中国現地Now!

「デジタル+アナログ」で発展する中国スマホ社会

外国人の姿が増えてきた上海


今年に入り、上海で外国人の姿が増えてきた気がします。インバウンド客で盛り上がっている日本ほどではありませんが、仕事などでの長期滞在者や大きな荷物を抱えた旅行者を街中や地下鉄駅などでよく見かけます。欧米人や東南アジア出身の方が多く、日本人はまだまだと言ったところ。それでも、ビザ(査証)を取得して中国に短期出張される方もいらっしゃいます。


さて、訪中時に戸惑ってしまうのは、何と言ってもスマートフォン(スマホ)の活用法でしょう。コロナ禍を経てスマホ社会がより一層パワーアップした感のある中国。通話やチャットはもちろん、キャッシュレス支払い、ネットショッピング、ライドシェアやフードデリバリー、レストランの予約、公共交通の利用、観光施設への入場など、大げさではなくスマホがないと何もできない世の中になってしまいました。便利な社会になったものの、外国人にとっては一筋縄では行かないシーンも見受けられます。


まずはキャッシュレス。以前はスマホアプリを現地の銀行口座や携帯電話番号などと紐付けなければ使えないケースもありましたが、最近では微信支付(WeChat Pay)や支付宝(アリペイ)などが国際クレジットカードにも対応し、かなり使い勝手が良くなりました。


今年4月、知人(日本人)が上海に出張でやってきました。日本出発前に微信支付と日本のクレジットカードを紐付け、準備万端です。初めての支払いはちょっとしたレストラン。恐る恐るQRコードを提示してみたところ、問題なく精算できたようです。その後は自信を持ってスターバックスでコーヒーを飲むなど、出張期間中は快適に過ごせたとのことでした。もちろん何が起きるか分からないので、財布に現金を忍ばせておいたと言っていましたが。


ただ、キャッシュレスは序の口です。今やあらゆる生活シーンでスマホが必須のため、様々な機能を使いこなせなければ置いてけぼりになってしまいます。


観光施設や博物館では、チケット売場が廃止されているところも増えてきました。入り口にあるQRコードをスマホで読み取り、入場(入館)手続きや支払いをセルフで行うシステム。何かトラブルがあれば、近くにいる係員がスマホ操作を手伝ってくれるのが救いでしょうか。「スマホを使えなければ(持っていなければ)アナログ方式でどうぞ」とはならず、「何が何でもスマホを使ってください。ヘルプは惜しみませんので!」のような感すらあります。


もちろん、人気観光地ではチケット売場も申し訳程度に設けられているのでご安心を。旅行の記念に紙のチケットを収集している方はこちらがおススメです。


 


結局電話で問い合わせ


もっとも、スマホが使えても最後はアナログ方式が必要になる場合もあります。ライドシェアを呼ぶ際、ホテルのエントランスなど分かりやすい場所なら問題ありませんが、駅や空港など混雑している場所、あるいは分かりにくい路地などでは、運転手と電話をしながら落ち合うこともしばしばです。


上海の空港(虹橋及び浦東)には、地下駐車場の一角に車寄せ的なスペースがあり、到着便が多い時は客と送迎車でごった返します。私もよく使いますが、何十台もある車の中からナンバープレート番号、そして車種及び色を頼りに、自分がオーダーした車を探し出すのはいつも難儀。せっかちなドライバーはすぐに電話をかけてきて、「どこにいる?」「もう着いたよ。早く来て!」とまくしたてます。私も「8番ゲートの辺りだよ」「黒い服を着ています」などと必死に伝え、ある意味“マッチング”を成立させようと努力します。地方に行くとドライバーの方言が聞き取れないこともあり、さらに相手をイライラさせてしまうのですが……。


フードデリバリーでもアナログ連絡をすることがあります。先日、旅行先のホテルで出前を頼んだ時のこと。品物を持ったデリバリースタッフかホテルロビーに着き、「配送ロボットに入れたから、ちゃんと受け取ってね」と電話してきました。ホテルでは、スタッフが直接部屋に届けたり、フロントや宅配ロッカーに預けるケースもありますが、最近はロボットでの配送が増えています。数分後、部屋にロボットが出前の品を無事届けてくれました。


ところが……開けてみると私がオーダーしたものとは異なる料理が入っていました(焼きそばを頼んだのに激辛串料理が届きました!)。戸惑っていると、デリバリースタッフから電話が来ます。「すいません。次の配送先の品を間違えて届けてしまいました。1階のロビーに持ってきて、交換していただけますか」――。


「返品」の場合はロボットは助けてくれません。自分で品物を持って1階に降り、やや慌てているデリバリースタッフと料理を交換しました。余談ですが、デリバリーの掛け持ちは当たり前。バイクに数個のお弁当を積み、いくつもの配送先を回るのも普通です。頼んだ品と違うものが届いたのは初めてですが、結局は中国語でスタッフと話したり交渉しないと問題が解決しません。「何でもスマホで」という一方、アナログ方式が重要な場面も健在です。


このようなスマホの重要性や会話の必要性を日本から来た出張者と話していました(冒頭の知人とは別人です)。ところがその方曰く、「実は……スマホを日本に置いてきたのです」。理由を聞いてみると、昨今の中国情勢や社会状況に鑑み、会社側からスマホやPCは携帯禁止と命じられたとのこと。少々やり過ぎかなとも思いますが、似たような話はあるので事情は理解できます。その出張者は、空港でレンタルしたガラケー(フィーチャーフォン)を使用せざるを得ないというオチ。便利な社会になりましたが、様々な理由でそれを享受できないこともあるようです。


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東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長

奥山 要一郎

東洋証券株式会社 上海駐在員事務所 所長 上智大学外国語学部イスパニア語学科卒。通信社、コンサルティングファームを経て、2007年東洋証券入社。本社シニアストラテジストを務め、2015年より現職。中国現地で株式動向のウォッチや上場企業取材などを行い、中国株情報の発信・レポート執筆を手がける。

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