NISA口座の名義人が死亡したらどうなる?

2024年からリニューアルする少額投資非課税制度(NISA)は、日本国内に住む18歳以上の人が利用できます。年齢の上限はありませんから、シニアでもNISA口座を開設できます。となると、気になるのはNISA口座の名義人が死亡した場合のこと。NISA口座の相続手続きについて、説明しましょう。


シニア世代のNISA口座数


金融庁では、3ヵ月ごとにNISAの口座数やNISAを通じた投資金額などを調査しています。この調査結果は、投資家の年代別でも集計、公表されています。


2023年までは、1人の投資家は一般NISAまたはつみたてNISAのどちらか一方しか選べません。どちらか1つと言われると、若い世代は長期の積立投資が可能なつみたてNISAを選び、年齢階層が高いほど一般NISAを選択する傾向になっています【グラフ】。




シニアに着目すると、2023年6月末時点のNISA口座数(一般NISAとつみたてNISAの合計)は、70歳代が253万口座、80歳代が130万口座です。2023年3月末に比べ、70歳代のNISA口座数は1.8%増え、80歳代は1.9%増えています。


NISAの名義人が死亡した後の口座移換手続き


NISAへの関心が高まる中、「NISA口座の名義人が死亡した場合はどうなるのか」という質問を頂くことがあります。


NISA口座の中で購入できる金融商品は、それぞれの要件を満たした、上場株式や上場投資信託(ETF)、上場不動産投資信託(J-REIT)、公募株式投資信託です。証券の投資判断は、NISA口座であろうが、課税口座(一般口座、特定口座)であろうが、名義人本人が行ないます。名義人が死亡した後、故人の口座のまま遺族が売却することはできません。相続手続き完了後に、資産を引き継いだ相続人の口座で売却します。


上場株式等や公募株式投信の名義人が死亡した場合、相続人は、故人が取引していた金融機関に、遅滞なく「非課税口座開設者死亡届出書」を提出しなければなりません。


取引金融機関内の相続手続きに必要な書類や手続きの流れは、相続人や被相続人の状況によってケースバイケースです。金融機関によっても詳細が異なったりしますが、一般的には次の通りです。


まず、相続人代表となる人を決めます。故人(被相続人)の口座と同じ金融機関に相続人代表者名義の口座を作り、「相続上場株式等移管依頼書」を提出し、必要な書類を揃えて、上場株式や投信などを相続人代表の口座に移管します。現金化されるのではなく、証券のまま移管されます。このとき、相続人代表者一人だけに移管できる金融機関と、代表者以外の相続人にも移管できる金融機関とがあります。


相続人の口座に移管するという上記の流れは、課税口座(一般口座、特定口座)、NISA口座共通です。


ただし、相続人がNISA口座を開いていても、故人のNISA口座の証券は相続人のNISA口座には移管できません。相続人の課税口座(一般口座、特定口座)に移されます。そうなると、気になるのは相続した後に売却する場合の税金の計算です。


死亡した後のNISAの配当金は、非課税にならない


相続人が故人のNISA口座内の証券を引き継いだ後、その相続財産が値上がりしているケースを見ていきましょう。故人が生前にNISA口座内で購入した証券は、死亡の日(相続発生日)までの値上がり益に対して、NISAが適用されます。つまり死亡日までの差益は非課税です。


ところが、死亡した時点でその人のNISAは終了しますので、この日以降に発生する株主配当金や投資信託の収益分配金は、非課税になりません。非課税で受け取っていても、さかのぼって税金分を納めることになります。


さらに、前述の通り、相続人の口座に移管された相続財産は、課税口座での預かりになります。被相続人のNISA口座から移管された証券は、相続人が売却するにあたり、税金を計算する際の「儲け」は、「死亡の日(相続発生日)の時価」と売却価格との差額になります。


この点は、被相続人が課税口座で証券を保有していた場合と異なります【表】。



では反対に、死亡日にNISA口座内の資産が値下がりしていた場合はどうなるでしょうか。


死亡日までの含み損は、NISAのルール通り「無かったもの」とされます。相続人が引き継ぐ取得価額は、死亡日の時価(終値)。もしも相続後に値上がりし、故人が買った時の価格に戻ったとしましょう。この場合、故人の買い値に戻っただけで実際には利益が発生しなくても、死亡日の時価との差額に課税されます。


NISA口座の名義人が死亡した場合、NISA内の証券は相続人のNISA口座に引き継ぐことができず、課税口座に移管されることを覚えておきましょう。


【参考資料】

NISA・ジュニアNISA口座の利用状況に関する調査結果の公表について」(金融庁)


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

石原 敬子の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております