【米国株インサイト】クリーンエネルギー(前編): 米国でも着実に成長、「もしトラ」なら影響注視

2024年11月に投票が行われる大統領選挙を前に民主党と共和党は年明けから予備選挙を行ってきました。このうち共和党はトランプ前大統領が序盤から連勝し、指名争いに決着をつけています。7月の党大会で正式に共和党の大統領候補に指名される予定です。


世界中が「もしトラ」に身構える中、米国の産業という目線で考えた場合、クリーンエネルギーセクターへの影響が注目されそうです。というのもトランプ氏は地球温暖化対策の国際的枠組みを軽視するというよりも敵視するという感じで、実際に前回の大統領の任期中に「パリ協定」から離脱しました。2021年1月に民主党のバイデン政権が誕生すると即座に復帰の手続きを取り、翌月に再加盟を果たしましたが、「もしトラ」が実現すれば国際協力軽視のリスクは再燃しそうです。


先ごろにはバイデン政権が米国の液化天然ガス(LNG)輸出の新規許可を凍結したことで波紋が広がりました。地球温暖化など環境への影響を盛り込んだ新たな審査基準を策定する方針を示しましたが、これに猛反発したのが石油業界とトランプ氏です。トランプ氏は大統領選挙の公約に「新規許可凍結の解除」を掲げています。


米国でも再生可能エネルギーを重視する流れ

ただ、米国でも再生可能エネルギーを重視する流れは強まっています。米国のエネルギー情報局(EIA)が発表したリポートによると、2023年の国内発電量は前年比1.4%減の4兆182億キロワット時(kWh)で、電源別の内訳では石炭が19.4%減の6660億kWhと縮小する半面、太陽光が13.6%増の1623億kWhに伸びています。


風の状況に左右される風力発電は1.4%減の4281億kWhとなりましたが、発電能力自体は段階的に増強されており、今後も伸びると見込まれています。化石燃料の中では環境負荷が小さいとされる天然ガスが6.9%増の1兆6914億5472万kWhでした。


EIAは今後について再生可能エネルギーの存在感が一段と高まると予想しています。2025年の電源別発電量の予想では、太陽光発電が2868億kWhに達し、2023年比で76.7%増えると見込んでいます。風力発電が同10.1%増の4713億kWhに達する半面、石炭火力発電が14.3%減の5705億kWhに落ち込む見通しです。


再生可能エネルギーへのシフトは後戻りできない段階に達しており、トランプ氏が再登板した場合でも国内の電力供給に関して時計の針を逆回転させるのは難しいと予想されます。今回は再生可能エネルギー事業を手掛けるクリーンエネルギー関連の銘柄をご紹介します。


ネクステラ・エナジー、北米で最大級の電力会社

ネクステラ・エナジー(NEE)は北米で最大級の電力会社です。時価総額は5月7日時点で1478億ドルに達しており、S&P500の公益セクター30銘柄の中で時価総額が1000億ドルを超える唯一の銘柄です。


主力は傘下のフロリダ・パワー&ライト(FPL)を通じてフロリダ州で展開する電力事業です。発電、送電、配電を総合的に手掛けています。2023年末時点のフロリダ州での送電線の総延長は9万マイル(約14万4841キロメートル)、変電所の数は883カ所です。


フロリダ州では一般家庭と商業向けに都市ガス事業も手掛け、電力事業を合わせた顧客数は590万件。約1200万人にサービスを提供しています。



2023年末時点の発電能力は3万3520メガワット(MW)で、自社が所有する設備の発電能力はうち3万3276MWです。電源別では天然ガス発電の2万4254MW、太陽光発電が4803MW、原子力発電が3502MWの順で続きます。


FPLは2019年に同業のガルフ・パワーを買収し、2021年に吸収合併して業容を拡大しています。FPLの事業が2023年12月期の売上高に占める比率は65%、純利益に占める割合は56%です。


FPLは太陽光発電の比率が比較的高く、石炭火力発電からの撤退を進めるなど環境配慮型といえそうですが、本格的なクリーンエネルギー事業は傘下のネクステラ・エナジー・リソーシズ(NEER)を軸に展開しています。


NEERは米国とカナダで再生可能な電源を用いた発電事業を手掛けており、発電能力は3万600メガワット(MW)です。米国では41州に発電設備を持ち、発電能力は計3万80MW、カナダでは4州で520MWです。


電源別の発電能力では風力発電が2万147MWに上ります。全体の66%を占めて最大で、以下は太陽光発電が19%、原子力発電が7%、天然ガスを含むその他が8%です。



また、電池貯蔵事業にも投資し、貯蔵容量は2624MWに上っています。この事業では再生可能エネルギーを生産する事業者と提携する取り組みにも積極的です。アリゾナ州では電気と水道を供給する公益事業者、ソルト・リバー・プロジェクト(SRP)と提携。2023年12月には太陽光で発電した電力を貯蔵する取り組みを始動させています。


クリーンエネルギー事業の2023年12月期の売上比率は34%、純利益比率は44%です。現状では売上高や利益が不安定ですが、大きく伸びるポテンシャルを持つ事業分野といえそうです。


クリアウェイ・エナジー、再生可能エネルギー事業を展開

クリアウェイ・エナジー(CWEN)は再生可能エネルギーを中心に発電事業を展開しています。2023年末時点の発電能力は出資比率に基づく権益ベースで8451メガワット(MW)です。


2022年に親会社であるクリアウェイ・エナジー・グループの株式50%を買収したフランスのエネルギー大手、トタルエナジーズが主要株主に名を連ねています。


内訳は風力発電が3658MW、太陽光発電が分散型を含めて2321MW。合わせて5979MWに達しており、再生可能エネルギー事業者としては米国でも最大級です。比較的環境負荷の小さなガス発電を含む従来型設備の発電能力は2472MWです。



2023年12月期の業績は売上高が前年比10.4%増の10億6500万ドルに達しましたが、前年同期に12億9100万ドルの売却益を計上した反動で、純利益は86.4%減の7900万元に縮小しました。


セグメント別では、再生可能エネルギー部門の売上高が28.4%増の8億9400万ドル、営業利益が1億6400万ドル(前年は100万ドル)と好調でした。従来型発電部門は売上高が0.7%増の4億2000万ドル、営業利益が30.5%減の1億3700万ドルと減益です。


中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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