2023 年 10 月以降に上場承認されるIPOの一部銘柄において、公開価格や上場日程を決めるルールが変更となりました。
今回は、影響が大きいと考えられる「上場日程の柔軟化」と「仮条件の範囲外での公開価格設定、売出株式数の柔軟な変更」について、実際にこの新ルールを適用したIPOを紹介しながら解説したいと思います。
上場日程可変方式のIPO(上場日程の柔軟化)
上場承認時の有価証券届出書や目論見書に、一定の期間(1週間程度の範囲内)の上場日程(条件決定日、申込期間、払込期日、株式受渡期日、上場日など)を記載することが可能になりました。
上場日程可変方式第一号となったのは、Japan Eyewear Holdings(5889 以下、JEH)です。上場承認時点の上場日は、11月16日から11月22日までのいずれかの日が予定されていました。
JEHの当初の上場日程
上場日程可変方式ではブックビルディング期間について、最短日程と最長日程が記載されます。ブックビルディング期間に応じて公開価格決定日が変動し、その後の日程(申込期間、払込期日、上場日)が確定することになります。以下は、JEHの実際の上場日程です。
JEHの実際の上場日程
結論として、上場日程は最短日程となりました。上場日程可変方式ではブックビルディング期間に応じてその後の日程が決まります。つまり公開価格決定日が最短であれば、最短日程、公開価格決定日が最長であれば、最長日程となります。
なお、2023年12月IPOで日程可変方式だったブルーイノベーション(5597)とロココ(5868)も最短日程となっています。
仮条件の範囲外での公開価格設定、売出株式数の柔軟な変更
今回のルール変更では、「一定の範囲」内であれば、ブックビルディングをやり直すことなく、「仮条件の範囲外での公開価格の設定」および「公開価格の設定と同時に売出株式数の変更」ができることが明確化されました。
「一定の範囲」内
では、値付けルール改正後、初の仮条件外の公開価格となったブルーイノベーション(5597)の事例を確認してみます。以下はブルーイノベーションの仮条件決定時の訂正有価証券届出書の記載です。
ブルーイノベーションの「一定の範囲」内に関する記載
ではブルーイノベーションの公開価格などが最終的にどのように決定したか、その結果をみてみましょう。
従来のIPOであれば公開価格は仮条件上限である1320円となりますが、新ルールにより公開価格は仮条件の上限を20%上回る1584円で決定しました。売り出し株数については当初の予定から変更はありませんでした。
なお、ブルーイノベーションの公開価格決定時の訂正有価証券届出書には、「仮条件の上限を上回る価格にも機関投資家などからの需要が多く申告された」と記載されています。
2023年12月IPOではブルーイノベーションのほかにも、以下の銘柄が仮条件の上限を上回る公開価格となっています。
雨風太陽(5616)の公開価格は1044円(仮条件は840円~870円)と仮条件上限を20%上回る値付け可能範囲の上限で決定。訂正有価証券届出書には、需要の申告の結果、672~1044円の範囲内で発行価格を決定する場合ありと記載されていました。
ロココ(5868)の公開価格は1128円(仮条件は900円~940円)と仮条件上限を20%上回る値付け可能範囲の上限で決定。訂正有価証券届出書には、需要の申告の結果、公開価格は720~1128円の範囲内で発行価格を決定する場合ありと記載されていました。
ヒューマンテクノロジーズ(5621)の公開価格は1224円(仮条件は940円~1020円)と仮条件上限を20%上回る値付け可能範囲の上限で決定。訂正有価証券届出書には、需要の申告の結果、公開価格は752円~1224円以下で発行価格を決定する場合ありと記載されていました。
まとめ
「上場日程可変方式のIPO」については、2023年12月14日時点ではすべて最短日程となっています。
上場日程可変方式はブックビルディング期間を伸ばせるという利点はあります。しかし、ブックビルディング期間の延長は、十分な需要が集まっていないとの印象を与える可能性があります。
最短日程とならない場合、投資家がネガティブにとらえてしまう、つまり初値形成にマイナスの影響を与える可能性があるということは留意すべきです。
「仮条件の範囲外での公開価格設定」ですが、2023年12月IPOでは、ブルーイノベーションなどの公開価格が仮条件上限を20%上回る値付け可能範囲の上限で決定しました。当初アナリストはこれが初値形成にも大きなプラスになるとみていましたが、ブルーイノベーションの初値は2023円と公開価格1584円を上回ったものの、アナリストが期待したほどの上昇にはなりませんでした。
公開価格の仮条件上限を20%上回る値付け可能範囲の上限での決定は、いまのところは初値形成に大きなプラス影響は与えないとみられています。ただ新ルールは始まったばかりです。初値形成は地合いの影響を受けやすいこともありますので、サンプルを増やしながら引き続き分析を進めていく必要があると考えます。