2024年の春闘が好調であり、大手企業において賃上げ要求に対しての満額回答が相次いでいます。連合の中間発表でも5%を超える賃上げを実現しているため、33年ぶりの大幅な給与アップを経験している状況です。
ただし、業績好調な大手企業とは裏腹に、賃上げされない会社があるのも事実です。そこで今回は賃上げに関するアンケート結果を踏まえ、給与アップを実施できない理由について解説します。ぜひ参考にしてみてください。
賃上げを実施しない予定の企業は全体の約14.3%
2024年の賃上げの動向については、東京商工リサーチのアンケート調査を参考にすると、全体の14.3%が実施しない予定でした。
画像引用元:2024年度「賃上げに関するアンケート」調査|東京商工リサーチ
大企業に限定すると9割以上は賃上げに踏み切る予定です。また中小企業では84.9%にとどまり、大企業との開きがありました。
一方で、賃上げの内訳をみると「ベースアップ」を検討している企業は全体の62.5%であり「賞与の増額」は全体の43.36%でした。
また5%未満の賃上げ率になると回答した企業のうち、全体の7割を下回っていた業種は「卸売業」「不動産業」「サービス業他」でした。
画像引用元:2024年度「賃上げに関するアンケート」調査|東京商工リサーチ
春闘の結果をみると、新型コロナウイルスによる業績の悪化から回復し、インフレの影響を考慮して賃上げに踏み切った企業が多いです。しかし、業績が伸びなかった企業は、定期昇給やベースアップの原資を捻出できない厳しい状況にあると予想されます。
賃上げされない企業における3つの理由
賃上げされない大きな要因として、企業側が給与にあてる原資を確保できないことが大半です。
そこで東京商工リサーチのアンケート結果をもとに、賃上げできない企業における3つの理由について解説します。
1. 原材料価格や光熱費の高騰
原材料価格や光熱費は、2022年を境にして大きく上昇しています。輸入価格の高騰を背景として、日本ではここ10~20年で経験したことのないインフレになりました。
仕入にかかる原材料やサービス、光熱費などのコストも増加しているため、企業の利益を大きく圧迫しています。
2. コスト増加分を十分に価格転嫁できていない
原材料価格や光熱費の高騰を商品価格に反映できていれば問題はありません。しかし、コスト増加分を十分に価格転嫁できていない企業は、例年より利益が減少し厳しい経営状況に陥っています。
取引先との関係性から価格を据え置きしているケースもみられます。商品やサービスの値上げに踏み切れなかった企業は、厳しい経営状況に陥っているかもしれません。
3. 今後の受注の先行きに不安がある
継続的な受注が見込めるなら問題ありませんが、商品価格の上昇にあわせて販売数の減少が起こるかもしれません。そこで今後の受注が読めない企業は、賃上げが経営の負担になることを恐れ、給与アップに踏み切れないケースがあります。
ただし、賃金アップが見込めないと、今後は人材確保が難しい状況に陥ってしまいます。給与がアップした大手企業と比較して、経営状況が悪化する会社が出てくるかもしれません。
賃上げされない企業のリスクとは?
賃上げが経営上難しい企業がいるのも事実ですが、従業員の給与を上げていかないと、人材の確保は難しくなることが予測されます。
物価が上昇しているなかで給与が上がらない状況だと、優秀な人材は条件のいい会社へ転職する可能性が高くなります。また新入社員を入れたあとの教育にかかる時間やコストを考えると、賃上げにかかる費用より高くなるかもしれません。
ほかにも、就活サイトには企業の口コミを載せられるため、給与水準が他社より低いと知れわたると新規採用にも影響が出てきます。
ITツールの導入による生産性の向上や、商品サービスへ付加価値をつけて仕入コストの上昇分を価格へ転嫁できるよう見直す必要性が高くなっています。
価格転嫁と賃上げを実施できる企業が生き残る時代へ突入する
わたしたちは賃金や物価が上がらない時代を長く経験してきましたが、33年ぶりの記録的な賃上げを受け、世の中が大きく動き出しそうです。
大企業に続くよう中小企業でも従業員の給与を上げていかないと、離職につながる可能性が高くなります。また同時に個人としても一つの会社で働き続けるより、世の中の変化に合わせて、転職や独立を視野に入れる必要性が高まってきたと感じます。
アメリカをはじめとする世界では、給与や待遇の向上をもとめて転職や独立するのが一般的ですが、日本でも似たような社会構造へと変化するかもしれません。
変化の激しい現代において、価格転嫁と賃上げを実施できる企業が生き残る、弱肉強食の時代へ突入したと言ってもいいのではないでしょうか。