日本銀行がマイナス金利政策を解除しました。その後預金の金利が引き上げられ、私たちの生活にも「金利のある世界」が訪れています。
折しも進学・就職シーズン。新社会人の中には、学生時代に奨学金を借りていた人もいらっしゃることでしょう。日本学生支援機構の貸与奨学金は、最後の貸与から7ヵ月後に返還が始まります。奨学金の金利は、日銀の政策と直接の関係はありませんが、市場金利が上昇していることによる影響は避けられません。
これから奨学金を申し込む高校生、現在借りて学生生活を送っている大学生、またその保護者にも知っておいて欲しい、日本学生支援機構の貸与奨学金の金利について、現状をお伝えします。
「もらえる」奨学金と、「借りる」奨学金、「利子をつけて返す」奨学金
まずは日本学生支援機構の奨学金の種類について簡単に説明しましょう。
政府による子育て支援の一環で、日本学生支援機構の奨学金制度は改正を重ねています。現在は、「給付(もらえる)奨学金」と「貸与(卒業後に返す)奨学金」の2種類があります。さらに貸与奨学金には、利子がつかない「第一種」と、利子をつけて返す「第二種」があります。
給付奨学金は誰でも受けられるわけではなく、「家計基準」と「学力基準」の両方を満たす必要があります。ひとことで言えば、学生を養う者の収入や保有資産が一定水準以下で、学生の成績が一定以上でなければなりません。
貸与奨学金のうち利子のつかない第一種奨学金も、給付型より緩やかであるものの、「家計基準」と「学力基準」が儲けられています。一方、利子のつく第二種奨学金は、収入の基準は「目安」であり、学習意欲があれば借りることができます。
そのため、多くの学生が受けている奨学金は、卒業後に利子をつけて返すタイプです。
奨学金の利率は「固定金利」と「変動金利」
ではここからは、貸与型で利子がつく第二種奨学金の利率について説明しましょう。
日本学生支援機構の奨学金は、大学や専門学校に進学する前年度の春が「予約採用」の申込時期です。進学先が決まっていなくても、もっと言えば進学するか就職するかが決まっていなくても、在学している高校を通じて予約採用の申し込みをするシステムです。具体的な申し込み日程は、高校によって異なります。
第二種奨学金の場合、この申し込み時に、返還する際の利率の算定方法を選択します(後で変更することも可能)。
算定方法の1つは「利率固定方式」、つまり固定金利です。貸与終了時(一般的には大学卒業時)に決定した利率が、返還完了まで適用されます。将来、市場金利が変動した場合も、利率は変わりません。
もう1つは変動金利の「利率見直し方式」。貸与終了時に決定した利率が、おおむね5年ごとに見直されます。返還中に市場金利が変動した場合、適用利率が変わります。
返還の際の利率は、日本学生支援機構が奨学金のために調達した財政融資資金や債券の利率が基になって決まります。毎月、その月に貸与終了した人の適用利率が決められます。この利率に関する金融市場の指標は、国内の長期金利(新発10年国債利回りなど)の動向が近いといえます。
実際にそれぞれの奨学生に適用される利率は、貸与終了後に、日本学生支援機構から通知されます。【グラフ】では、多くの学生が終了すると考えられる3月の利率について各年の推移を示しました。
一目でわかるほど、2020年3月の0.07%を底に、近年は上昇傾向が続いています。
前述の通り、奨学金の申し込みは進学前。一般的には高校3年生の春です。貸与利率が決まるのは奨学金の終了時で、一般的には卒業の年度末です。4年制大学で4年間貸与奨学金を借りた場合、奨学金申し込み時期から貸与利率が決まるまでには約5年のタイムラグがあります。
奨学金の利率の差で利子はどれだけ違う?
貸与奨学金の返還が始まるのは、最後の奨学金を借りてから7ヵ月後です。2024年3月に最後の奨学金を受け取った新社会人は、2024年10月から返還が始まります。4年制大学に通った奨学生の場合、通常は2020年度の入学だと思います。
奨学金の申し込み時期は、その前年。申し込み時の前に行なった返還金額の試算は、2019年3月の0.14%を使って求めたのではないでしょうか。それが卒業する頃には0.94%に。約7倍です。
では、利率の差は返還金額や利子総額にどの程度影響するのか、具体的に計算してみましょう。【表】で直近(2024年3月)の0.94%と、3月としては最も低い2020年の0.07%を使って比較しました。
返還期間と毎月の返還額は、返還総額に応じて、日本学生支援機構によって自動的に決まることになっています。
毎月5万円の貸与奨学金を4年間、合計240万円借りた場合、返還期間は15年。適用利率が0.94%の今年の新社会人は、毎月14,361円です。元本240万円と利子総額185,091円を返還することになります。
一方、2020年3月に卒業した奨学生は、同じように奨学金を借りていながら、毎月の返還額は13,407円で利子総額は13,426円です。
奨学金は、必要最小限の金額に抑える
利率の違いは、これほどまでに利子の額に影響します。とはいえ、5年先の金利動向を予測して奨学金を申し込むのは難しいことでしょう。また、学びたい気持ちがあって奨学金を借りるのが筋であり、金利動向をにらみながら奨学金を考えるのはおかしな話ともいえます。
ですが、未来の利率を決めるのは困難であっても、奨学金で借りる金額は自分でコントロールできます。
学校に納める金額は決められていても、学生生活にかかる遊びのお金や、アルバイトなどの収入、倹約を心がける生活スタイルは、自分しだい。奨学金の額が少なければ、返還金額も少ないですし、利子総額も膨らみません。同じ利率0.94%でも、毎月3万円を4年間借りた場合は、貸与総額が144万円。返還の年数が13年で、毎月の返還金額は9,851円です。返還総額が1,536,903円、利子総額は96,903円と、毎月5万円借りる【表】のケースよりかなり軽くなります。在学中に増額ができますので、あらかじめ少なめの金額で申し込んでおくのも良いかもしれません。
卒業後、20年にわたって奨学金を返還し終えると、年齢は40歳代を超えていることでしょう。13年で済めば、30歳代半ばで返還終了です。その頃、どのような生活を送っているかを想像してみてください。2万円前後の奨学金は、負担ではありませんか?
「奨学金は借りられるだけ借りよう」というのではなく、「奨学金は最小限に抑えて、社会に出る前に家計のやりくりも経験しよう」というスタンスで利用するのが良いのではないでしょうか。
【参考サイト】
●日本学生支援機構 https://www.jasso.go.jp/shogakukin/index.html