ペアトレード・チャレンジ 「JAL」と「ANA」

ペアトレード・チャレンジではペアトレードの実際の事例を紹介していきます。今回はペアトレード・チャレンジの初回ですので、基本的な事項を説明した後に事例を紹介します。


ペアトレードとは

ペアトレードは「似たような動きをする銘柄」の「売りと買いを組み合わせる」という投資手法であり、リスクを抑えつつ利益を狙う取引といえます。なお、買いについては現物取引であれば簡単にスタートできますが、売りは信用取引の売り(空売り)を行うことになりますのでハードルが上がります。




空売りとは

まず、空売りについて簡単に説明します。空売りとは保有していない株を売り、その後に買い戻して返済する取引です。以前は信用取引を行うハードルが高かったのですが、オンライン証券の台頭や権利落ち後の株価の下落リスクを避けることを目的とした「つなぎ売り」の一般化などもあり、最近は身近になっています。


「信用取引口座を開設したが、つなぎ売り以外で信用取引は行っていない」という人も多いと思います。空売りを行える(売りから取引を行うことができる)ということは株価の下落局面で利益をあげるチャンスを持つということです。利益の獲得機会を広げることにつながりますので、自身のリスク許容度にあわせた活用を検討してみてください。



似たような動き?

似たような動きをするかどうかは、相関係数をみることでわかります。相関係数とは2種類のデータ間の関連性を示す指標です。-1以上1以下の値となり、1に近づくほど正の相関の関係が強くなる(同じ動きになる)、-1に近づくほど負の相関の関係が強くなる(逆の動きになる)ことになります。


簡単に言えば、銘柄Aの株価と銘柄Bの株価の相関係数が1であれば、銘柄Aの株価が大きく上昇すれば、銘柄Bの株価も大きく上昇するということです。ここでは詳細の説明は省きます。相関係数が1に近いほど「似たような動きをする」という結論だけ覚えてください。



ペアトレードの利益の源泉

銘柄Aの株価と銘柄Bの株価について、相関係数がかなり高い(かなり似たような動きをする)とすれば、以下のように価格差がほぼ一定になると考えられます。



もちろん実際の株価は一定の価格差を維持することはありません。以下のようにある程度似た動きになりつつも、価格差は拡大したり、縮小したりします。



ペアトレードにおいては、一定期間の価格差の平均(平均価格差)を出します。そして、平均価格差と実際の価格差を比較します。

実際の価格差が平均価格差と比較して拡大または縮小しているということは、どちらかの銘柄について「買われ過ぎ」または「売られ過ぎ」が発生していると想定されます。その場合に、「一時的に価格差が拡大または縮小しているが、平均価格差に戻るはず」と考えます。この「平均価格差に戻る動きがペアトレードの利益の源泉」となります。



ペアトレ・チャレンジ「JALとANA」

今回はペアトレードの例として、日本航空(9201)とANAホールディングス(9202)を取り上げます。以下は両社の株価(2024年1月16日の終値)などをまとめたものです。なお、相関係数と平均価格差ともに150日分のデータを使用して算出しています。



平均価格差279.29円に対して、実際の価格差が383円と大きく開いています。JALとANAの相関係数は0.95とかなり1に近いので同じ動きをする可能性が高いと判断できます。


ここで、以下のようなペアトレードを実施しました。なお、同じ株数を買うのではなく、投資金額をほぼ同額にすることがポイントです。


JALの買い(2775円で1100株:投資金額305万円程度)

ANAの売り(3158円で1000株:投資金額316万円程度)


この場合、実際の価格差と平均価格差は100円程度開いています。したがって、「ANAの株価が100円下がる」、「JALの株価が100円上がる」、「ANAの株価が50円下がるとともに、JALの株価が50円上がる」といった動きが期待されます。今回の取引では、平均価格差まで戻れば10万円程度の利益が見込めます。



ペアトレードのリスク低減効果

ペアトレードは見た目の投資金額は大きくなりますが、相関係数が高い銘柄の買いと売りを組み合わせですので、それぞれが逆の動きをすると想定されます。これにより、理論的な最大損失をかなり抑えることができます。

ここでは各項目の説明は省きますが、以下の事例からリスク低減効果があるということを認識してもらえればと思います。


JALの買い(2775円で1100株)のみの場合

理論的な最大損失(VAR:バリューアットリスクで算出)は5万5000円程度(2024年1月17日時点)。

ANAの売り(3158円で1000株)のみの場合

理論的な最大損失(VAR:バリューアットリスクで算出)は6万5000円程度(2024年1月17日時点)。


上記を組み合わせた場合はどうかというと、

JALの買い(2775円で1100株)+ANAの売り(3158円で1000株)の場合

理論的な最大損失(VAR:バリューアットリスクで算出)は9000円程度2024年1月17日時点)まで低下します。


このように相関係数が高い銘柄の買いと売りを組み合わせればリスクを抑えることができます。



ペアトレードの注意点

JALとANAの価格差については、年明けから拡大していますので、1月2日に発生した羽田空港における衝突事故の影響があると想定されます。航空保険が適用される見通しとはいえ、この事故がJALの業績にマイナス影響を与えることが懸念されているようです。


実際のペアトレードでは、今回のJALとANAの事例のような「価格差に影響を与える事象(この場合は衝突事故)がない」ことが望ましいといえます。理由がないのに価格差が拡大、縮小しているからこそ、平均の価格差に戻ると期待することができるからです。


ただし、一時的な影響に限られるのであれば、時間の経過とともに価格差は平均に戻ると考えることもできます。JALとANAの価格差が平均の価格差に戻るのか、それとも拡大したままなのか、どのような結果になるか、ぜひ注目してみてください。



日本株情報部長

河賀 宏明

証券会社、事業会社におけるIR担当・経営情報担当、FPや証券アナリスト講師などを経て2016年に入社。 金融全般に精通。証券アナリスト資格保有。 「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別株を中心としたニュース配信を担当。 メディア掲載&出演歴 株主手帳、日経CNBC「朝エクスプレス」、日経マネー

河賀 宏明の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております