ドルの軟調な動きが継続
4月に米中の関税合戦がエスカレートし、トランプ関税への警戒感から米国の「トリプル安(株安・債券安・通貨安)」が進みました。ドル円は昨年9月以来の140円割れ、ユーロドルは2021年11月以来の1.15ドル台までドル安が進みました。その後、米中が関税の大幅引き下げに合意し、両経済大国の貿易摩擦の激化懸念が和らぎドル売りも一服したが、ドルの重い地合いが続いています。
「米国売り」再燃に警戒
米格付け大手ムーディーズ・レーティングスは16日、米国債の長期信用格付けを最上位の「AAA」から「Aa1」へ1段階引き下げたと発表した。米政府の財政赤字の拡大と返済能力に対する懸念を理由としています。
米格下げで市場は一時トリプル安が再燃しました。トランプ米政権は当初より関税の強硬姿勢を緩めていることで、トリプル安の勢いを4月ほどではないが「米国売り」の再燃・加速への警戒感は残されています。
今週、トランプ米大統領の大型減税を盛り込んだ法案は下院では僅差で可決され上院に送られました。トランプ氏は「米史上最大の減税」により経済成長の加速を狙っているが、税収減による政府債務の膨張は不可避とみられます。同法案では新たな減税措置、軍事費や国境警備への歳出増額を盛り込んでおり、議会予算局によると今後10年間で連邦債務が3兆8000億ドル程度増える見込みです。
金融市場、関税の是正勧告
4月に米中の関税合戦の激化、トランプ関税の不安が「米国売り」という反応を示したのはトランプ米大統領にとって大きな誤算であり、悩みの種となりました。エスクリバ・スペイン中銀総裁も関税不安がドル安・ユーロ高という反応を示したのは「通常では考えられない」と驚きの現象が起きたと述べました。金融市場の混乱という目に見える動きは、トランプ政権の行動に是正を勧告しています。
強い米国に市場がノーをつけられたことはトランプ米大統領にとって大きなショックとなります。同氏は政権発足当初の強気姿勢はやや緩めているが、まだ自分の成果を強調し関税政策を正当化しています。関税はトランプ氏にとって政治生命の主題でもあり、簡単に諦めることはなく、米国は高関税時代に突入する可能性はあります。ただ、今後「米国売り」が再燃し加速すればトランプ氏の関税方針は修正を余儀なくされる可能性も十分あります。
トランプ氏はドル安を望んでいますが、意図せざる結果としてそれが実現する可能性があります。それは「グレートな国」の通貨だからではなく、トランプ関税によるインフレで実体経済が弱くなり、長期金利上昇で住宅投資や不動産投資も減退していくから、それに応じて通貨は弱くなっていくことが予想されるからです。これは、米国への投資機会も減らし、ドル需要を減退させていくと考えられます。