月期 120ページ目


こちらは具体的な政策保有株の一覧です。これは一部で、トヨタはほかにも保有しています。120ページ以降に記載されているので、気になる人は原本を見てみましょう。ちなみに、有価証券報告書は会社の公式ホームページ、または金融庁の電子開示システム「EDINET」で見ることができます。


 

 出典:EDINET閲覧(提出)サイト(https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/week0010.aspx


こちらから最新の有価証券報告書をクリックすれば別ウィンドウが開きます。そのウィンドウでは項目ごとのページを表示できる機能、文字の検索機能もあるため、活用してみることをおすすめします。


この連載の一覧
手取りが増えたら何をしたい?
気を付けたい権利取りのポイント
【気になるテーマ解説】DX銘柄も生成AI活用が必須に
来年のNISA枠はどうする?
投資促進の一方で詐欺被害も多発
市場予想との付き合い方
政策保有株の解消良し悪し
「地面師たち」が大ヒット 厳しい日本の土地事情
7分の1は空き家の日本
QUOカードはなぜ人気なのか
住宅ローン人気銀行の動向まとめ
米大統領選、どこに恩恵?
中小型株への資金回帰が鮮明に
国際会計基準のルール変更へ 営業利益が分かりやすく?
新紙幣の発行開始でキャッシュレスが進む?
次世代自動車「SDV」とは?
マンション価格下落も依然高い そういえば晴海フラッグは?
プロが注目する配当株は?
出生率が過去最低を更新 止まらない少子高齢化
日本の長期金利が1%台に 今後の影響は?
日経平均と半導体株の関係
株式分割は本当に好材料なのか
株価は割高なのか? 指標を参考にしてみる
新興市場をざっくり振り返ってみる
金が人気の背景とは?
東京都の予算
マイナス金利解除が決定 マーケットへの影響は?
長期投資は我慢比べ
アクティブETFのその後
シリコンアイランド九州は復活か
政策保有株式の売却が進む(2)
決算プレーと自動売買
配当株投資の怖いところ
インターネット広告に試練 Cookie規制とは?
ロボアドバイザーの先駆け ウェルスナビの実力は?
優秀なインデックスファンドとは?
辰年は上がりやすい?
新NISA 注意したい配当金と分配金
新NISA 流行の積み立てと為替リスク
コスト最安の日本株アクティブファンドが登場
NTTが推進するIOWN構想とは?
政策保有株式の売却が進む
歯の健康は全身の健康 病気は未然に防ぐ時代へ
MSワラントの恐怖
配当金が保険料の賦課対象に?
今年は暖冬の予報 マーケットへの影響は?
投信の超低コスト競争に拍車
建設業界と2024年問題
積み立て投資との相性良し悪し
住宅ローンの借り入れは計画的に
東証スタンダード市場の選択申請が増加中
長期金利と株価の関係はよく言われるが・・・
国内初のアクティブETFが誕生
魚が高すぎて買えません
配当方針いろいろあります
太陽光発電は自家消費へ
メタの新SNS「Threads」使ってみた
電池の覇権、リチウムの次は亜鉛?
SENSEX指数が最高値更新 インドってどんな国?
訪日旅行者は今後も伸びる?
半導体製造装置 1台おいくら?
変動金利型住宅ローンが実質マイナス金利へ
話題沸騰のダイヤモンド半導体とは?
著名投資家の投資候補を考察
デジタル給与が解禁! メリット・デメリットは?
私の銀行は大丈夫?
全人代が開幕 いまさら聞けない日本の中国依存度
金利上昇の懸念はあるが省エネ住宅は拡大へ
【気になるテーマ解説】 健康だけじゃない? アミノ酸の可能性
なんでも材料視する株式市場
多発する客テロ AIカメラに注目集まる
会話は人そのもの 話題の「ChatGPT」とは?
「超」高齢化社会の日本
金利に翻弄される銀行 金利の影響と債券の仕組み
出生数80万人割れへ 子育て関連株の行方は・・・
何かと注目される親子上場
【気になるテーマ解説】市場規模は無限大? 壮大な宇宙産業
【気になるテーマ解説】レベル4解禁! ドローンの普及で何が変わるのか
【気になるテーマ解説】成功率3万分の1? 新薬開発の過酷な道のり
【気になるテーマ解説】パワー半導体ってなんだ?
【気になるテーマ解説】「Web3.0」ってなんだ?

日本株情報部 アナリスト

畑尾 悟

2014年に国内証券会社へ入社後、リテール営業部に在籍。個人顧客向けにコンサルティング営業に携わり、国内証券会社を経て2020年に入社。「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別銘柄を中心としたニュース配信を担当。 AFP IFTA国際検定テクニカルアナリスト(CMTA)

畑尾 悟の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております