米7月CPIはエネルギーが押し下げ鈍化、0.5%利上げ観測が優勢に
米国で、インフレがピークアウトする期待が高まっています。
米7月消費者物価指数(CPI)は前月比横ばいとなり、市場予想の0.2%を下回りました。2005年9月以来の伸びとなった前月の1.3%から急速に鈍化し、2020年6月以降、25ヵ月連続の上昇トレンドに一旦、終止符を打った格好です。原油価格が8月にかけ90ドルを割り込む過程で、エネルギーが下落に反転、CPIを下押ししたためです。そのほか航空運賃がシーズンオフを前に下落幅を拡大させ、娯楽・宿泊も2ヵ月連続でマイナスに。また、自動車大手ゼネラル・モーターズが7月に未出荷の約9.5万台相当を数ヵ月以内にリリースできる見通しを示したように、半導体不足の問題が緩和されるなか中古車も下落に転じました。前月に急騰した自動車修繕に加え、帰属家賃や家賃も高止まりしつつ前月を下回る伸びとなっています。
CPIは前月比横ばい、エネルギーが押し下げ
以下は、米CPIの詳細です。
内訳を前月比でみると、エネルギー(全体の7.3%を占める)が4.6%下落し、前月の7.5%の上昇から3ヵ月ぶりにマイナスに反転した。ガソリンに至っては2020年6月以来の高い伸びに並んだ同11.2%上昇から、一気に7.7%へ下落。なお、全米自動車協会(AAA)によると、米国のガソリン小売平均価格は6月13日には5ドルに乗せたが、8月11日時点では3.999ドルと4ドル台を割り込むまで下落した。その他のエネルギーでは、電力など公益が0.1%上昇し、前月の3.5%を下回った。電力が1.6%と前月の1.7%に続き高止まりしたが、ガスが2005年10月以来の伸びを記録した前月の8.2%の上昇から3.6%の下落に転じた。
エネルギー以外では食品(全体の13.4%を占める)が前月比1.1%上昇、前月の1.0%を上回った。コロナ禍で経済活動が停止した20年4月(1.4%)に近い水準を保つ。詳細をみると、食費が同1.3%上昇し、前月の1.0%を上回った。ウクライナ情勢緊迫化が続くなかシリアル・パンは同1.8%上昇、2020年4月(2.8%)以来の高い伸びだった前月の2.1%から鈍化も、高止まりが続く。肉類・卵・魚は0.5%の上昇、2020年9月以来のマイナスとなった前月の0.4%下落からプラスへ戻した。なお、肉類の高騰を背景にバイデン政権は1月3日、寡占状態の食肉加工業者の間で競争を推進すべく、独立業者を支援するため10億ドル投じると発表した。外食は1981年3月以来の伸びとなった前月の同0.9%から、0.7%に鈍化した。
CPIコアは前月比0.3%上昇し、市場予想の0.5%や前月の0.7%を下回った。なお、21年6月は同0.9%と1982年6月以来の伸びへ加速していた。
食品とエネルギー以外をみると、自動車保険が加速しつつ、自動車関連は伸び鈍化が目立った。6月に1974年9月以来の伸びへ加速した自動車修繕のほか、新車は前月以下の伸びに。中古車は3ヵ月ぶりに下落に転じた。その他、住宅価格の上昇や在庫不足を受け加速していた帰属家賃や家賃は、小幅ながら伸びが鈍化した。夏場のセールが開始したためか、服飾も下落。その他、季節的要因(春先に値上がりし、夏にかけて鈍化)を受けて、航空運賃や宿泊は2ヵ月連続で下落した。
CPIは前年比で8.5%上昇し、市場予想の8.7%を下回った。1981年11月(9.6%)以来で最大の上昇率を記録した前月の9.1%で、ピークアウトの期待が高まる。CPIコアは6月に続き同5.9%上昇し、市場予想の6.1%に届かず。2ヵ月連続で6%台を割り込んだ。
CPI、前年同月比は約40年ぶりの高い伸びだった6月から鈍化
以上、米7月CPIの結果を受け、FF先物市場では9月20~21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.75%利上げ観測が後退し確率は発表当日に42%と、米7月雇用統計直後の68%から低下しました。逆に、0.5%利上げ観測は58%へ上昇。8月11日には、米8月卸売物価指数が前月比で2020年4月以降初めて下落に転じたため、0.5%利上げ観測が64%まで広がりました。
ガソリンと電気代高騰の二重苦から解放、個人消費下支えに期待
夏が終われば、ドライブ・シーズンと呼ばれる行楽期間が終わりガソリン需要の低下が見込まれます。また、消費者にとっては気温の低下により、電気代の負担が軽減されることもグッドニュースでしょう。米国の中低所得者層の一部では、自主的に節電にいそしむ必要がありました。テキサス州やオクラホマ州で華氏110度(摂氏43度)と1936年以降の観測史上で過去最高を記録するなか、低所得者層を中心に電気代が払えない人々が少なからず存在していたためです。
米国エネルギー支援業者協会(NEADA)によれば、2022年の光熱費は前年比20%上昇の540ドルとなる見通しのなか、エネルギー価格の高騰に加え、実質所得の減少も家計負担に重く圧し掛かっていました。実質の平均時給の伸びは7月に前年同月比3.0%減(生産労働者・非管理職は同2.7%減)と、2021年4月以降続くマイナス基調をたどります。米7月雇用統計では平均時給の伸びが5%台であるものの、CPIの上昇に追いつかず、消費者にしわ寄せがきていることが分かります。
NEADAが4月27日から5月9日に実施した調査によれば、2021年に1ヵ月以上にわたり、光熱費を滞納した世帯は20.5%に及びました。年収3.5万ドル(約480万円)以下の世帯では、37.8%に及ぶ。気温が過去最高を更新しエネルギー価格が急騰するなかで今年、光熱費を捻出できない家計が増えていてもおかしくありません。最悪の場合は滞納により電力が止まり、熱中症で死亡するリスクを高めます。なお、ボストン大学などの調査団体によれば、猛暑により2020年に5,600人が命を落としたといいます。
政府支援も、限られる状況です。低所得住宅向けエネルギー支援プログラム(LIHEAP)は、割り当てられた各州政府が低所得者向けの冷暖房の負担を軽減するものだが、米国低所得向け住宅連盟によれば、コロナ関連の支援策を除く対象者は2021年度(21年9月終了)で590万世帯に過ぎません。全米での世帯数は1億2,740万を数えますが、支援対象は5%程度ということになります。
熱波により光熱費の負担が被さり、ただでさえ値上がりが著しいガソリンと合わせ、家計にとって二重苦となっていました。原油先物がピークアウトするなかでは、こうした二重苦から一旦解放されることとなり、個人消費を下支えする期待が高まります。同時に、バイデン政権にとっては、中間選挙を前に支持率の一段低下を食い止める好材料となりそうです。