【米国株インサイト】宇宙開発セクター(前編): NASAが月面探査を主導、活気づく宇宙ビジネス

米航空宇宙局(NASA)は月面探査・開発を目指す「アルテミス計画」を主導しています。第1段階(アルテミス1)として2022年11-12月に月の周回軌道に無人宇宙船を投入するミッションに成功しており、2025年9月以降に実施する第2段階(アルテミス2)では月の周回軌道に有人の宇宙船を投入する予定です。


また、第3段階(アルテミス3)では宇宙飛行士の月面着陸を目指します。2026年9月以降に実行する予定で、女性や有色人種の飛行士が選ばれる見通しです。これまでに月面に降り立ったのはすべて白人男性で、実現すれば女性や有色人種が月面に立つ初めてのケースとなります。


ちなみにアルテミスはギリシャ神話に登場する女神の名で、アポロの双子の姉です。1960-70年代に米国が推し進め、人類を月に降り立たせるという成果を挙げた「アポロ計画」から半世紀以上。双子の姉の名をつけた月面探査・開発計画が本格的に稼働しているのです。


アルテミス計画では、月や火星の探査・開発に向けた中継基地となる月周回有人拠点(ゲートウェイ)を設ける予定で、完成時期の目標は2028年です。国際宇宙ステーション(ISS)のように米国を中心に多国間が協力する事業になる見通しで、月面基地の建設や月での資源探査・開発という将来のプロジェクトに向けて足場を築くのが狙いです。



米国の宇宙ビジネスでは、アルテミス計画など政府主導のプロジェクトが基盤になっており、NASAから業務を受注するケースが多いようですが、通信衛星や気象衛星の打ち上げなど民間の宇宙ビジネスも活発化しています。


米国の非営利団体である宇宙財団 (Space Foundation)が2023年7月に発表したリポートによると、世界の宇宙関連の経済規模は2022年に前年比8%増の5460億ドルに達しました。内訳は国防費を含む米国政府予算が695億ドル、ほかの国の政府予算が合計で491億ドルです。


商業セクターの経済規模は8%増の4276億ドルで、全体の78%を占めています。需要の増加を背景に衛星ブロードバンドサービスの規模が17%増、人工衛星の製造事業(ビジネス向け)の規模が35%増と拡大しています。


宇宙ビジネスの民間企業としてはテスラ(TSLA)の最高経営責任者(CEO)のイーロン・マスク氏が率いるスペースXやアマゾン(AMZN)のジェフ・ベゾス会長が設立したブルー・オリジンなどの注目度が高いのですが、残念ながら両社とも未上場です。


ただ、宇宙財団によると、宇宙関連の経済規模は2040年までに1兆ドルに到達する見通しで、一段の成長が見込まれています。スペースXやブルー・オリジンを除いても米国の産業基盤はぶ厚く、多彩な企業が競い合っています。


宇宙という極限ともいえる環境で培った技術や知見は地球上でのビジネスにも生かせそうです。今回は宇宙開発セクターの上場企業をご紹介します。


ロケット・ラブUSA、スペースXのライバルか

ロケット・ラブUSA(RKLB)は小型人工衛星の打ち上げサービスや宇宙船の開発・製造、関連部品の製造などを手掛けています。低価格の打ち上げ費用に定評があり、スペースXに挑む存在と目されることもあるようです。


創業者はニュージーランド出身のピーター・ベックCEOで、ロケットの発射場もニュージーランドにあります。本来は米国の発射技術や宇宙船関連の技術を使って米国外で打ち上げることは認められないそうですが、ロケット・ラブUSAの場合は米国・ニュージーランド両政府が結んだ条約に基づき許可されています。


地上から500-2000キロメートル程度の高度(地球低軌道)を周回する人工衛星の打ち上げサービスが主力事業でしたが、最近では人工衛星の基本機能を正常に動作させるための衛星バス「フォトン」をはじめ、関連部品の設計や開発を手掛ける宇宙システム部門が急速に成長しています。


NASAが主導するアルテミス計画でもフォトンが衛星バスとして利用されました。2022年2月に行われたNASAの小型衛星「CAPSTONE」を月の周回軌道に投入するミッションでは、ロケット・ラブUSAのロケット「エレクトロン」で打ち上げ、地球の軌道に入った後はフォトンで軌道修正を繰り返しました。フォトンはその後、地球の軌道を脱して月の周回軌道に向かい、CAPSTONEを切り離しています。



一方、打ち上げ事業では重量300キログラムを上限に地球低軌道に衛星などを打ち上げるエレクトロンを運用していますが、中型ロケット「ニュートロン」の開発に取り組んでいます。スペースXの中型ロケット「ファルコン9」と規模が近く、スペースXのライバルになり得るとの見方も出ているようです。


2023年12月期の売上高は打ち上げサービス部門が前年同期比18.5%増の7200万ドル、宇宙システム部門が14.9%増の1億7300万ドルです。全体の売上高に占める比率はそれぞれ29%、71%です。


ヴァージン・ギャラクティック、宇宙旅行事業を展開

ヴァージン・ギャラクティック・ホールディングス(SPCE)はヴァージン・グループの創業者である英国の実業家、リチャード・ブランソン氏が立ち上げた宇宙旅行の会社です。ブランソン氏も2021年に打ち上げ実験で宇宙に行っています。


ヴァージン・ギャラクティックの宇宙旅行は宇宙船をロケットで地上から打ち上げるのではなく、母船となる双胴機で宇宙船を4万5000フィート(約1万3500メートル)の上空まで運び、切り離します。その後に宇宙船がエンジンを噴射し、宇宙に向かうという段取りです。


旅行は日帰りでフライト時間は60-70分程度です。2023年6月に初の商用の宇宙飛行に成功。その後は約1カ月に1回のペースで実施し、2024年1月までに計6回の商業飛行を行っています。


旅行基本料金は45万ドル(約6750万円)です。1時間強のフライトに要する費用として高いのか安いのか判断は人それぞれだと思いますが、2023年末時点で750人分の予約が入り、差し入れられた保証金は9970万ドルに上っています。


中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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