NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)への関心が高まっています。
ですが、NISAやiDeCoの前に、忘れてはいませんか? あなたの勤務先では、「企業型DC」や「401K」と呼ばれる「企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)」の制度が導入されていないでしょうか。
NISAやiDeCoの前に、企業型確定拠出年金に向き合おう
せっかく職場に企業型DCの制度があるのに、「難しくてよくわからない」と、積極的に向き合っていない方をお見受けします。例えば、企業型DCで加入時のまま元本確保型商品のみを選択していたり、加入者が金融商品を選択しない「指定運用方法」になっていたり。さらには、企業型DCは放置しているのに、なぜかブームに乗って「NISAだ」「iDeCoだ」と大騒ぎしているような方もいらっしゃいます。
もったいないですよ。まず企業型確定拠出年金を見直しましょう。
企業型DCは、勤務先が実施している、従業員の老後の生活資金を準備する制度です。掛金のみならず手数料も勤務先が払ってくれます。NISAやiDeCoと違って、実質的に自分のフトコロを傷めずに資産形成ができるのです。
老後まで資産を引き出せないので、必然的に長期投資になります。しかし長期投資のおかげでリスクを低く抑えることになりますし、何より目先の動きに一喜一憂せずにすみます。また、運用資産の状況は、定期的に運用レポートが作成されます。これを活用すれば、投資を学ぶ良い機会になるでしょう。定期的に運用状況をチェックすることで、資産と同時に経験も積み立てられるのです。
企業型DCの運用商品は6割が投資信託
確定拠出年金の運営管理機関連絡協議会が作成した「確定拠出年金統計資料(2023年3月末時点)」によれば、2023年3月末時点における確定拠出年金の加入者は1,095万人。そのうち企業型DCの加入者は805万人で、個人型(iDeCo)は290万人です。どちらも年々増加していますが、人気急上昇のiDeCoより企業型DCの加入者の方が圧倒的に多いのです。
では、企業型DCに加入している人たちは、どのような金融商品を選んでいるのでしょうか。「確定拠出年金統計資料(2023年3月末時点)」によれば、約6割が投資信託を選択しています。【グラフ】の青系の部分が投資信託です。
「よくわからないから」派の方が選ぶ傾向がある預貯金は、全体の約4分の1です。預貯金は、すぐにおろす資金や、使い道が決まっていて減らしたくない資金の置き場として向いています。しかし、確定拠出年金は長い期間の運用です。長期間の資産作りには、山あり谷ありの経済環境を乗り越えながらでも、株式や債券などを組み入れた投資信託で運用する方が適しているといえます。
勤務先が企業型DCを導入しているなら、学びのチャンス
企業型DCを導入している会社に入社すると、資料と記入用紙が配布され、簡単な説明を受けるだけで「必要事項を記入して用紙を提出するように」と、指示されるがままにスタートするケースもあるようです。「運用商品は自分で選ぶこと」と言われても、難しくてよくわからないというのが本音なのでしょう。
筆者は、入社後の数年間は、資産を積み立てると同時に投資経験も積み立てて欲しいと思っています。勤務先が掛金を払ってくれるからといって、無関心ではいけません。自分事として向き合い、3年ぐらい経てば自分で運用商品を選べるようになるでしょう。
では、その最初の数年間、どのような運用商品を選んだら良いでしょうか。筆者は、学ぶ目的で、まずは「バランス型投資信託」をお勧めします。
バランス型投信は、1つの投信の中に複数の投資対象がパックされた、オールインワンの分散投資です。投資対象とは、国内株式、外国株式、国内債券、外国債券など。ほかに国内外の不動産投資信託(REIT)が入っている投信や、外国の定義を先進国と新興国に分けている投信もあります。配分の違いで数種類の投信が用意されているのが一般的です。
掛金で毎月バランス型投信を購入し、定期的に運用状況を見てみましょう。運用していく間に、投資対象によって好調・不調の差がついてきます。その期間、世界の経済はどうだったのか、為替や株価、金利はどうだったのか、と振り返れば、環境と運用状況の関係が理解できるようになります。複数の投資対象が組み込まれているからこそ、同じ期間にどの運用が良くてどれが悪かったのか、比較しながら学べるのです。
この積み重ねが、投資の勉強になります。勤務先が払ってくれている掛金で学ぶうちに、ご自身の好みや、ご自身に合った資産形成の方法が見つかることでしょう。するとNISAやiDeCoをスムーズに始めることができるはずです。
【参考資料】
「確定拠出年金統計資料(2023 年3月)」(運営管理機関連絡協議会)