世界最大手の半導体受託製造企業であるTSMC(台湾積体電路製造)は2024年2月24日、熊本県菊陽町の熊本工場で開所式を開催しました。
同社からは創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏や劉徳音(マーク・リュウ)会長らが出席したほか、日本政府からは斎藤経済産業相ら代表としてあいさつ。民間では熊本工場の運営会社に出資するソニーグループの吉田憲一郎会長兼CEOやデンソーの林新之助社長、トヨタ自動車の豊田章男会長らも出席したもようです。国内外の重要人物が集結し、同週末には式のもようがメディアで相次いで報じられるなど、非常に注目を集めまたイベントとなりました。今後、熊本工場では画像センサーや自動車向けとなる12~28ナノメートルのロジック半導体を今年10~12月から量産する予定です。
2021年に同社が熊本工場の建設を決めてから、2022年4月には着工。そこから今回の開所式までわずか2年ほどかなりのスピードで計画が進んできました。同社が2022年の建設している米アリゾナの工場において、たびたび生産開始時期が延期されているのとは対照的です。
アリゾナ工場は当初、2024年の生産開始を目指していました。それが2025年にずれ込むこととなり、直近では2026年まで遅れる見通しとなっています。ほぼ2年で竣工した熊本工場がどれだけ異例のケースであるか、お分かりいただけると思います。
では、なぜこれほどスムーズに計画を進捗させることができたのでしょうか。それには日本の官民一体となった支援体制が欠かせなかったように思います。報道によれば、開所式でTSMCの劉徳音会長は、熊本工場を運営する子会社JASMが地域経済に早く溶け込むことを共同出資するソニーグループとデンソーが後押ししたと説明。トヨタ自動車の出資で「JASMがさらに勢いを増すと期待している」と話したとのコメントを紹介していました。
また、熊本県の蒲島郁夫知事は開所式で、「TSMCの進出決定以降、熊本は歴史的な変革期を迎えている。第2工場のスムーズな立ち上げのサポートを全力で行う」と述べたことも報じられています。
TSMCの第1工場は、総投資額が約1兆円で、このうち日本政府が最大4760億円を支援しています。また、建設が決まっている第2工場は最大7320億円の支援を行うことも明らかになっています。継続的な支援に意欲を見せる政府や地元自治体に加え、民間企業の尽力も重要な役割を果たしました。
建設を担当した鹿島建設では、一日数千人の作業員が3交代24時間体制で工事を進めたことで納期を守りました。また、JASMに出資するソニーはTSMCが日本進出を決めた当初から連携し、用地取得や自治体への許認可など、さまざまな分野で立ち上げに協力していたもようです。
これらの取り組みが奏功し、短期間でのプロジェクト実現に結び付いたのでしょう。今後、第1工場の生産開始、そして第2工場の建設から、検討中との報道がある第3工場まで、ますます九州のシリコンアイランドとしての存在感は増していくことになるでしょう。
足もとでは半導体関連としてエヌビディアが注目され、AI関連の物色が活況となっていますが、週末の報道を受け、2月26日の株式市場では、九州電力や九州リース、九州フィナンシャルグループ、九電工といったご当地銘柄が買われる場面が目立ちました。
TSMC熊本工場においては、半導体に限らず幅広い産業に波及効果が期待されており、またその活況ぶりが実際にメディアなどからも伝わっています。開所式をきっかけに改めてこうした銘柄に注目が集まることで、AI一辺倒から物色の幅が広がり、力強い日本株の上昇につながることを期待します。