世界的に環境保護の必要性が叫ばれる中、米国でも再生可能エネルギーを重視する流れは強まっています。米国のエネルギー情報局(EIA)が発表したリポートによると、太陽光の発電量は2023年に前年比13.6%増の1623億kWhに伸びています。
EIAは今後も再生可能エネルギーの存在感が一段と高まると予想しています。次期大統領の有力候補であるトランプ氏は前回の大統領の任期中に地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」から離脱しましたが、米国でも再生可能エネルギーへのシフトは後戻りできない段階に達しているとみられています。
前編では北米で最大級の電力会社であるネクステラ・エナジー(NEE)と再生可能エネルギーを中心に発電事業を展開するクリアウェイ・エナジーをご紹介しました。今回は太陽光発電システムの分野で事業を展開し、中国勢に対抗するファースト・ソーラー(FSLR)など3銘柄を取り上げます。
ファースト・ソーラー、太陽電池モジュールで奮戦
ファースト・ソーラー(FSLR)は太陽光発電に使う太陽電池モジュールの開発と製造を手掛けています。世界では中国勢が市場を席巻していますが、米国勢として奮戦し、牙城を守っている印象です。
多結晶シリコンまたは高純度の単結晶シリコンを使った太陽電池モジュールが主流という世界市場の趨勢に反し、ファースト・ソーラーは薄膜太陽電池モジュールを生産しており、この分野の世界最大手です。薄膜太陽電池モジュールは結晶シリコンを用いた製品に比べて発電効率は劣りますが、製造や加工が容易、軽量、高い耐熱性といった特徴も備えています。
ファースト・ソーラーは製品の開発から製造、応用まで垂直統合型のビジネスモデルを持っています。生産施設は米国3カ所に加え、マレーシアとベトナムに保有しており、2023年には新たにインド工場を稼働させました。2024年中に米国で第4工場を操業させる計画を進めるなど生産能力の増強に余念がありません。
研究開発では過去10年間で10億ドル以上を投資するなど製品の改良を積極的に進めてきました。太陽電池モジュールの出力と発電効率をはじめ、耐久性、生産効率、原材料コスト削減などに焦点を当てています。
研究開発の新たな試みとして、新型の薄膜と太陽電池モジュールのプロトタイプ製作機能を米国の研究開発施設内に設ける計画です。投資額は約3億ドルで、2024年中に完成する見通しです。
主要市場は米国で、2023年12月期の売上高の約96%を占めています。2023年末時点で米国の太陽光発電能力は約160ギガワット(GW)に上っており、政府は2027年までに発電能力を倍増させる方針です。
また、ファースト・ソーラーはインド市場の成長を見越して建設した工場を通じ、製品を安定的に供給する意向です。2024年1月にはインド南部のタミルナドゥ州に建設した工場への電力の供給を受けることで、インドの再生可能エネルギー事業者、クリーンテック・ソーラーと契約を結んでいます。
エンフェーズ・エナジー、マイクロインバーターを開発
エンフェーズ・エナジー(ENPH)は太陽光発電向けマイクロインバーターの開発を手掛けています。マイクロインバーターは直流を交流に変換する小型の電子機器で、パネルごとに取り付けます。複数のパネルをまとめて直流を交流に変換するパワーコンディショナー方式に比べ、システムダウン時のリスク分散やパネル増設の簡便さといったメリットがあるようです。
対象になるのは住宅や商業施設向けの太陽光発電システムです。エンフェーズ・エナジーにとっての主な市場は米国をはじめ、カナダ、メキシコ、欧州、オーストラリア、インド、ブラジル、フィリピン、タイ、南アフリカなどで、最新のマイクロインバーター「IQ8シリーズ」は合わせて21カ国に出荷しています。
マイクロインバーター方式は欧米で先行した経緯があり、エンフェーズ・エナジーも米国と欧州での売上比率が高いようです。2023年12月期の売上高全体に占める米国の割合は64%と地域別で最大です。また、オランダ1カ国で売上高全体の15%超を占めています。
一方、エンフェーズ・エナジーは太陽光発電システムの一環に位置づけられる蓄電池の開発も手掛けています。「IQバッテリー」貯蔵システムというブランド名で事業を展開し、北米をはじめ、ベルギー、ドイツ、オーストリア、オランダ、スイス、、スペインなどに出荷しています。
このほかにも電気自動車(EV)の普及を受け、チャージャーの開発も始めました。WiFiの通信機能を搭載して制御・監視能力を備えた「IQ EVチャージャー」を米国とカナダに投入しています。
エンフェーズ・エナジーのデバイスの設計やシステムの開発を手掛けますが、製造は外部に委託しています。電子機器の製造受託サービス(EMS)の世界的な大手であるシンガポールのフレックス、フィンランドのサルコンプ、中国の欣旺達などが製造を請け負います。
米国の上場企業の例に漏れず、積極的な買収を通じて業容の拡大を図っています。2018年には太陽光発電ソリューションを手掛けるサンパワーからマイクロインバーター部門を買収。2022年には家庭用のエネルギー機器を管理するソフトウエアの開発会社、グリーンコム・ネットワークスを買収しています。
サンラン、住宅用の太陽光発電システムを提供
サンラン(RUN)は米国で住宅用の太陽光発電システムの設計、開発、据え付け、販売、所有、保守などを組み合わせたサービスを提供しています。「to create a planet run by the sun(太陽で運営する地球を創る)」というビジョンを掲げ、太陽光発電の普及を後押ししています。
中核となるのは太陽光発電システムを一般家庭向けにリースする事業です。システム一式を一般家庭に貸し出す契約と発電した電力を割安な価格で購入してもらう契約を同時に結ぶケースが多いようです。一般家庭は太陽光発電システムを借り受けるのではなく、購入するオプションもありますが、そちらを選択するのは少数派ということです。
リース形式にすることで一般家庭には太陽光発電システム購入の初期投資負担をなくし、わずらわしい手続きを回避できるというメリットがあります。また、サンランが管理・保守を請け負うので、修理費用などの負担も回避できます。
こうしたビジネスモデルが支持され、サンランは着実に契約数を伸ばしています。2023年9月末時点のネットワーク全体の発電能力は前年同期比19.8%増の6462メガワット(MW)で、住宅の太陽光発電システムとしては米国最大を誇ります。顧客数は18.9%増の90万3270件に達しています。