野球好きが分析する「コーセーが大谷選手を起用して成功した」理由

2023年に当時ロサンゼルス・エンゼルスに所属していた大谷翔平選手がメジャーリーグで2度目のMVPを獲得しました。日本の野球ファンにとって、彼の活躍はまるでマンガのなかのストーリーなのかと勘違いするほどの成功譚です。一方で野球ファンがもっとも驚いたのは、化粧品メーカーのコーセーが大谷選手を起用し、全面的な広告を仕掛けたこと。ブランディング開始から約2年が経過して、大きく売上に寄与しているという報告もあがっています。


コーセーとは

コーセー(4922)は日本を代表する化粧品メーカーです。店舗や百貨店の1階などで美容部員が直接顧客と向き合い、個別アドバイスをする販売方法を展開しています。日本のほかにも1960年代の早期から中国、香港、韓国などのアジア市場に参入しているほか、いわゆるファンデーションとスキンケアの市場は同社が提唱したことで世の中に認知されたといわれています。



「雪肌精」の強さ

そのコーセーで最も知名度の高いブランドが「雪肌精(せっきせい)」です。1985年の発売開始以来、日本および中国で高い人気を誇る美白化粧品です。雪肌精に関しては、ドラッグストアでの販売が目立ちます。また2014年10月に化粧品が免税対象に加わったことにより、訪日観光客(インバウンド)による消費、いわゆる爆買いが大きな売上になっていました。2016年に中国政府が化粧品の関税を10%引き上げる対策により、いったん落ち着いた印象です。前後して同社は、中国国内におけるリブランディングを実施しています。


コーセーが大谷選手を起用した背景

コーセーが大谷選手の起用を発表したのは2022年12月です。あらたな顧客づくりを進めるにあたり、同社では3Gをキーワードとしました。


・3G … グローバル(Global)

・ジェンダー(Gender)

・ジェネレーション(Generation)


この活動を推進するため、世界で活躍し、年齢や性別を問わずファン層の広い大谷選手を起用したと説明されました。


メンズスキンケアの推進役ではない

興味深いのは、コーセーをはじめ化粧品各社が本腰を入れはじめ、かつベンチャー企業も進出著しいメンズスキンケアの領域においての起用ではないという点です。男性・女性という枠組みを超え、また特定の商品のプロモーション役を超えた起用は、業界の関係者やマーケティングの専門家を驚かせました。


運も味方しました。大谷選手との契約後、2023年の春に開催されたWBCにて日本は優勝を勝ち取ります。大谷選手は日本代表の牽引役となり、野球ファン以外にもあらためて存在感が広くアピールされました。新聞が実施したコーセーの小林社長へのインタビューによると、WBC期間中に店頭に来る男性は13倍に増えたとのことです。


男性にとって化粧品はメンズスキンケアのニーズのほかに、「贈答用」としての存在意義があります。どこか近づきにくい化粧品の世界に対し、大谷選手のイメージが潤滑油となったことは間違いありません。



野球選手×化粧品のチャレンジ精神

起用して成功した結果論のうえでの分析ですが、「野球選手×化粧品」のマーケティングはとても勇気がいるものだったと思います。そもそもスポーツ選手の起用自体が斬新です。そのうえで2022年前後であれば女子バスケットボールや卓球などの屋内競技の女性、もしくはフィギュアスケートなどの起用が「想像範囲」だったと考えられます。


すべてを超えて、直射日光を容赦なく浴びる野球の大谷翔平選手です。


もちろん野球選手のなかで、大谷選手は肌も白く、化粧品のコマーシャルに適任ではあります。ただ、あくまでそれは野球選手のなかでの話です。今回の起用が経営陣発案なのか、現場からの提案なのかは判明していませんが、多くの関係者の想像を超えた起用であったことがわかります。


ちなみに蛇足ながら、2023年の夏の甲子園で優勝した慶応高校の選手には、スキンケアをたしなむ男性もいるとのことです。先入観に拘っているうちに時代が変わっています。


競合は「もう大谷選手を使えない」ことの強み

結果、大谷選手のイメージは化粧品会社としてのコーセーのブランディングに寄与し、大きく売上に貢献しました。2024年のメジャーリーグのシーズンが始まり、ロサンゼルス・ドジャースに移籍した大谷選手、引き続き素晴らしい活躍が報じられています(開幕前にスキャンダルがありましたが)。


ドジャースは強いチームです。夏場を超え、秋口のポストシーズンに至ってもチームが勝ち抜き、宣伝効果が持続することに期待できます。また、2024年に結婚を発表し、かつ配偶者がプロバスケットボール選手のキャリアを持つことも話題を呼びました。さすがに夫婦共演の可能性は無いと思いますが、奥様を含めてのブランディングが構築されたことは間違いありません。


2023年以降、競合他社でも男性の起用が増えてきました。俳優や歌手が化粧品のブランディングを担っています。それでも、まさかの大谷選手を起用したコーセーの斬新さと、先行の早さは素晴らしく、他社は「もう大谷選手を使えない」ことを実感させられます。


独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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