値段がわからないまま購入・解約をするのが投資信託

上場株式の株価は、証券取引所で取引されている時間中は刻々と動いてます。株価ボードを見ていると、活発に値動きする銘柄もあれば数分経ってようやく株価が変わる銘柄もあります。


ところが投資信託は、いくら画面とにらめっこしていても、基準価額は一向に変わりません。それもそのはず、投資信託の基準価額は、1日の中で値動きしないのです。


投資信託の価値は、運用資産の時価から求められる


株式の価格は「株価」。株価は、その会社の価値を表しています。上場会社の価値を評価するのは証券取引所に集まる投資家です。買い注文と売り注文のオークションで株価が決まります。


上場株式は、売買取引が成立するたびに価格を1つひとつ表示します。そのため、多くの取引が行なわれる大企業の株価ほど、チカチカ、ピカピカと活発に値動きしています。


一方、投資信託の価値は「基準価額」で示されます。投信は、投資家から集めたお金を1つのお財布にまとめて、株式や債券、不動産投資信託(REIT)などを購入して運用をするしくみです。このお財布全体の価値を表したものが、投信の純資産残高です。


お財布の中の金融商品は、時価が変動しています。また、それらの金融商品から生みだされた株主配当金や利息は、お財布の中に入れられます。この運用によって、お財布の中身の資産価値が増えたり減ったりしています。さらに、運用にかかる費用は、このお財布から支払われます。


このお財布が1本の投信であり、中身の金融商品の時価が投信の純資産となります。


値動きする運用資産は、終値を使って集計


通常、1本の投信の中には、数十~数百種類の金融商品が入っています。どんな金融商品がどれだけ入っているかは、その投信の運用目的によります。国内の株式が数十銘柄という投信もあれば、世界各国の株式と債券とREITを混ぜ合わせて数百銘柄を組み入れている投信もあります。


それらの金融商品の時価を個々に算出し、合計して、投信の純資産総額となるのは前述の通りです。ですが、刻々と値動きする都度、また、外国証券が現地の取引時間に値動きする都度、投信の時価を算出し直すわけではありません。日々の取引の最終価格を採用して集計します【図1】。



「終値」とは、その日の取引の最終値段です。その日の終値は、1つしかありません。これを使って純資産総額を計算します。投信の純資産自体は日中の取引で価値が上下しますが、終値を基準に求めた純資産総額は、1日につき1つしかありません。


終値を基準にするから基準価額は1日動かない


投信の純資産残高は、その投信を購入した人全員の持ち分合計です。一人の投資家の立場で、自分の投信がいくらになっているかを知りたい場合に、「基準価額」の出番です。


株価の単位を「株」と表現し、「100株」というように、投信の単位は「口」といいます。投信は、新しく設定される際には「1口=1円」でスタートするものがほとんどです。多くの投信では、基準価額を1万口当たりの価格で表示します。つまり、「1万口の価格が1万円」でスタートする投信がほとんど、ということです。


投信ごとに、または販売会社により、1口単位で購入できる場合と、1万口単位などで購入できる場合など多様です。購入時の取引明細書や保有残高明細などには、「数量(口)」「保有数(口)」などの欄があります。


投信の基準価額は、前項で説明した純資産総額を、投資家全員が保有する口数で割った値段です。これが投信の取引値段です【図2】。購入した日の基準価額が「買い値」となり、解約した日の基準価額が「売り値」です。



自分の投信がいくらになっているかは、保有口数と基準価額を掛け算すればわかります。


基準価額がわからないまま取引をする


上場株式の売買と違い、投信は投資家が基準価額がわからないまま注文を出すしくみです。いくらで買えるか、いくらで解約できるかわからない状態での発注になります。


投信の購入や解約は、銀行や証券会社などの販売会社が決めた締切時刻があります。この時刻は販売会社ごとに、または投信ごとに異なります。インターネットやアプリなどは購入や解約をほぼ24時間受け付けますが、その中でも当日締切時刻が設定されています。


締切時刻は、通常、「その日の終値」より早い時刻です。その日の終値がわからないので、その日の基準価額も計算されていません。それでもこの状態で取引しなければなりません。この方法を「ブラインド方式」といいます。その日の日中の市場動向から、だいたい「前営業日より高いかな、安いかな」と想像して取引を行うしかありません。


もっとも、投信は小さな値動きで一喜一憂するような金融商品ではありません。1日の値動きの差を狙うような取引ではないのですから、ブラインド方式に目をつぶるぐらいのゆとりを持つことでしょうね。


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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