「夢の国」に異変、フロリダ州ディズニー・ワールドで入場者数が減少
ディズニー・ランドと言えば、大人もトリコにする「夢の国」としてあまりにも有名です。しかし、その魔法が本家の米国で解けつつあるようです。
8月9日に発表した同社の4~6月期(Q3)決算では、1株利益こそ1.03ドルと市場予想の99セントを上回りました。しかし、売上高は同3.8%増の223億ドルと、市場予想の225億ドルを以下に。売上高の伸びを抑えたのは、ディズニー・メディア・アンド・エンターテイメント・ディストリビューション(映画、メディア関連)部門で、同0.8%減の140億ドルでした。一方で、引き続き売上を支えたのはパーク・エクスペリエンス・プロダクツ(テーマパーク関連)部門で、同12.6%増の83.3億ドルに。ただし、同部門も好調だったのは海外のパークのみで、本家の米国内では、特にフロリダ州オーランドにあるウォルト・ディズニー・ワールドで入場者数とホテルの客室収入が減少したといいます。
ボブ・アイガー最高経営責任者(CEO)は、同社の決算報告会見で、フロリダ州のディズニー・ワールドでの入場者数の落ち込みは、リゾートが50周年を迎えた2022年の反動と説明しました。また、ドル高による海外からの来場者の減少を挙げます。
テーマパーク関連情報サイトのインサイドザマジック・ドットコムによれば、「ディズニーの入場者数は著しく減少」している状況で、訪れた観光客が「ゴーストタウンのようだ」との声が聞かれているとか。実際、X(旧ツイッター)では、人影まばらな現地の様子が報告されており、夏休みの土曜日とは思えない閑散ぶりが明らかになっています。また、アトラクションの待ち時間も、独立記念日の7月4日で2014年以降を比較すると、2023年が最も短くピークタイムの12~15時の間でも30分を切っています。
画像:ディズニー・ワールドの4つのテーマパーク内の一つ、エプコットの様子
(出所:Michael/X)
画像:アトラクションの待ち時間、独立記念日の7月4日の比較で2023年(黒字)は最も短い
(出所:Thrill Data/X)
熱波に加え、「政治的な理由」も入場者数の減少招く
フロリダ州のディズニー・ワールドでの入場者数の減少は主に理由は2つで、1つは熱波や台風などの天候不良が挙げられます。ディズニー・ワールドで遊ぶための宿泊費、チケット代、飲食代などの旅行代金を前払いしている場合、万が一、パークが閉鎖に追い込まれた場合、返金に応じられないリスクがあれば、旅行の選択肢から外すでしょう。実際、パーク閉鎖は前代未聞ありません。例えば2022年、ハリケーン“イアン”により、ディズニー・ワールドは9月28~29日まで閉鎖を余儀なくされました。また、熱波も問題です。酷暑の折に限られた日陰、長蛇の列、混雑した園内とあって、特に子供など熱中症にならないとも限りません。
もうひとつは、政治的な問題が挙げられます。ディズニーと言えば、映画「リトル・マーメイド」で日本でも話題になったように、バイデン政権が掲げる「多様性、公平性、包括性(DEI)」を重視する会社のひとつ。だからこそ、人魚のアリエルは赤毛で白人らしい容姿の白人に反し、歌姫ビヨンセの後押しもあって、黒人俳優を起用していました。
また、フロリダ州のデサンティス知事との対立も、保守派とリベラルの代理戦争として思い出されます。デサンティス氏は2022年3月、9歳以下の小学生に性的指向や性自認の議論を制限する、通称“同性愛者と言ってはいけない法”の成立を導き、同措置に反発したディズニーに税制優遇特区の全廃を突き付けました。対するディズニーは税制優遇をめぐり取締役の約定を変更して権利維持を狙うほか、知事を提訴するなど、苛烈な抗争と化していますよね。
実際、デサンティス氏の保守的な政策を懸念する一部のリベラル寄りの団体は、フロリダ州への渡航を全面的に控えるよう警告しています。全米黒人地位向上協会(NAACP)、人権キャンペーン、ラテン系米国市民団体などが、それらに当たります。同時に、保守派の団体はディズニーを批判し、全米家族協会はディズニーのボイコットを呼び掛けます。
業績不振に加え、テーマパークの入場者数の減少もあって、ディズニーの株価は年初来で1.1%安と、S&P500の13.8%高を大幅にアンダーパフォームする状況。いま、魔法の力が欲しいのは、他ならぬディズニーかもしれません。
チャート:年初来のディズニーの株価(青線)と、S&P500(緑線)のパフォーマンス