カイロスロケット打ち上げ「失敗」に見る、日本人が挑戦に向ける眼の変化とは

3月13日夕刻、和歌山県串本町・那智勝浦町にある「スペースポート紀伊」から民間ロケットのカイロス号が打ち上げられるも、リフトオフの5秒後に空中で爆発しました。その後行われた記者会見では、「飛行中断システム」がロケットを爆破したという見方を明らかにしました。ロケットの打ち上げ失敗と聞くと、昨年のH3ロケットにおける「打ち上げは失敗だったのですか」のやり取りを思い出します。


「それは一般に失敗といいます」から1年

約1年前の2023年2月、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が打ち上げた「H3ロケット」が発射直前に打ち上げ中止となりました。異常を検知して着火信号が送られなかったことが原因と判明しています。


印象深かったのはその後、JAXAの担当者と共同通信の記者とのあいだで、今回の打ち上げは失敗なのか、それとも失敗ではないのかというやり取りが行われたことです。当時のやり取りをかいつまんで掘り起こします。


(共同)意図的にシステムが止まることを失敗と言うのではないか


(JAXA)こういう事象は時々ロケットにあるので、失敗ではない


(共同)みなさんのなかでは失敗ではなくとも、(社会から見ると)失敗なのでは?


(JAXA)予期する設計のなかで止まっているので、失敗とは言い難い


(共同)システムで対応できる範囲の異常だが、考えていなかった異常が起きて打ち上げが止まったということですよね?


(JAXA)異常を検知したら止まっているなかで、安全、健全に止まっているのは今の状況


(共同)それは一般に失敗といいます



当時、捨てゼリフ感のある最後の言葉と、失敗という定義に誘導したい思惑が見え、Twitter(現X)は大荒れとなりました。記者会見の質問のみならず、共同通信が「発射は失敗」と断定口調で報じたことも後押ししました。なおその後、2024年にH3ロケットは無事打ち上げに成功しています。


「すべては今後の挑戦の場」に対する社会の反応

あれから1年、今回の打ち上げはJAXAではなく、民間企業のスペースワンという会社です。同社の豊田社長は、「スペースワンとしては失敗という言葉を使わない。すべては今後の挑戦の糧であり、会社の文化だ」という発言をしました。


スペースワンは研究機関ではなく、民間の企業です。打ち上げ失敗を受け、同社の親会社であるキャノン電子(7739)は株価を下げました。


 


ただ昨年の失敗のように「絶対に失敗だ」という声はあまり大きくないように思えます。確かにメディア各社は「打ち上げ失敗」と昨年と同じように配信していますが、世論を見ると「次に期待」という言葉が多いのではないでしょうか。昨年と何が変わったのか、と感じる部分です。いまや数々のロケット打ち上げを成功させているイーロン・マスク氏が「Rockets are hard(ロケットは難しい)」と共感の意を投稿したからでしょうか。


この先に成功がある!となればロケット産業はステップアップする

もちろん昨年のように「失敗ですよね」という声が社会を覆わなかったから、日本人がロケット打ち上げの挑戦に対し賛同するようになった、というのは雑な断定です。昨年失敗と誘導してSNSで叩かれたマスメディアの人間がいなかったとも、JAXAのように国の事業では無かったためとも、さまざまな見方をすることができます。今回記事を執筆するにあたって、「失敗ではないと紛糾しなかった=日本人が挑戦に寛容になった」と結びつけて本当に良いのかは、最後まで悩んだ部分です。


ただ、それでも投資メディアの連載として、日本のロケット産業はステップアップの可能性に期待できるのではないでしょうか、と主張したいと思います。そんななか、興味を引くニュースがありました。


ispaceによる最大200億円の公募増資


それは、日本で上場する月面輸送サービスの ispace(9348) が発表した海外での公募増資です。同社子会社が開発する月面着陸船が2026年にロケットに搭載されて打ち上げられる予定であり、打ち上げ費用や着陸船に搭載する、通信衛星の購入代金を目的としたものです。


2022年に同社子会社の参画する民間チームは、提案した月面輸送サービスがNASA(アメリカ航空宇宙局)の企画に採択されていました。アメリカを中心に世界中で進む「民間資力を活用した宇宙産業の発展」に、日本の企業が参画している状況です。日本の宇宙技術は、何も日本で打ち上げ無くてはならないわけではなりません。宇宙飛行士のように海外から宇宙に飛び立つように、世界規模での波に乗る動きに今後も期待できるでしょう。


願わくば今回感じた「宇宙産業への挑戦において、失敗の先を見るようになったかもしれない」という感触が本物で、世界的な挑戦の一翼を担うための、後押しが生まれていて欲しいものです。


独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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