【米国株インサイト】オンライン旅行会社(後編):ブッキング、宿泊施設400万件の予約取り扱い

オンライン旅行会社(OTA)とは実店舗を持たず、ネット上で宿泊や航空券の予約を受け付けて完了させる事業者のことです。日本でもOTAが提供するサービスへの需要は大きく、リクルートホールディングスが手掛ける「じゃらん」や楽天グループの「楽天トラベル」などのブランドがよく知られています。


世界の旅行業界は新型コロナウイルス流行を受けて凍りつきましたが、行動制限の緩和とともに徐々に回復し、コロナ前の業績を上回るOTAも増えています。前回はエクスペディア・グループ(EXPE)とトリップアドバイザー(TRIP)をご紹介しました。今回はブッキング・ホールディングス(BKNG)、エアビーアンドビー(ABNB)、トリップ・ドットコム・グループ(TCOM)の3社を取り上げます。


ブッキング・ホールディングス、220カ国・地域の宿泊施設を仲介

ブッキング・ホールディングスは宿泊や航空券などのオンライン予約サービスを手掛けています。主力プラットフォームの「ブッキング・ドットコム」は2024年末時点で220カ国・地域の約400万件の宿泊施設の予約を取り扱い、うちホテルが約50万件、貸別荘やマンションなどが350万件です。航空券やツアー、アクティビティーは世界1700都市で予約ができ、40カ国語以上で顧客サポートを提供しています。


プラットフォームは多様です。割引価格で宿泊予約や航空券を提供する「プライスライン」、アジア太平洋を中心にオンライン予約サービスを展開する「アゴダ」、旅行サイトを一括して検索して航空券やホテルなどの料金を比較できる「カヤック」、レンタカー予約の「レンタルカーズ・ドットコム」、レストラン予約の「オープンテーブル」を運営しています。



利用者にとって使い勝手が良いプラットフォームを提供します。豊富な情報に基づく宿泊物件の紹介、支払い方法を含めた多様な選択肢などが特徴で、個別の利用者に精度の高いレコメンデーション(推奨)を実現する洗練されたアルゴリズムに強みを持っています。


OTAで世界最大級の事業規模を誇っており、予約件数も膨大です。2024年12月期の総予約件数は前年同期比9.9%増の1655億8000万件で、内訳はネット上で決済して代金を受け取るマーチャント型が27.5%増の1041億8200万件に急拡大する半面、仲介手数料を得るエージェント型が10.9%減の613億9800万件に落ち込んでいます。マーチャント型への移行を進める経営方針が反映されました。


エアビーアンドビー、パリ五輪後に予約件数が増加

民泊仲介サイトを運営するエアービーアンドビーの旧社名はエアーベッド&ブレックファーストです。サンフランシスコでルームシェアをしていたブライアン・チェスキー氏とジョー・ゲビア氏は家賃の支払いに窮し、苦肉の策としてアパートの空き部屋にエアーベッドを膨らませて有料で旅行者を泊めました。この経験が起業のアイデアとなり、社名にも反映されたといわれています。


宿泊場所を探す旅行者(ゲスト)と空き部屋を貸したい人(ホスト)をつなぐプラットフォーム「エアービーアンドビー」は2008年に誕生しました。2025年3月にはホストの数が500万人、宿泊施設やアクティビティーの数が800万件を超えています。



業績は2024年12月期決算の売上高が前年比11.9%増の111億200万ドルと好調でしたが、純利益が44.7%減の26億4800万ドルと落ち込みました。前年に多額の税金還付があった反動が痛手となりました。


一方、2024年12月期には宿泊・アクティビティー予約件数は9.8%増の4億9200万件に達しています。特にアジア太平洋と中南米が好調でした。



報道によると、パリ五輪終了後の8月中旬から予約件数が増え始めたそうです。ちなみにエアービーアンドビーは、コカ・コーラ(KO)などと並び、国際オリンピック委員会(IOC)の最上位スポンサーの「ワールドワイドオリンピックパートナー」の1社です。五輪期間中にブランドの露出が増えた効果であれば、莫大な広告料のほんの一部を回収できたと言えそうです。


トリップ・ドットコム・グループ、中国のOTA大手

トリップ・ドットコム・グループはオンライン旅行予約サービスの大手で、中国を中心に事業を展開しています。中国では「携程(シートリップ)」や「チューナー・ドットコム」のプラットフォーム、海外では「トリップ・ドットコム」などを通じてサービスを提供しています。


宿泊施設や航空券などの予約をはじめ、パッケージツアーや企業向け出張手配も取り扱います。2024年12月期の売上高に占める割合は宿泊予約が40.5%、交通機関チケットが38.0%、パッケージツアーが8.1%、出張手配が4.7%などとなっています。


M&Aで業容を拡大しており、2015年にはナスダック市場に上場していた「チューナー・ドットコム」の運営会社を買収しました。2016年には格安航空券を一括に検索するプラットフォームで世界的な大手の「スカイスキャナー」を運営するスカイスキャナー・ホールディングスを傘下に収めています。



また、ナスダック市場に上場するインドのオンライン旅行会社、メイクマイトリップ(MMYT)にも出資しています。2024年3月末時点の出資比率は45.9%で、筆頭株主です。さらに中国の大手ホテルチェーンの華住集団(HTHT)に7.0%を出資しています。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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