悲報:バイデン大統領の雇用創出をアピールしたツイートに、ファクトチェックが追加

バイデン大統領、米5月雇用統計・NFP結果に自画自賛


6月2日発表の米5月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)が前月比33.9万人増と4カ月ぶりの高い伸びでしたよね。結果にご満悦なバイデン大統領は、ツイートで「28カ月間で、どの政権より力強い雇用創出を達成した」とアピールしました。


そのツイートは、こちら。


画像:バイデン大統領、群を抜く雇用の増加幅をツイートで強調

 

(出所:President Biden/Twitter)


赤い枠にご注目下さい。“コミュニティノート”、いわゆるファクトチェックが追加されていました。いわく「多くのソースは、バイデン氏の大統領就任時期がコロナ禍での景気後退の終焉と重なっていた」、「米国人の6%が複数の職を有するなか、雇用者ではなく職の増加でカウントされる(要は給与でカウントするという事業所調査ですね)」。さらに、情報源となるニュースのリンクなども明記されていました。普段、米経済指標をフォローしているなら把握している事実であり、バイデン氏のツイートに違和感はありません。しかし、普段雇用の数字に接していない方々には、にわかに信じがたいチャートだったのか、ファクトチェックが必要との認識が高まったようです。



米5月雇用統計、好調なNFPの裏で労働市場減速の兆しを確認


なぜ、バイデン氏のツイートにファクトチェックが追加されるケチがついたのでしょうか?その背景として、米5月雇用統計はNFPが前月比33.9万人増という好結果の裏で、弱い内容が隠されていたことが挙げられます。


NFP以外で最も注目されたのが、失業率です。失業率は3.7%と、市場予想の3.5%を上回り2022年10月以来の水準へ上昇しました。1969年5月以来の低水準を記録した前月の3.4%を上回っています。失業率の上昇は、労働参加率が62.7%と20年3月の水準に並んだ前月の62.6%を超え、コロナ感染拡大直前の20年2月以来(63.4%)以来の高水準だったことが一因です。それより問題視されるのは失業者の増加で、前月比で44.0万人増と2010年11月以来で最大でした。


一方で、米景気減速が指摘されるなか、自発的離職者数は2カ月連続で減少し76.5万人、自発的離職者数に占める失業者の割合も12.6%で、そろって2021年12月以来の低水準でした。


チャート:自発的離職者数はカ月連続で増加

 


解雇者数(一時的な解雇ではなく再編やM&Aなど会社都合での解雇者、派遣など契約が終了した労働者)は、前月比13.5万人増の219.3万人と過去4カ月間で3回目の増加となっています。結果を受け、解雇者数の割合は36.2%と前月の33.8%から大きく上昇し、2021年11月以来の高水準をつけました。さらに、一時解雇者の割合は12.7%と、自発的離職者の割合を2022年5月以降、初めて上回っています。


チャート:失業者に占める解雇者の比率、引き続きトップに


週当たりの平均労働時間は34.3時間と、市場予想と前月の34.4時間を下回り、コロナ禍で経済活動が停止していた2020年4月以来の低水準でした。雇用が増加した一方で、需要がそれほど伸びていない、あるいは時短労働を希望する労働者が多い実態を反映している可能性があります。


チャート週当たり平均労働時間、短縮傾向が続く 


さらに、人種別の失業率をみると、労働参加率が上昇した黒人で5.6%と前月の4.7%から急伸し、約11年ぶりの急上昇を記録。黒人の労働者は、米景気減速局面で最も影響を受けやすいとされ、いわば労働市場の“炭鉱のカナリア”とされるだけに、懸念材料です。また、労働参加率が横ばいだった白人の失業率も、上昇していました。


チャート:人種別の失業率、ヒスパニック系以外で上昇(注:ヒスパニック系は人種別で最も賃金が低い)

 


超党派で米債務上限停止法案成立も、若者の支持率は急低下


労働市場の減速が徐々に鮮明となるなか、バイデン氏の支持率は超党派で米債務上限停止を柱とした“財政責任法”が成立したにもかかわらずブーストされていません。


IBD/TIPPが6月に行った世論調査結果では、支持率が40%に対し不支持率は51%と、その差は11ポイントに開きました。5月の6ポイント差(支持率:43%、不支持率:46%)を超え、年初来で最大の乖離となっています。


特に18~44歳の間での支持率の低下が著しく今回は41%と、5月の48%、3月の54%から急低下していました。2022年9月の同年齢層の支持率が51%と22年8月の40%から急伸していた動きから、逆転現象を迎えています。なぜかというと、こちらで指摘した財政責任法の成立に伴う学生ローン債務免除の終了が仇となっているのですよ。対して、45歳以上の支持率は前回と変わらず39%でした。


せっかく米債務上限問題を乗り越えたものの、現時点で若い世代から失望されている様子。2024年の米大統領選に向け、バイデン氏がどのような巻き返しを図るのか、注目されます。


その一環ではないでしょうが、民主党寄りのポール・クルーグマン教授はコラムニストを務めるNYT紙に「製造業を再び偉大にさせる」と、誰かさんのキャッチフレーズをもじった論説を寄稿しました。クルーグマン氏は、22年8月に成立したインフレ抑制法とCHIPSプラス法によって米国の製造業関連の建設支出が未曽有のペースで増加していると指摘しています。


チャート:製造業関連建設支出は、22年7月から右肩上がり 


ここが好感されれば、起死回生の支持率改善につながる?


ストリート・インサイツ

金融記者やシンクタンクのアナリストとしての経験を生かし、政治経済を軸に米国動向をウォッチ。NHKや日経CNBCなどの TV 番組に出演歴があるほか、複数のメディアでコラムを執筆中。

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