やってはいけないこれだけの理由

第96回「ラーメン3000円も高くない、自作自演の円安を知らないでやってはいけない」

円安が進むたびに、政府や財務省、日銀関係者から

「投機的な動きがあることは明らか」「為替はファンダメンタルズに沿った推移が重要」

等の発言が聞こえてきます。


このような発言を聞く度に不思議な気持ちになります。

そもそも、タンス預金よりも投資を促すような流れを政府も当局も作っています。

投資と投機にそれほどの差がないことで、その動きをけん制するのがおかしいです。


また、ファンダメンタルズという意味でも後述しますが、日本のファンダメンタルズが弱いので

円が売られるのは当然のことです。


ニューヨークのラーメンは高くない


そもそも、円安の背景の一つに日米金利差があります。

日本だけ何十年にわたり低金利でしたが、低金利の理由は非常に簡単で

日本経済が停滞、景気が低迷しているからです。


給料が上がらないことで、消費意欲も向上しない、物価も上がらないので、金利も上がりません。

経済協力開発機構(OECD)のデータでも、日本だけ30年以上に渡り給与総額がほぼ横ばいでした。


テレビなどでニューヨークのラーメンが何千円もすると報じられています。

一風堂のラーメンを調べてみると一番スタンダードなもので14ドル程度。

これに9%弱の税金を足して15.2ドルくらい。日本円では2365円となります。

ニューヨーク州の最低賃金が16ドルで、2480円なのですから、1時間の最低賃金でも足ります。


一方日本で同じものを食すと850円程度ですので、東京都の最低賃金が1113円で足ります。

若干パーセンテージからすると、NYの方がやや高いかな、という程度です。


仮にほかのラーメンがNYで3000円だとすると、NYの最低賃金2480円のの約1.2倍です。

東京都の最低賃金の1.2倍は1335円ですので、東京でも少し高めのラーメン屋で

チャーシューを追加したら1335円くらいになるので、ニューヨークのラーメンも高くはありません。


以上最低賃金をベースに、ニューヨークと東京のラーメンを比較しましたが

ニューヨークのラーメンは決して高いわけではなく、日本の賃金がいかに低く

円がそれだけ価値が低いかということを示しています。


日本のファンダメンタルズが弱いから円が売られる


このように、30年以上にわたり賃金が増えない中で、日本のファンダメンタルズの弱さは

最近の経済指標でも明らかです。


3月の毎月勤労統計の現金給与総額は予想を下回る僅か0.6%となり、

物価変動を加味した実質賃金も過去最長の24カ月連続のマイナスとなっています。

先週発表された1-3月期の実質国内総生産(GDP)も-2.0%となり

GDPの過半数以上を占める個人消費は-0.7%となり、4四半期連続でマイナスとなりました。


さらに、酷いのは税金が上がり、社会保険料が上昇していることです。いわゆる可処分所得の減少です。

可処分所得は、名目所得に税金と社会保険料の負担を引いた額になりますが、その負担である家計負担は

内閣府のデータによると2010年が23%台だったものが

2023年の7-9月期には28.4%まで上昇し過去最大となっています。


30年以上賃金が上がらない国で、更に2年にわたり物価の上昇より賃金上昇が低く

増税や社会保険料の家計負担が過去最大に増していることで、可処分所得が減少しているのですから

国民が消費に向かわないのは至極当然のことです。



これだけファンダメンタルズが弱いのに、政府や財務省から「ファンダメンタルズに沿った動きが重要」

との言葉をよく聞きます。


(しかし、あまり「今の円安がファンダメンタルズに沿っていない」との発言はあまり聞きません。

これは、政府も財務相も口では言えないが円安になっているのは、ファンダメンタルズに沿っていると

理解しているのかもしれません。)


また、賃上げが出来ない環境を作り、ましてや増税や社会保険料の負担を増やしたのは政府であり財務省なわけです。

「投機的な動き」などと発言しているのは、自らがファンダメンタルズを弱めたと認めることが出来ないことで

他者のせいにしているのではとさえ思ってしまいます。


政府による自作自演の円安の動き


円安がここまで進んだのにはファンダメンタルズだけが要因ではありません。

大きな円安となっているのが新NISA(少額投資非課税制度)の導入です。

金融庁はNISAは「成長資金の供給拡大を促しつつ、家計の安定的な資産形成をさらに推し進めていくことが目的」

としています。


国が率先して投資及び投機を促した政策ですが、このNISAは国内の株式市場等だけに資金が流れるのではなく

外国株式で運用する投信にも大量に資金が流れています。

海外へ資金が移動するわけですので、当然のように外貨が買われ、円が売られるわけです。


国が今年に入り率先して円安になる制度を導入しておきながら

いざ円安の進行が早まると円買い介入を行ったわけです。

他国中銀関係者からしたら、何をやっているんだ?というように当然思われているでしょう。

いわゆる自作自演による円安の進行と、円安を阻止しようという独り相撲状態です。


円安は投機筋が原因ではない


今回の円安の背景には、140円台からやたらと口先介入が行われてきた弊害もあります。

本邦実需勢も当局者からの円買いを阻止するような口先介入が入ると、

ドル円を買おうとしていたものが、介入期待で買うことが出来ず

その繰り返しで気が付いたら160円まで上がっていたという現状もあります。


円安を生んだのは投機筋ではなく、30年以上も賃金が上がらない政策

(むしろ派遣法などを含め賃金が打ち止めになる政策)

を繰り返し、増税、社会保障負担の増大で消費を喚起できなったことがあります。

また、円安を促す新たな政策(新NISA)、市場に誤解を与えるような口先介入などが円安要因と言えます。


この状況下で日銀が金利を引き上げることになると、短期プライムレートも上昇し、住宅ローンも上がります。

また、コロナ以後に有利子負債を多く抱えている中小企業などにも多大な影響を与えます。

ファンダメンタルズをさらに弱めた場合には、金利が上昇しても円安の流れが継続されるかもしれません。


ある面袋小路に入った円安相場ですが、円安の基本原因を知らないでやってはいけないと思われます。

この連載の一覧
第100回「CPI後のFOMC、ドットプロントに織り込んだか吟味しないでやってはいけない」
第99回「南ア政局・・・これを知らないでランド取引はやってはいけない」
第98回「G7財務相・中央銀行総裁会議・・・結果を調べないでやってはいけない」
第97回「南ア総選挙、これを知らないでやってはいけない」
第96回「ラーメン3000円も高くない、自作自演の円安を知らないでやってはいけない」
第95回「利上げだけで円安が止まると思ってやってはいけない」
第94回「介入にも限界があることを知らないでやってはいけない」
第93回「スポーツ賭博もFXも①・・・バンプはやってはいけない」
第92回「毎回同じ理由で動くと思ってやってはいけない」
第91回「クロス通貨・・・どのように算出しているか知らないでやってはいけない」
第90回「FXの世界のギャンブル依存症・・・このような人はFXもやってはいけない」
第89回「カントリーリスク・・・混迷する世界情勢を知らないでやってはいけない?」
第88回「チャートポイントを信じますか?・・こんなチャート利用法はやってはいけない」
第87回「それって何の講演?・・・講演内容を知らないでやってはいけない」
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第84回「月のアノマリーはあるのか・・・その月の特徴を知らないでやってはいけない?」
第83回「中央銀行も変わる・・・マイナーチェンジを知らないでやってはいけない」
第82回「コンプライアンス・・・時代の移り変わりを知らずにやってはいけない」
第81回「こういう人はFXをやってはいけない③・・・利食えない人はやってはいけない」
第80回「こういう人はFXをやってはいけない②・・・損切りが遅い人はやってはいけない」
第79回「こういう人はFXをやってはいけない①・・・自分が正しいと思う人はやってはいけない」
第78回「なぜ年末は取引をやってはいけないのか・・・応当日の特殊事情」
第77回「今年1年は何をやったら儲かったか・・・反省せずに来年はやってはいけない」
第76回「昨年の値動きを忘れずにやってはいけない」
第75回「今年は今週でおしまい?・・・最後の2週間はやってはいけないこと」
第74回「実弾介入しか防げない・・・根強い円安基調でやってはいけないこと」
第73回「感謝祭相場・・・11月の特別事情を知らないでやっていけない」
第72回「要人発言を吟味しないでやってはいけないこと・・・介入は入らない?」
第71回「スイスフランの値動きを見ないで、やってはいけない」
第70回「10月の介入実績ゼロ、介入の噂だけを信じてやってはいけない」
第69回「下手な鉄砲は数撃っても当たるのか?・・・動かない相場の時は何をしてはいけないか」
第68回「中東紛争・・・過去とのFXの動きが違うことを考慮しなくてやってはいけない」
第67回「NZ総選挙を知らずにやるな・・・今日はNZドルに要注意」
第66回「米政治・次回は政府閉鎖も・・・FXも動く可能性あり」
第65回「月末は余裕がない人はやってはいけない」
第64回「ストライキ・・・舐めてはいけない経済への影響」
第63回「どうせなら格好よく言おう・・・こういえば通と思われる?」
第62回「NZ・10月総選挙・・・これを知らないでNZドルを取引してはいけない」
第61回「食料インフレ・・・国によって違うことを知らないでやってはいけない」
第60回「インフレ指標・・・これを知らずにやってはいけない」
第59回「夏枯れ相場でも手を出す3タイプのディーラー・・・やってはいけないのは?」
第58回「中銀は内容だけでなくスケジュールも異なる」
第57回「日銀?分からないときはやってはいけない・・・海外勢は理解不能」
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第52回「日銀の利上げ?・・・準備を怠らずにやってはいけない」
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第48回「歴史は繰り返す・・・過去の動きを忘れてやってはいけない」
第47回「政治的な動きを知らなくてはやってはいけない」
第45回「経済指標での動きを50/50と思ってやってはいけない」
第46回「常に知識・情報をアップデートしないといけない」
第44回「銀行の融資状況を知らなくてFXをやってはいけない」
第43回「雇用・CPI等から、新たな視点に変えないでやってはいけない」
第42回「フェドウォッチを見ないでFXをやってはいけない・・・年末は95%利下げ予想」
第41回「高金利通貨は各国の状況を知らないとやってはいけない」
第40回「金融危機はまだ去っていない、最良のCEOの言葉を無視してはやってはいけない」
第39回「ドットプロットとフェドウォッチのずれを判断しないでやってはいけない」
第38回「若者こそFX取引を・・・その2、やってはいけないでなく、やってほしい」
第37回「銀行の救済問題、詳細を把握せず取引してはいけない」
第36回「若者こそFX取引を・・・その1、やってはいけないでなく、やってほしい」
第35回「肌感覚を大切にしないでやってはいけない」
第34回「タカ派・ハト派を知らずやってはいけない」
第33回「政治家の発言を吟味して取引しないといけない」
第32回「ポンドドル、ポンド円の取引をやってはいけない」
第31回「新たに注目される指標を無視してトレードをやってはいけない」
第30回「次の日銀総裁の意向を考えないで、やってはいけない」
第29回「他の市場の動きを無視して、やってはいけない」
第28回「中銀の独立性がない国の通貨はやって(買って)はいけない?」
第27回「昨年は何の通貨をやってはいけなかったか?」
第26回「提供されているヒントを無視することを、やってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第25回「重要イベント前にポジションを取ってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第24回「12月にトレードをやってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第23回「スケジュールを見ないで取引をやってはいけない…先週なぜ大きく動いたか」
【やってはいけないこれだけの理由】第22回「金利上昇=通貨買いをやってはいけない」
【やってはいけないこれだけの理由】第21回「FOMC…乗り遅れない!今年のメンバーはもう忘れよう」
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【やってはいけないこれだけの理由】第14回「日銀介入に備える…その3」
【やってはいけないこれだけの理由】第13回「日銀介入に備える…その2」
【やってはいけないこれだけの理由】第12回「日銀介入に備える…その1」
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為替情報部 アナリスト

松井 隆

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットで活躍。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。 銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたって活躍。 2017年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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