あの株はいまいくら?

第60回 不正アクセス検知サービス提供のカウリス(153A) 25.12期は減益見込む 期待先行に注意

「あの株はいまいくら?」では、話題になった銘柄の現状を確認します。今回はカウリス(153A)をみていきます。


カウリスは、法人向けクラウド型不正アクセス検知サービス「Fraud Alert(フロードアラート)」を提供しています。


「Fraud Alert」は、マネー・ローンダリング対策・サイバーセキュリティ対策などとして 、銀行、証券会社などの資金移動業、ならびに膨大な個人ユーザーを有する通信キャリア、ガスなどのインフラ事業者、その他のサービス事業者に対して、サービスを提供。顧客の利用シーンは、個人ユーザーが、顧客のウェブサイトや、スマホアプリにエンドユーザーが訪問し、口座開設(アカウント開設)や、残高照会・送金などの取引を実施する際であり、このときに不正利用の可能性をモニタリングしています。


具体的には、端末から取得される情報をFraud Alertのアルゴリズムで算出し、なりすましではないか、自社・他社において不正利用履歴がないか、などを算定し、法人顧客にリアルタイムでアラートを上げるサービスとなっています。


同社の上場については、比較対象は少ないものの、セキュリティーSaaSの企業で黒字のサイバーセキュリティクラウドのPERは60倍近くあるのに対し、公開価格の希薄化PERはその半分近くしかないこともあり、初値は高騰すると予想されていました。では、カウリスの上場からの株価の動きをみていきます。



カウリスの株価推移(上場から2024年10月31日まで)

2024年3月28日に東証グロースに上場した同社の初値は2875円と公開価格1530円を大きく上回りました。初値形成後も堅調な展開となり、3225円まで上値を伸ばしましたが、その後は売りに押され上場初日の終値は2957円となりました。


上場2日目は下落したものの、上昇基調は続き2024年4月8日に3930円まで上昇しました。これが現時点(2025年5月21日時点)の上場来高値となっています。なお、チャートをみると一目瞭然ですが、ここから株価は下落トレンドとなります。


2024年5月15日には上場後初の決算を発表。24.12期第1四半期の営業利益は9500万円(前年同期比42.7%増)でした。契約社数が堅調に増加(新規で4社獲得:銀行で2行、証券会社で2社)したことなどが寄与しました。

この決算発表が好感され、翌16日の株価は上昇しましたが、流れを変えるほどの力はなく、株価は下落トレンドが継続します。


6月後半に切り返しの動きはありましたが、7月に入りまた下値を切り下げる展開。8月に入り株価は急落し、8月5日には1188円まで下落しました。


株価が軟調ななか、2024年8月13日に24.12期上期の決算を発表。24.12期第上期の営業利益は1億9500万円(前年同期比54.6%増)でした。計画を上回るアップセルが成功し、解約2社による減少を吸収したとしています。なお、解約の2社はネット銀行と地銀で費用対効果を理由に解約になったとのことです。


この決算を受けた株価は、翌14日は売られたものの、15日には14日の下落分を上回る大幅高となりました。その後、堅調な株価推移が9月まで続きましたが、10月に入り一段安となり、10月後半には1500円を下回りました。



【カウリスの日足チャート(上場から2024年10月31日まで)】



カウリスの株価推移(2024年11月1日~2025年5月21日まで)

2024年11月13日には24.12期第3四半期の決算を発表。24.12期第第3四半期の営業利益は3億円(前年同期比55.6%増)でした。併せて、業績の下方修正も発表し、24.12期通期の営業利益予想を4億9000万円から4億0600万円(前期比37.2%増)に引き下げました。


下方修正の要因として、クロスセルである大型案件として 見込んでいた金融機関においてデータ取り扱いの法的整理の進ちょくが遅れたことによる期ずれ、また新規顧客の契約においては当局から金融機関への要請の影響で地銀などからFraud Alertの引き合いが増加 したものの、その契約締結までに時間を要しているためとしています。


業績の下方修正を受けて、翌14日の株価は下落したものの、その後は悪材料出尽くしで上昇しました。そして、2025年に入り値を保ちながら2月14日の本決算の発表を迎えます。


24.12期通期の営業利益は4億1200万円(前の期比39.5%増)となり、会社予想とほぼ同水準での着地となりました。そして、25.12期通期の会社計画の営業利益は2億5800万円(前期比37.5%減)としました。


