金利上昇局面でも上がる不動産株 その要因とは?

不動産株が堅調です。日銀は3月の金融政策決定会合でマイナス金利の解除を決定。実質的な利上げに踏み切りました。これを受けて日本の長期金利は足もとで上昇傾向にあり、会合前に0.75%前後で推移していた10年金利は4月17日時点で0.85%へと10ベーシスポイントも上昇しています。


一般に不動産関連銘柄は金利上昇時には売られるというのが通説ですが、逆に不動産株はマイナス金利解除以降、堅調に株価が推移しています。不動産大手の一角を占める住友不動産は4月12日に上場来高値となる6062円を付けたほか、三菱地所、三井不動産なども上昇が目立っています。一体、なぜ金利上昇局面でも不動産株が買われているのでしょうか。


住友不動産<8830.T>の日足チャート



その要因の一つが、不動産企業が抱える含み益の大きさです。前述した国内不動産最大手の一角である三井不動産は4月11日、新たな経営計画を発表。今度3年間で約2兆円の不動産を売却する方針を示しました。日本の大手不動産企業は東京の丸の内など都心の1等地に、多くの物件を保有しています。それらの物件は減価償却により簿価が下がる一方で、地価上昇などにより時価が上昇することで、その差である含み益が拡大しています。


3月には国土交通省が公示地価を発表し、全国平均(全用途)で前年比2.3%のプラスとバブル崩壊後で最も高い上昇率となったことが話題になりました。こうした外部環境も手伝って上場企業の保有する含み益は一説によれば20兆円超にのぼるとの試算もあるようです。


三井不動産が開発した「東京ミッドタウン」などでは直近の市場価格から推定すると含み益が3000億円以上になるとの見方があります。また、三菱地所が保有する「丸の内ビルディング」は、古いだけに減価償却が進んでおり、含み益は5000億円近いとするアナリストの声もあります。


これら含み益を不動産の売却などにより実現益としていくというのが、前述した三井不動産の示した新たな経営計画の内容なわけです。これは今後の業績拡大そして得た利益による株主還元に期待したくなるというものですよね。


三井不動産<8801.T>の日足チャート


不動産株上昇のもう一つの理由は、こうした不動産企業の資産効率化の動きに期待したアクティビストの存在です。いわゆる「物言う株主」とも呼ばれる彼らですが、先ほどから何度も話題にしている三井不動産では、エリオット・マネジメントと言われるアクティビストが三井不動産株を保有し、さまざまな要求を提案しています。


例えば、三井不動産が保有するオリエンタルランド株を売却し株主還元に充てるべき、と言ったような要求をこれまで行ってきました。実際にその一部は現実となっており、2024年に入って三井不動産は自社株買いについて発表したり、オリエンタルランド株を一部売却したりしています。こうしたアクティビストの存在が企業に緊張感を与え、株主還元姿勢の強化につながっている一面はあるでしょう。


3つ目の要因はインフレです。国内の物価が上昇を続け、さまざまなものの値段が上がっていく一方、賃上げの動きも活発化しています。いまはまだ物価の上昇が賃金の上昇を上回り、実質賃金が低下する状況が続いていますが、この先、賃金の上昇ペースが上回り、かつ物価と賃金の上昇の好循環が継続すれば、日本は本格的にデフレ脱却への道を歩んでいくことになるでしょう。それは不動産価格も今後上昇基調が続くことを意味します。不動産企業には追い風の状況と言えるでしょう。


不動産企業はいま、大きな転換点を迎えつつるのかもしれない。そんな期待が株価を押し上げているのかもしれません。


日本株情報部 アナリスト

斎藤 裕昭

経済誌、株式情報誌の記者を経て2019年に入社。 幅広い企業への取材経験をもとに、個別株を中心としたニュース配信を担当。

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