バイデン政権、対中政策は“小さい庭を高い塀で囲む”作戦か
中間選挙で共和党が下院を奪回したため、バイデン政権は2023年から、ねじれ議会を迎えます。同政権が推進する富裕層向け増税や社会保障の拡充などの成立は困難とみられ、政策停滞が進むと考えられます。
その一方で対中政策では、8月に対中競争法案が素地にあったCHIPSプラス法が超党派で成立したように、妥結の余地を残します。
バイデン政権の対中政策といえば、日米豪印4カ国の戦略対話(QUAD)を始め中国に対しインド太平洋で連携し、インド太平洋の経済枠組み(IPEF)なども設立したことで知られます。トランプ前政権と違って、一国ではなく同盟国を巻き込んで対中包囲網を築いているというわけです。
では米国独自ではというと、いわゆる“Small Yard High Fence”つまり小さい庭を高い塀で囲むという、安全保障や先端技術で競合する立場を採りつつ、手段を慎重に見定めてきました。例えば、バイデン政権が発足してまもない2021年2月、中国のスパイ行為や知的財産権の窃取などに焦点を当てた“チャイナ・イニシアチブ”と呼ばれるトランプ時代のプログラムを終了させています。アジア系米国人への恐怖をもたらし人種差別につながりかねないとの市民団体へ批判と、科学研究を冷え込ませるとの学会からの懸念を受けた措置です。当時、オルセン司法次官補(国家安全保障担当)は中国を特別視した取り締まりプログラムは賢明ではなく、北朝鮮やロシア、イランなどによる脅威に対し一段と広範な取り組みの一環として再構築した方が良いとの結論に至ったと説明。また、“中国”の看板を外しながら「米司法省は、捜査や起訴などあらゆる手段を駆使して、中国政府による脅威に対し戦い続ける」と発言していました。
また、バイデン政権は2021年6月、トランプ前政権で講じられた動画共有アプリTikTokを始め8つの中国製アプリの利用禁止などの措置につき、大統領令を通じ撤回したことが思い出されます。しかし、直近でバイデン政権は、中国半導体メーカーの長江メモリ(YMTC)など36社を禁輸リストに追加したように、死守すべき分野での対抗措置を強める状況です。
2023年、下院で多数派を握る共和党は対中強硬寄り
共和党は中間選挙公約で中国からの依存低下を掲げ、ラストベルトでの一部の勝利に貢献したこともあり、対中強硬姿勢を強めてくるでしょう。
下院議長に就任予定である共和党のケビン・マッカーシー院内総務は早速、12月8日に2023年に中国特別委員会を設立すると発表しました。中国共産党による米国へのサイバー攻撃、貿易問題、軍機的脅威を日の下にさらし、戦う方針を明らかにした格好です。中国特別委員会の立ち上げはマッカーシー氏の最優先事項の一つで、バイデン政権下で多数派を握っていたペロシ会員議長率いる民主党と“中国問題タスクフォース”の旗揚げに向け交渉を続けましたが、最終段階で頓挫した経緯があります。
画像:マッカーシー院内総務、”中国特別委員会“の立ち上げを表明
(出所:Kevin McCarthy/Twitter)
2023年の多数派奪回に先駆け打ち出した委員会設立に向け、委員長にはマイク・ギャラガー下院議員を指名。同議員は、2016年の米大統領選でトランプ氏に勝利をもたらしたラストベルトの一角を担い、製造業が州経済の約18%を占める州ウィスコンシン州選出の議員です。海兵隊出身でイラクに2回従軍し、足元では下院軍事委員会の委員を務めます。
ギャラガー氏の指名は、中国からの脅威に対し超党派で取り組む本気度を示したと分析する声が聞かれます。ロイターに対し、保守寄りのシンクタンク、アメリカンエンタープライズ公共政策研究所(AEI)の中国政策専門家は「ギャラガー氏は下院が中民主党と協力してきた実績がある」と評価していました。
確かに、ギャラガー氏は12月に下院で通過した同性婚を認める“婚姻尊重法案”を支持した39名の共和党議員の一人です。ただし、ギャラガー氏は筋金入りの対中強硬派であることも事実。2月に下院で通過した半導体支援含む対中競争法案には、反対票を投じました。当時、同議員は半導体の国内製造促進に向けた資金に関し、中国への投資拡を禁止するガードレール条項が十分でなく、中国での半導体生産が連邦資金の恩恵を受けるリスクをはらむと批判したものです。
上院共和党、超党派での対中協力余地残す
下院では対中強硬姿勢が強まりかねませんが、足元では上院を中心に中国をめぐり超党派での協力を確認しつつあります。マルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)とギャラガー氏が主導するTikTok使用禁止法案には、民主党のラジャ・クリシュナムルティ下院議員(イリノイ州)も名を連ねます。さらに、上院で協議されている2023年度(23年10月末終了)では、中国の動画投稿アプリTikTokの米連邦政府機関内での使用禁止が盛り込まれました。
加えて上院では、中国半導体をめぐって新たな規制法案が協議されています。民主党のチャック・シューマー上院院内総務(NY州)と共和党のジョン・コーニン上院議員(テキサス州)が提出した法案では、前述のYMTCや芯国際集成電路製造(SMIC)などの中国半導体メーカーの製品の使用禁止を盛り込みました。ただ、中国メーカー製品を判別することが困難な上、コスト上昇につながるとして米商工会議所が反発したため、①使用禁止の文言を明記せず、②順守期限を2年から5年に延長--する方針だとか。米中は互いへの経済依存も強く、中国にとって米国は貿易相手国(輸出入総額)で12.6%を占め1位、米国にとっても中国は14.8%で1位とあって、現実的な落としどころを探っていくのでしょう。
チャート:米企業、半導体関連を中心に中国売上依存高く
こうした状況を踏まえると、下院共和党が対中強硬姿勢を強めても上院が調整すること必至。下院共和党としても実績を残すべく妥結を余儀なくされ、ねじれ議会を迎えつつもバイデン政権は対中政策で進展がみられそうです。