「ファミリーファンド」と「ファンド・オブ・ファンズ」


投資信託の中で、分散効果が高いのは「バランスファンド」と呼ばれるタイプです。目論見書などには「資産複合型」と書かれています。その名の通り、投資信託の純資産を、複数のタイプの投資対象にバランスよく分散させるというものです。


この「バランスファンド」の多くが「ファミリーファンド」や「ファンド・オブ・ファンズ」という運用の形態をとっています。目論見書の冒頭に掲げられている表「商品分類および属性区分」にも、「投資形態」の欄に記載されています。


この「ファミリーファンド」と「ファンド・オブ・ファンズ」について、簡単に説明します。


ファミリーファンドは親子関係


ファミリーファンドは、投資信託の運用資金が親子関係のようになっています。


このタイプの投信は、投資家が「ベビーファンド」を購入します。ベビーファンドに集められた投資家の資金は、同じ投信会社が運用している「マザーファンド」に投資します。マザーファンドは、あらかじめ掲げている投資方針や運用目標に従って、株式や債券、REIT(不動産投資信託)などを購入し、運用を行なっています。


同じ親(マザー)の子(ベビー)であれば、運用成績はほぼ同じです。ただし、ベビーの特徴によって少しだけ運用の差が出てしまいます。子ども(ベビー)たちはそれぞれ、「無分配型」「1年分配型」「毎月分配型」といったように、個性があるからです。ほかには、通常の投信と「確定拠出年金専用」というきょうだいのケースもあります。


【図1】は、分配金の頻度が異なる子どもたちのファミリーファンドの例です。投資対象分類は「バランス型」。国内株式、外国株式、REIT、債券に投資をしているパターンです。



この「ABCバランス」ファミリーの直接の親(マザー)は、「ABCバランス投信マザーファンド」という名の投信(グレー部分)です。この資金が、投資対象が異なるマザーファンド「ABC国内株マザーファンド」「ABC外国株マザーファンド」「ABC REITマザーファンド」「ABC債券マザーファンド」を買い付けています。


やや複雑ですが、投資家が直接購入するベビーファンドを通じた資金が、グレー部分の「ABCバランス投信マザーファンド」に集められ、国内株、外国株、REIT、債券の各マザーファンドに分散投資をしています。


さらに、「ABC国内株マザーファンド」の資金は、国内の株式市場で株式を買い付けます。「ABC外国株マザーファンド」の資金では外国株式を、「ABC REITマザーファンド」の資金はREITを、「ABC債券マザーファンド」は債券を買い付けます。


「ABCバランスファンド」というマザーファンド内で一緒に運用された資金は、分配金の受け取り方式の違いで、子どもたち(ベビーファンド)の特徴が異なっています。


ファミリーファンド方式のメリット


この仕組みのメリットは、一つのベビーファンドの純資産残高があまり大きくなくても、安定運用ができる点です。複数のベビーファンドからマザーファンドに集められた段階で、十分な純資産残高があれば、多様な投資対象に分散投資が可能になります。同じ投資方針の投信を合同運用することで、効率が良くなるのです。


また、例えば、同じABC投信会社に「ABC世界株オープン」という全く別の投信があり、ファミリーファンド方式で運用されていたとしましょう。この「ABC世界株オープン」(ベビーファンド)を購入した投資家の資金が「ABC国内株マザーファンド」と「ABC外国株マザーファンド」を購入しているというケースもあります。


異なるベビーファンドから、投資方針が同じマザーファンドに資金が集まってくるので、マザーファンド全体の資金は大きくなります。このように、同じABC投信会社の中で運用目的が同じ部分は、同じマザーファンドで一緒に運用されていることがあります。


なお、マザーファンドでは運用管理費用(信託報酬)が差し引かれません。ベビーファンドだけに信託報酬がかかります。「じゃあ、マザーファンドを直接買えばコストが安くすむ?」と思ったあなた。残念ながら、マザーファンドは投資家が直接購入できる投信ではありません。


ファンド・オブ・ファンズとは


ファンド・オブ・ファンズは、他の投信に投資する投信です。この説明だけでは、前述のファミリーファンドと何が違うの? と思うことでしょう。


ファミリーファンドは、投資家が購入するベビーファンドの資金でマザーファンドを買います。これはファンド・オブ・ファンズでも同じです。ファミリーファンドの最後に、「マザーファンドは投資家が直接購入できる投信ではありません」とお伝えしました。しかし、ファンド・オブ・ファンズは一般投資家向けの投信を組み入れられます【図2】。



ファンド・オブ・ファンズは、自社の一般の投信のほか、他の投信会社の投信も運用対象として組み入れることができます。異なる投信会社の投信が入っていれば、リスク分散にもなります。


ファンド・オブ・ファンズは、バランス型など多様な地域・資産への分散投資をする投信で多い形です。小規模の投信が既存の投信に投資をし、規模のメリットが得られる点はファミリーファンドと同じ。効率的な運用ができるのも同じです。


ファンド・オブ・ファンズは運用コストが高めになりがち


ファンド・オブ・ファンズの仕組みは、投資家が投信会社に投信選びを任せている形ともいえます。より専門性の高い投信を集め、他社の運用力をうまく活用した「いいとこ取り」の投信を作ることが可能です。


ただし、その分コストは高めになりやすいです。ファンド・オブ・ファンズそのものに運用管理費用(信託報酬)がかかるほか、その投資対象の投信にも運用管理費用(信託報酬)がかかっています。両方を合計した実質信託報酬率は、一般的な投信より高めになる傾向です。


ファンド・オブ・ファンズは、「投信に投資をする投信」という一見複雑な形ですが、そう難しくありません。投資対象になっている投信についても、それぞれの投資方針やコスト、運用状況などが投資信託説明書(交付目論見書)や運用報告書に書かれています。


まとめ


ファミリーファンドやファンド・オブ・ファンズは、冒頭でご紹介したように、バランス型で多く取り入れられている運用形態です。


また、確定拠出年金などに採用されている「ライフサイクル型投信」でも使われています。ライフサイクル型投信とは、投資家が年齢を重ねるに従い、運用資産全体を成長型、安定・成長型、安定型にシフトしていく投信です。組み入れる投信の配分を変更し、運用資産全体のリスク度を変えていくという運用をします。


ファミリーファンドとファンド・オブ・ファンズの違いを、【表】にまとめておきました。



「投信に投資をする投信」という側面では、似たようなものと理解していて良いと思います。どちらも、複数の投信に分散投資をしている投信です。


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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