40代以前は福沢諭吉、40代以上は聖徳太子といえば、壱萬円札の肖像です。来たる2024年の7月、新壱萬円札として渋沢栄一が登場します。肖像画刷新の際は大きなニュースになり、渋沢栄一はNHK大河ドラマでも主役を張りました。正直なところ社会の教科書で名前は何となく知っていたけれど、一気に実績や水戸藩との関係性などを知った視聴者も多いことでしょう。
2024年発行の新札は何が凄いのか
渋沢栄一以外も注目です。2024年発行の新札は壱千円札が破傷風を予防・治療する方法を開発した「近代日本医学の父」と呼ばれる北里柴三郎です。裏面には葛飾北斎の富嶽三十六景が描かれます。五千円札は女性の地位向上と女性教育に尽力した教育家の津田梅子、裏面は日本人に馴染み深い藤の花が彩ります。そして壱萬円札は日本近代社会の創造者、渋沢栄一です。裏面には東京駅丸の内の赤レンガ駅舎が令和の経済発展を見つめています。医学と女性進出と経済のラインナップです。
現行の紙幣が登場したのは2004年です。壱千円札が野口英世、5000円札が樋口一葉、壱萬円札は従前と変わらず福沢諭吉が描かれました。2024年の壱萬円札の交代にて、福沢諭吉はなんと約40年振りに肖像を退任することになります。現在は仰々しく「諭吉さん」というと誰もが壱萬円札を想定しますが、あと10年も経てば「諭吉さんって何ですか」と言われる時代が到来するのでしょうか(そのときには次の刷新があるようか気もしますが)。
注目の高精細すき入れとホログラム
今回の新札で新たに採用される、2つの技術防止技術が注目されています。まずは高精細のすき入れです。肖像の周囲に、緻密な画線で構成した連続模様が施されます。また3Dホログラムとして、3Dで表現された肖像が回転する最先端技術を用いています。銀行券への採用は世界初とのことです。
なぜ日本銀行券は定期的に変わるのか
では、なぜ20年置きのペースで紙幣(日本銀行券)は変わるのでしょうか。定期的に紙幣を刷新する最大の理由は偽造防止です。新紙幣を偽造できたら、国家を揺るがす一大事になります。いわゆるニセ札を放置すると、国がコントロールしている国内の紙幣量が左右されるうえ、日本銀行が独占して紙幣を発行するという前提が崩れます。それは国としての信用力の毀損につながるため、偽造防止は最先端の技術を使って取り組む必要性があります。
また、もう一つの目的はユニバーサルデザインです。目の不自由な方や外国人の方でも紙幣を判別できるように、触覚や紙幣と認識できるデザインの考え方を踏まえた紙幣デザインが世界の潮流です。誰にとっても使いやすいデザインの実現のため、世界基準に合致させたといえるでしょう。
新紙幣の目的はタンス預金のあぶり出し?
第一生命経済研究所の永濱氏のレポートによれば、今回の新紙幣の真の目的は、タンス預金のあぶり出しではいないかという指摘をされています。2022年12月現在、およそ109兆円の現金が家計にあり、流動性を失っているとされています。新紙幣というインパクトにより、お金に流動性を持たせようとする施策です。2024年まで元気でいられた。ならば自宅で保管する現金を持ち出して、渋沢栄一に変えましょうという動機が成り立ちます。
また新紙幣の刷新にともない、永濱氏は金融機関のATMや出納システム、または自動販売機にも特需が発生するだろうと予測しています。新紙幣は人が財布に入れるには何も違和感がないものですが、それぞれの紙幣の精緻な違いを判断する自動販売機にとって、プログラムの読み込みから更新する必要があります。今後新紙幣のニュースが流れてくると、金融機関のSlerや自動販売機関連銘柄にとってチャンスといえるでしょう。自動販売機のみならず、ここ数年で急速に広がっているスーパーやコンビニエンスストアの自動レジは意外な目のつけ所かもしれません。
実はキャッシュレス化の推進が目的?
実にうがった見方かもしれませんが、新紙幣の発行が政府が力を入れるキャッシュレスの推進も目的なのではないかという見方もあります。新紙幣に関連するシステムの導入には、膨大なコストと時間がかかります。
前回の新紙幣導入時の2004年には、キャッシュレスの兆しはありませんでした。今回は既にキャッシュレスは商慣習に入り込んでいます。新紙幣対応のコストを取るか、何となく手をこまねいていたキャッシュレスの導入に本気になるかで後者を選ぶならば、国も願ったり叶ったりというところです。かつ新紙幣導入のコスト負担が大きい金融機関が、同時にキャッシュレスの旗振り役といったポジションに依るところもあるでしょう。
キャッシュレスの姿が見え隠れする、史上初の紙幣刷新となりそうです。それでも私たちは、誰が先に入手してSNSに上げるかといった、期間限定のコレクターになることもまた、今から容易に想像できます。