個人投資家は「TACO取引の揶揄」をどのように考えるべきか

トランプ大統領は相場からの「TACO取引の指摘に憤慨しているらしい」という話が報じられています。相場から略語で評価される現職大統領も前例が無ければ、その報に憤慨する大統領も前代未聞で、ある意味コミカルな構図です。とはいえその揶揄が、世界の経済活動に影響するのも事実です。個人投資家は「TACO取引の揶揄」を、どのように考えるべきなのでしょうか。


TACO取引とは

TACO取引とは、「Trump Always Chickens Out」の略です。日本語では「トランプはいつもビビッて引き下がる」と訳されます。スラング気質の煽り言葉で、トランプ氏が憤慨するのも理解できます(それが全世界に報じられる是非は別として)。


TACO取引と指摘されるのは、もちろん関税交渉です。トランプ政権は各国に対し、まず高関税を提示します。厳しめの態度を示しても最終決定とはせず、一定の時間猶予を与えて相手の出方を待ちます。そのあいだの各国との個別交渉は公開せず、「もうすぐまとまりそうだ」や「相手もよくわかっている」と情報の秘匿性を高めます。そしてあるタイミングで、「個別に合意した!」と持ち上げる流れです。


これを「トランプ氏がリーダーシップを持って交渉をしている」や「アメリカの強さが復活する」ではなく、「トランプはいつもビビッて引き下がる」という評判が聞こえます。事実としてトランプ政権がはじめから合意点を読んでいるのか、それともドタバタと妥協しているのかはわかりませんが、相場は後者としたうえで、厳しい批評を送っています。


またTACO(タコ)はタコスのことであり、我々の食生活にもなじみ深い食材を引用しているという説もあります。タコスはメキシコ料理です。関税をめぐるトランプ氏の朝令暮改振りが、メキシコを相手とした場合によく観察されることを比喩しています。



TACOは押し目買いのチャンスだった

TACOによる具体的なパターンは以下の通りです。


・関税発表時 投資家の恐怖心理により株価が急落

・関税撤回時 安堵感からの株価の回復幅が大きくなる


当初はこの特性を利用して、多くのトレーダーが押し目買い戦略を採用しました。関税発表が途中で変わったことによる「一時的な下落」を、買いの機会ととらえる手法です。


ただ「オオカミ少年」の格言がある通り、何度も何度もTACOが繰り返されると、投資家にとっては「またか」という反応が生まれます。


個人投資家は「TACO取引の揶揄」をどのように考えるべきか

経済メディアを眺めると、多くの投資家はTACOに対し「疲弊」という言葉を使っているため、個人投資家についても同様と考えられます。2025年4月のようにインパクトのある関税方針が出ても、最近は「どうせそのうち変わるだろう」と織り込み済みの反応が増えてきたことは確かです。翌年に中間選挙を控えるトランプ氏が「より過激な策」を取る可能性は残りますが、政治基盤も決して万全ではない同氏を眉を潜めている勢力も否定できません。中間選挙が近づくにつれ、、牙が抜かれてくる可能性も高いのではないでしょうか。

TACOが日本にとって優位に働いた日本製鉄

一度決まった事柄が「再び変わるかも」がプラスに働いたのは日本製鉄をめぐるやり取りです。日本側(日本製鉄+日本政府)は買収に否定的なバイデン前大統領の方針をトランプ氏が引き継いでも、粘り強く交渉を重ね、先日の買収容認の回答を引き出しました。


トランプ大統領の反対意志をアメリカ国内の鉄鋼組合が支持するという構図は、日本側としても逆転を期待できるものではありませんでした。筆者は2024年12月に本メディアで「USスチール買収に懸念される『トランプリセット』とは」という記事を執筆しています。この記事では共和党にとって中間選挙の票田となるアメリカ南西部の「ラストベルト」が方針転換の鍵を分析しましたが、表に出ている情報の限りだと「日本製鉄側の投資確約」がキーポイントになった印象です。


「ポストTACO」

より可能性があるのは、トランプ氏が神輿という状況は引き続くも、政権内のほかのメンバーがより主導権を握る可能性です。関税問題でも多くの局面で、ベッセント財務長官やラトニック商務長官が表に出る場面も目立ちます(日本のカウンターパートが両名という側面もあります)。


トランプ氏は高齢でもあるため、常に「万が一のことがあったらどうするのか」という仮説があります。両名にバンズ副大統領を含めた「ポストTACO」は、今後より存在感を示すことでしょう。一方で政権の主役は何があろうとトランプ大統領です。第一政権期に追放と報じられたような重要幹部の離脱や、先日のイーロン・マスク氏の状況など、トランプ氏は自分の代わりに何者かが主役となることを良しとしない性格があると言われます。今回もその状況が変わらないのか、そして許されるものかは注視しないといけません。


独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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