同社では25.12期について、売上高と営業利益の中長期的な成長をめざすための組織の再構築を行うとし、とくに人材に投資するとしています。また、電力契約情報を活用したサービスの初期コストを見込んでいます。


この決算発表を受けて、株価は下落。その後も下げ続け、2025年4月7日に688円まで下落しました。これが現時点(2025年5月21日時点)の上場来安値となっています。


さすがに下げ過ぎということで、その後は切り返しの動きとなりました。5月に入り、証券口座の乗っ取り被害が急増しましたが、これが法人向けクラウド型不正アクセス検知サービスを提供する同社の業績に追い風という期待から、株価は大きく上昇。1000円の大台を回復しました。


そのようななか、2025年5月15日に25.12期第1四半期の決算を発表。第1四半期の営業利益は9600万円(前年同期比1.1%増)と、前年同期並みの着地となっています。なお、この結果は想定内だったとみられ、株価の反応は限定的でした。


【カウリスの日足チャート(2024年11月1日~2025年5月21日まで)】



今後について

証券口座の乗っ取り被害の急増により業績期待が高まっていますが、業績寄与は第2四半期以降となります。ただ、今期については「成長のための土台を盤石にするための期間」と同社が位置付けていること踏まえると、期待しすぎるのは危険です。


まずは8月発表されるであろう25.12期上期の結果をみるべきです。状況的には期待先行で上昇していますので、材料出尽くしで売られる可能性が高いと考えます。ただ、足もとの株価は公開価格と同水準となっています。今後公開価格を大きく割り込むようなら、来期以降に投資の成果が出てくることを期待し、購入してみるのも面白いと考えます。



この連載の一覧
第60回 不正アクセス検知サービス提供のカウリス(153A) 25.12期は減益見込む 期待先行に注意
第59回 2025年2月IPOの技術承継機構(319A) 1Qは減益着地も株価は上昇
第58回 2025年2月IPOのフライヤー(323A) 株価は上場来安値から切り返し
第57回 2025年2月IPOのブッキングリゾート(324A) 利益成長による株価上昇に期待
第56回 水に関する建設コンサルの日水コン(261A) 下水道などインフラ老朽化で注目度高まる
第55回 リテール販促における総合支援事業の「MIC(300A)」  決算発表受け株価はストップ高
第54回 料理レシピ動画サービス「クラシル」のdely(299A)  好決算受け株価は上場来高値更新
第53回 半導体製造装置部品の販売・修理の「TMH(280A)」 利益率が注目ポイント
第52回 「横浜家系ラーメン壱角家」のガーデン(274A) M&A再開に期待
第51回 インターネットによる教育サービス提供の学びエイド(184A) エドテック関連として成長期待はあるものの
第50回 スキンケア商品・美容家電などの企画・開発・販売の「Aiロボ」 業績堅調も上場来安値更新
第49回 物流の安全に関するコンサルティングの「アスア」 決算発表後の上昇で流れ変わるか?
第48回 「らぁ麺はやし田」など運営の「INGS」 期待はく落で下落はチャンス?
第47回 ドローンベンチャーの「ブルーイノベーション」 来期の黒字転換期待が高まれば・・・
第46回 IoTプラットフォーム「SORACOM」展開の「ソラコム」 26.3期以降に成長を加速できるかが注目点
第45回 若者向けアパレルブランド展開の「yutori」 株価推移に特徴あり
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第42回 製造業界向けAIベンチャーの「VRAIN Solution」 自動化・DX化ニーズの取り込みに期待
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第38回 勤怠管理システムの「ヒューマンテクノロジーズ」 株価は上場来安値圏で公開価格も下回るが
第37回 ポケットマルシェ運営の「雨風太陽」 赤字縮小も株価は下落傾向
第36回 自転車専門店の「ダイワサイクル」 決算受け株価は水準訂正 営業利益10億円も近い?
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日本株情報部長

河賀 宏明

証券会社、事業会社におけるIR担当・経営情報担当、FPや証券アナリスト講師などを経て2016年に入社。 金融全般に精通。証券アナリスト資格保有。 「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別株を中心としたニュース配信を担当。 メディア掲載&出演歴 株主手帳、日経CNBC「朝エクスプレス」、日経マネー

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