円安が進むたびに、政府や財務省、日銀関係者から
「投機的な動きがあることは明らか」「為替はファンダメンタルズに沿った推移が重要」
等の発言が聞こえてきます。
このような発言を聞く度に不思議な気持ちになります。
そもそも、タンス預金よりも投資を促すような流れを政府も当局も作っています。
投資と投機にそれほどの差がないことで、その動きをけん制するのがおかしいです。
また、ファンダメンタルズという意味でも後述しますが、日本のファンダメンタルズが弱いので
円が売られるのは当然のことです。
ニューヨークのラーメンは高くない
そもそも、円安の背景の一つに日米金利差があります。
日本だけ何十年にわたり低金利でしたが、低金利の理由は非常に簡単で
日本経済が停滞、景気が低迷しているからです。
給料が上がらないことで、消費意欲も向上しない、物価も上がらないので、金利も上がりません。
経済協力開発機構(OECD)のデータでも、日本だけ30年以上に渡り給与総額がほぼ横ばいでした。
テレビなどでニューヨークのラーメンが何千円もすると報じられています。
一風堂のラーメンを調べてみると一番スタンダードなもので14ドル程度。
これに9%弱の税金を足して15.2ドルくらい。日本円では2365円となります。
ニューヨーク州の最低賃金が16ドルで、2480円なのですから、1時間の最低賃金でも足ります。
一方日本で同じものを食すと850円程度ですので、東京都の最低賃金が1113円で足ります。
若干パーセンテージからすると、NYの方がやや高いかな、という程度です。
仮にほかのラーメンがNYで3000円だとすると、NYの最低賃金2480円のの約1.2倍です。
東京都の最低賃金の1.2倍は1335円ですので、東京でも少し高めのラーメン屋で
チャーシューを追加したら1335円くらいになるので、ニューヨークのラーメンも高くはありません。
以上最低賃金をベースに、ニューヨークと東京のラーメンを比較しましたが
ニューヨークのラーメンは決して高いわけではなく、日本の賃金がいかに低く
円がそれだけ価値が低いかということを示しています。
日本のファンダメンタルズが弱いから円が売られる
このように、30年以上にわたり賃金が増えない中で、日本のファンダメンタルズの弱さは
最近の経済指標でも明らかです。
3月の毎月勤労統計の現金給与総額は予想を下回る僅か0.6%となり、
物価変動を加味した実質賃金も過去最長の24カ月連続のマイナスとなっています。
先週発表された1-3月期の実質国内総生産(GDP)も-2.0%となり
GDPの過半数以上を占める個人消費は-0.7%となり、4四半期連続でマイナスとなりました。
さらに、酷いのは税金が上がり、社会保険料が上昇していることです。いわゆる可処分所得の減少です。
可処分所得は、名目所得に税金と社会保険料の負担を引いた額になりますが、その負担である家計負担は
内閣府のデータによると2010年が23%台だったものが
2023年の7-9月期には28.4%まで上昇し過去最大となっています。
30年以上賃金が上がらない国で、更に2年にわたり物価の上昇より賃金上昇が低く
増税や社会保険料の家計負担が過去最大に増していることで、可処分所得が減少しているのですから
国民が消費に向かわないのは至極当然のことです。
これだけファンダメンタルズが弱いのに、政府や財務省から「ファンダメンタルズに沿った動きが重要」
との言葉をよく聞きます。
(しかし、あまり「今の円安がファンダメンタルズに沿っていない」との発言はあまり聞きません。
これは、政府も財務相も口では言えないが円安になっているのは、ファンダメンタルズに沿っていると
理解しているのかもしれません。)
また、賃上げが出来ない環境を作り、ましてや増税や社会保険料の負担を増やしたのは政府であり財務省なわけです。
「投機的な動き」などと発言しているのは、自らがファンダメンタルズを弱めたと認めることが出来ないことで
他者のせいにしているのではとさえ思ってしまいます。
政府による自作自演の円安の動き
円安がここまで進んだのにはファンダメンタルズだけが要因ではありません。
大きな円安となっているのが新NISA(少額投資非課税制度)の導入です。
金融庁はNISAは「成長資金の供給拡大を促しつつ、家計の安定的な資産形成をさらに推し進めていくことが目的」
としています。
国が率先して投資及び投機を促した政策ですが、このNISAは国内の株式市場等だけに資金が流れるのではなく
外国株式で運用する投信にも大量に資金が流れています。
海外へ資金が移動するわけですので、当然のように外貨が買われ、円が売られるわけです。
国が今年に入り率先して円安になる制度を導入しておきながら
いざ円安の進行が早まると円買い介入を行ったわけです。
他国中銀関係者からしたら、何をやっているんだ?というように当然思われているでしょう。
いわゆる自作自演による円安の進行と、円安を阻止しようという独り相撲状態です。
円安は投機筋が原因ではない
今回の円安の背景には、140円台からやたらと口先介入が行われてきた弊害もあります。
本邦実需勢も当局者からの円買いを阻止するような口先介入が入ると、
ドル円を買おうとしていたものが、介入期待で買うことが出来ず
その繰り返しで気が付いたら160円まで上がっていたという現状もあります。
円安を生んだのは投機筋ではなく、30年以上も賃金が上がらない政策
(むしろ派遣法などを含め賃金が打ち止めになる政策)
を繰り返し、増税、社会保障負担の増大で消費を喚起できなったことがあります。
また、円安を促す新たな政策(新NISA)、市場に誤解を与えるような口先介入などが円安要因と言えます。
この状況下で日銀が金利を引き上げることになると、短期プライムレートも上昇し、住宅ローンも上がります。
また、コロナ以後に有利子負債を多く抱えている中小企業などにも多大な影響を与えます。
ファンダメンタルズをさらに弱めた場合には、金利が上昇しても円安の流れが継続されるかもしれません。
ある面袋小路に入った円安相場ですが、円安の基本原因を知らないでやってはいけないと思われます。