著名人詐欺からお金を取り戻すことができるのか。強制執行と被害回復分配金について

金融や資産運用の専門家になりすまして、SNS上で現金を集める「著名人詐欺」の被害が拡大しています。2024年4月15日のNHKの報道によると、2023年の1年間における東京都内での被害は少なくとも210件、被害額はおよそ38億円に広がったことがわかりました。2024年は、更に大きな被害が出ているとの報道もあり、被害の拡大が懸念されています。


詐欺で取られたお金は戻ってくるのか

詐欺事件は警視庁をはじめとした警察当局も本腰を入れており、日々検挙のニュースが報じられています。ただ、犯人が捕まったからといって、即座に詐欺の対象となったお金が戻ってくるものではありません。警察が動く刑事事件と異なり、お金は民事事件として裁判所に提起し、裁判所での交渉を経て判決を獲得し、お金が戻ってきます。


詐欺ではありませんが、筆者も最近、民事訴訟を経験しました。お仕事の不払いが原因でした。裁判所に訴えたものの、申し訳ないですが司法当局の対応は遅々としていて、「今回の提議に対し異論は二か月後(の裁判期日にて)」「反応があるならまた2カ月後」といったペースで進んでいきます。とても、家計で必要なお金を迅速に取り戻すといった前提には立っていないものです。なお筆者のケースは裁判所が判決を出したあとも相手方が支払わず、強制執行にて取り立てるという結末でした。その手続きにも更に数ヶ月がかかります。


著名人詐欺では、数十年の社会人生活で貯めた老後資金を、何とか殖やしたいがために投じてしまったという人も多いでしょう。民事裁判を経て強制執行を進める現行の手続きは、その焦りをあざ笑うかのようなスローペースで進行していきます。



被害回復分配金の支払い制度とは

民事裁判、強制執行に長い時間がかかるなか、代わりとなる方法となるのが「被害回復分配金制度」です。別名、振り込め詐欺救済法といわれることもあります。


参照:一般社団法人 全国銀行協会 


この法律は所定の手続きを経て、詐欺行為にて振り込んだ口座の残高を「回復」することを目的としています。


(被害回復分配金制度の仕組み)


 

引用:金融庁


民事裁判によるプロセスとの最大の違いは、裁判所が絡まないことです。また、被害の報告と金融機関による債権消滅・口座凍結が行われるため、民事裁判のように「判決を出したからあとは取立てしてください」といった段階的な手続きではありません。


被害回復分配金制度の注意点

被害回復分配金制度には、複数の注意点があります。


支払い手続き完了には90日以上かかる

犯罪に利用されていた口座の凍結効果があるものの、口座からお金を引き出すには権利を失わせるために60日以上、支払いの手続きに30日以上の日数を要します、よって、少なくとも90日以上の時間が必要です。


振込手続きによらない詐欺は補償の対象とならない

現金を犯人に手渡ししてしまった。または現金書留で郵送してしまったなど、振込手続きによらない詐欺は対象となりません。


犯人が預金口座からお金を引き出してしまうと救済が受けられない

被害者救済の対象となるのは、あくまで「口座に入っているお金」です。犯人がお金を引き出してしまった場合は、救済の対象とならないため注意しましょう。


3つ目は民事裁判、および強制執行においても大きな問題です。裁判所は判決によって「〇〇は△△に支払え」と命令を出すものの、その後の口座番号の調査や口座凍結に関与することはありません。実際に判決の出たうちの何割かが強制執行でも資金が戻ってくることなく、「泣き寝入り」の状態になっていると指摘されています。また、一連の手続きには弁護士に依頼するため、依頼料も大きなものとなります。


結局は入り口を止めるしかない

被害回復分配金がことのほかメディアで取り上げられない理由がわかります。結局のところ、被害者の資金の回復は長い時間と、「あとは被害者サイドで労力をかけて」という姿勢に被害者側が疲労して動けなくなってしまうことです。


こう考えると救済の仕組みは不十分で、結局は入り口を止めるしか無いことがわかります。とはいえ投資は「ほかの方が気づいていない『ちょっと先に気づくこと』が勝ち筋であり、詐欺を仕掛ける側の巧妙さが歯がゆく感じられます。また高齢者など、判断能力がどうしても衰えてしまう人たちの被害が大きいのも、早急に対策が求められる部分です。これ以上詐欺被害が広がらないことを願いますが、入口も救済においても、対策が後手に回っている印象は否めません。

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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