日本屈指の観光県である沖縄県は、2つの顔があるといわれています。県庁所在地である那覇や北部の本部にある美ら海水族館に代表される観光の顔、そして北東部のやんばる地域が持つ沖縄古来の自然の顔です。今回、後者のやんばる地域に大自然を活用した大型テーマパークの建設が発表されました。JUNGLIAという名称です。
JUNGLIAとは
どのようなテーマパークができるのでしょうか。建設地は沖縄県の名護市と今帰仁(なきじん)をまたぐオリオン嵐山ゴルフ倶楽部です。当ゴルフ場は既に廃業しており、60ヘクタールの敷地が活用できていない状態です。今回の仕掛人は、大阪でユニバーサルスタジオジャパン(USJ)をV字回復に導いた「再生請負人」こと、株式会社刀の森岡毅CEOです。今回の敷地面積はUSJと同規模とのこと。USJに行ったことのある方は、どれほど壮大な規模感かがイメージできることでしょう。
JUNGLIAは気球に乗って大自然を上からながめたり、ジップラインで滑り降りるアトラクションが発表されています。またゴーカートのようなものに乗って、恐竜に追いかけられる映像も公開されました。おそらくこれは一端で、想像を超える計画が仕込まれていることでしょう。沖縄を囲む海やビーチ、伝統文化なども積極的に取り入れられていくのではないでしょうか。ゴルフ場をアミューズメントパークとして再開発する一般的な計画とは一線を画し、近未来のアミューズメントパークが建設されると著しく期待値が高まります。
では、なぜやんばる地域なのでしょうか。
やんばるを走り感じたこと
まず前提として、今回の建設地がやんばる地域かどうかは受け手によって見解が分かれます。一般的にやんばるは沖縄半島の北東部、国頭村や座間味村、東村といった山林に覆われている地域を指します。
今回建設地の名護市は沖縄県の誇る中核都市のひとつであり、多くの人が持つやんばるの印象とは異なるものです。ヒントはもうひとつの主役、名護市と建設地がまたがる今帰仁村にあります。筆者は沖縄が好きで、夏を中心に沖縄を良く訪れています。名護と今帰仁を結ぶ今回の地域も、レンタカーで何度も通過しています。
沖縄は那覇と名護を結ぶ経済圏以外は、大きな経済格差のある地域です。美ら海水族館のある本部町と、悲惨な歴史を伝えるひめゆりの塔などの南部、そしてリゾート地としての存在感を示す北部の古宇利島や東部の海中道路以外は、「昔の沖縄の姿」を受け継いでいる地域といえるでしょう。ただ、伝統の継承は同時に格差を生みます。
今帰仁村は名護と古宇利島のあいだにあります。今帰仁城などの旧跡があるものの、観光地によった来沖客はその日のうちに那覇に戻ってしまい、「素通りする街」とさえいわれています。農業が主幹産業の今帰仁村は、県内でも特に所得が低い地域として認識されています。
2020年代はやんばるが観光資源になるのでは
一方でやんばる地域に暮らす人々の生活を描いたNHK朝ドラマ「ちむどんどん」が2022年に放送されるなど、やんばるの価値は近年再認識されてきています。ちなみにちむどんどんとは「心がうきうきするさま」のこと。JUNGLIAの建設は来沖する観光客をちむどんどんさせると同時に、現地の所得格差を是正する期待を受けています。
JUNGLIAを楽しんだあとは、本物のやんばるの自然を体験しにいこうと、北東部へ向かう人たちも増えることでしょう。美ら海水族館の恩恵を受けられなかった今帰仁村ですが、今帰仁村発の水族館への流入客も期待できるでしょう。
外国からの観光客を受け入れる方針のもと、日本各地の観光地には外国の人が急増しました。昨今京都では紅葉を目的とした無数の観光客がなだれ込み、市内のバスインフラを始めとした交通のマヒと、古都の風情が失われると大問題になっています。2023年の流行語であるオーバーツーリズムは、まさにこの状態を憂う言葉です。
一方で日本にはまだ、資産化できていない自然遺産も残っています。やんばるはそのひとつです。やんばるの自然を外国観光客の大挙に繋げるのは異論もありますが、沖縄県内における所得格差は早急に是正しなければならない問題です。それは観光立県として2020年からの新型コロナに対し、とても大きな影響を受けた沖縄を回復させる特効薬といえるでしょう。沖縄県内を走る唯一の鉄道であるゆいレールは名護への延伸が叫ばれていますが。JUNGLIAの建設によって名護を超え、今帰仁近くまで伸びる可能性も充分に考えられるでしょう。
今回のニュースは、2020年にやんばるが観光資源として本格展開するきっかけの一報になるのかもしれません。JUNGLIAの建設進捗のニュースが、沖縄を想う多くの方をちむどんどんできるよう祈っています。