資生堂がストップ安 決算から読み解く中国市場のリスク

わずか1日で3000億円近い時価総額が消失


化粧品大手の資生堂の業績が低迷しています。同社は11月12日、2023年12月期通期の業績予想を下方修正すると発表。連結純利益予想(IFRS)を従来の280億円から180億円(前期比47.4%減)に100億円引き下げました。これは証券会社のアナリスト予想などの平均値から割り出した市場のコンセンサスである335億円を大幅に下回る水準です。


この下方修正を受けて、11月13日の東京市場で資生堂の株価が急落し、ストップ安となる4185円まで売られました。株価は年初来安値を更新。わずか1日で時価総額が3000億円近く吹き飛んだ計算になります。


資生堂ほどの規模の会社がストップ安なることはめったにありません。なぜ、これほどまでに売られることになったのでしょうか。同社の決算からそれを読み解いて行きたいと思います。


まず、下方修正の要因についてです。同社では通期予想の下方修正とともに、2023年12月期3Q累計(1-9月)決算も発表しました。その内容は、連結売上高が前年同期比5.3%減の7224億円、連結純利益が同29.4%減の205億円。化粧品については国内では人流回復で化粧品需要が回復しており、また欧州や米国でも好調だったとしています。ですが、中国での販売が低調となりました。


同社はそれを東京電力福島第1原子力発電所の処理水放出後に日本製品の買い控えが起きたためと説明しています。中国ではTVCMなどのほかに、YouTubeやTikTokのような動画配信サービスを活用し、多くのフォロワーを持つインフルエンサーに商品を紹介してもらうことで販売を促進するマーケティング策が活発に行われています。


そうした手法が前述した日本製品の買い控えにより行えなくなったことが販売に大きく影響しました。中国向けの売上高は前四半期となる2Q(4-6月)に前年同期比で20%増と好調だったのが、3Q(7-9月)には同9%減と低調。免税などトラベルリテール向けでは同25%減と大幅に落ち込みました。


この中国向けの苦戦を嫌った売りが出たというのが、株式市場での1つの見方です。しかし、個人的にはこれだけではなく、ほかの理由もあったと考えています。それが現地化粧品メーカーの台頭です。


従来、資生堂ブランドといえば、中国でも非常に人気のブランドでした。しかし、直近では独身の日や618商戦といった中国ECのビッグイベントなどで、資生堂をはじめとした日本企業の商品の売り上げが伸び悩むケースが増えてきています。


逆に中国の現地企業の商品は日本製に比べると価格の安さなどもあり、また品質も以前より向上しているということで人気を集めているようです。このままでは割安で品質も上がってきている現地メーカーにシェアを奪われるのではないか、との懸念を投資家は抱いているように思います。


資生堂としては簡単に値下げをしてブランドイメージを傷つけることは避けたいところでしょう。ですが、中国市場はコロナ禍からの経済回復が遅れており、高価格品の売れ行きにも影響が出ていると指摘されています。


資生堂の中国向けの売り上げは前期である2022年12月期で全体の3割近くを占めます。その中国での不振が長引くようだと、同社の業績も長期にわたって低迷することになりかねません。単なる下方修正だけでなく、同社の収益構造からみた業績への影響の大きさを株式市場は懸念しているのかもしれません。


日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

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